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おっさん騎士

登場人物の名前考えなきゃ!!(遅い)


「お前、名前は?」




俺は道を歩いていたと思ったら、いつのまにか牢屋にいた。


何を言っているのか(以下略)。




自分の理解を超えた状況に陥ると現実逃避してしまうの、やめたい。

俺の悪癖はさておき、これはいったいどういうことか。誰でもいいから説明してくれ。


『やだあ、もう。』


ただし神、テメーはダメだ。


脳内再生される自称神の声を抹消し、目の前の人物に注目する。先に一言注意しておくと、俺は人物を細かく描写することが苦手だ。人の顔とか名前とか全然覚えられない。だから今目の前にいる人物を表すとしたら、RPGなどで登場する「仕事熱心な気前のいいおっさん」である。だがそんな外見とは裏腹に、俺は問答無用で牢屋に入れられてしまった。


唯一分かったことは、この世界の言葉が理解できるということだ。所謂異世界転移特典ということだろう。ただ、言葉が聞き取れたからといってきちんとコミュニケーションがとれるかというとそうでもない。だからこそ、こんな状況に陥っている訳だが。


事の発端は数時間前。

俺が適当に道と呼べるのかわからない道を歩いていると、前方から馬に乗った男が2人近付いてきた。この時すでに嫌な予感はしていた。なぜなら、その2人は一目で騎士とわかるような格好をしていたし、俺を見ると親の仇を見つけたかのような勢いで近付いてきたからだ。厄介事の匂いがプンプンだ。

どんな言い掛かりをつけられるのかと思い身構えていたら、馬から降りた若い方の男に問答無用で殴られた。インド人もびっくりである。あ、インド人が暴力的だという訳ではないのであしからず。

突然の肉体言語による対話に俺が倒れたまま頭上に「?」を無数に浮かべていると、気を失ったと思ったのか俵担ぎにされてお持ち帰りされた。どこに連れて行かれるのかと思いきや、放り込まれた先は石造りの牢屋でしたとさ、めでたしめでたし。


って、全然めでたくない。もし俺が編集者で、こんなところで終わる小説が持ち込まれたら絶対にボツにする。そして目の前で原稿を燃やしつくす。その上でこんな話を書いた作家は出入り禁止にするだろう。

むしろ俺にとっては始まってすら欲しくなかった話ではあるが、それはもう諦める他ない。


人生初の俵担ぎ体験で、体中のものが口からリバースしそうだったのを辛うじて我慢したことは、自分で自分を褒め称えたい。もし全てを出し切っていたら俺は確実に死んでいた。肉体的な意味でも精神的な意味でも。ちなみに気絶したふりをしたのは、意味わからん状況すぎて面倒だと思ったからなのだが、もしかしなくても自分で歩いたほうがマシだったかもしれない。


そんな俺の初体験を奪った騎士らしき男が、今目の前にいる「仕事熱心な気前のいいおっさん」である。肉体言語を使って俺と対話しようとした若い男は途中でどこかへ行ってしまった。関係各位に報告でもしているのだろう。


「おい、聞いてんのか?」


先ほどの言葉を無視されたと思ったのか、というか俺が現実逃避により返事をしなかったからであるが、男は機嫌が悪いことを隠そうともせず再び声をかけてきた。ここは素直に頷いておく。


「名前は?」


二度目の質問に、俺はやはり頭を悩すことになった。


さて、どうしようかな。


素直に話すべきだとは思う。思うがしかし、自分の名前が思い出せない。

最初の質問に対して図らずも無視してしまったのは、何故か自分の名前が分からずパニックになったが故の現実逃避であった。確かに人の名前覚えるのは苦手だったけれども、自分の名前すら忘れてしまうとは思わなかった。


分からないものは答えられない、答えられないのものは仕方がない。したがって、日本人が得意とする愛想笑いを浮かべ、自分が困っていることを伝えるために首を傾げてみた。しかしこの仕草が間違いであったことにすぐに気付いた。


床に座っている自分と、牢の外で立っている男。完全なる上目使いである。


女子供ならともかく、首を傾けた男が上目づかい見つめてくる姿を客観的に想像して、吐き気を感じて下を向いた。テラキモス。


答えるまで待つつもりなのか、不機嫌オーラを出しながらも無言を貫く男。それに対して、未だ一言も話そうとしない俺。つまり何が言いたいのかといえば、気まずい。どのくらい気まずいかといえば、密室で友達の友達と2人きりにされた時くらい気まずい。何か話さなければとは思うものの、話したところでただ自分が焦っていることを伝えるだけになってしまう気がしてならない。そもそも何故俺がこんな扱いを受けているのか全く見当もつかないのに、不用意なことを喋るわけにもいかない。そっちから別の質問をするなり、現状を説明するなりして下さい、という願いを込めてちらっと男を覗き見る。そんな自分の姿、テラキモス。


俺の願いが通じたのか、男は口を開いた。何かを言おうとして一瞬固まったと思いきや、口が再び閉じられた。その後もパクパクと金魚のまねをして、何か言いづらいことなのかと思いつつも黙って見ていたが、結局男が声を発することはなかった。


未だ続く沈黙。流れる気まずい雰囲気。




この面倒事イベントはいつまで続くのか、俺は小さく息を吐いた。




主人公の初体験(意味深)を奪った仕事熱心な気前のいいおっさん騎士目線が次話に入ります。

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