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謎の男

仕事熱心な気前のいいおっさん騎士目線


牢屋に閉じ込められたというのに全く騒がず、ただじっと座ってこちらを見ていた男が小さくため息をついた。その落ち着いた様子に、俺は内心驚きを隠せなかった。


この男、いったい何者なのか。


男を初めて見たとき、妙な格好をしているなと思った。それからあまり見かけない髪の色だと。

今、尋問という形で男を観察していたが、瞳も珍しい色であることに気付いた。違法な物を取り扱っている場所に売れば、それなりの値がつくことが予想できる。


この男は現在、ある容疑がかけられている。男を殴り倒した後輩騎士は、なぜか犯人だと確信してるようだったが。殴り倒された男を担ぎあげた瞬間、小さく呻き声が聞こえたので意識はあったようだが、観念して大人しくしているのだと思いそのままここまで運んできた。降ろした後、腹部をさすっている様子を見て、なんだか悪いことをしてしまったと感じたのは気のせいということにしておく。


牢屋に入れてまず初めに名前を聞いたのだが、返事はない。話を聞く気がないのか、正直に答える気がないのか、どちらにしても無視されるのは傷つく。たとえ相手が犯罪者でも。


「おい、聞いてんのか?」


その言葉に今度は素直に頷いたものの、その顔はどこか頼りなさげでか弱そうな、まるで事情を呑み込めていない様子だった。もしかして、自分の置かれている状況が分かってないのだろうか。


「名前は?」


先ほどと同じ質問に対して、男はやはり困惑した様子で沈黙を貫いた。ただ首を傾げて俯いただけである。答える気がないのではなく、どう答えるべきか迷っているという印象だが、こちらはただ名前を聞いただけに過ぎない。素直答えられないにしても、普通は偽名を使う奴が多い。


男が罰を恐れているようには見えない。そして一連の事件の犯人だと思えない。こちらを見上げてくるその顔は、ただ状況を理解していないように感じる。これは長年の騎士の勘に過ぎないが。


説明しようと一度は口を開いたが、何をどこまで話していいものか分からず結局口を閉ざす。そもそも下っ端の俺には詳しいことまで知らされていない。俺より今回の件を把握しているだろう身分の高い後輩騎士は、上に犯人捕獲を報告しに行ったきり、ここに来る様子が全くない。怒りに身を任せて騎士らしくない振る舞いをしたというのに、その後反応がないとはどういうことだろうか。


さて、どうするか。


無理やり話を聞き出す、という手がないわけではない。大きな声では言えないが、実際そのような手段を用いて情報を引き出すことは俺にとって日常の一部だ。だがそれを目の前の男にしようという気が全く起きない。犯人だと思っていないからだろうか、と考えたがそれは違うだろう。これまで自分がどう考えていたとしても、命令さえあればどんな仕事であれ遂行してきた。


ならば何故、と考えていると廊下に複数の靴音が響いた。後輩騎士が誰か上の人間を連れてきたのだろう。そうすると俺はお役御免である。牢の中でこちらを見つめるこの奇妙な男ときちんと話をしてみたかったなと残念に思い、そしてそんなことを思った自分に驚いた。


今日の自分は何かおかしい。こんな日は早く帰って寝てしまおう。


頭の中でこの後の仕事を確認しながら、俺は靴音を響かせる人物が現れるのを待った。




早く帰れるとはいってない。


傷つきやすいお年頃。

経験により察するのは得意。

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