家作り七日目「またお前か」
雲一つない快晴。
ピピピと小鳥がさえずり、村人はせっせと畑仕事をしている。
そんな村の一角、元王国騎士のガイウスが購入した土地では。
「う、うぅ、グスッ」
ドラ子が泣きながら正座させられていた。
首には「私は役立たずです」と書かれた板をぶら下げている。
そのドラ子の前にはガイウスが仁王立ちしていた。
「おい、ドラ子。何で自分が怒られてるのか分かってるよな」
「うぅ、ばぁい」
「まず始めに、木を採りに行った時だ。山までの移動手段としてお前に乗って行ったな。うん、それは楽だった、ありがとう。けどなぁ、その最後だよ問題は」
俺とジョージは元の姿に戻ったドラ子の背中に乗り、山へと向かった。
で、目的地に着いたとドラ子に合図したら。
「何で背中に人がいるのに急降下すんだ!そのせいで空高くから放り投げられて危うく死ぬとこだったろうが!」
「ご、ごべんなざい。わずれてたのじゃ」
なんとか木をクッション代わりにして怪我は免れたが。
ジョージは魔法で着地してたが、直前までパニクって鼻水が出てたし。
「まあ、いいさ。それは置いとくとしてだ。次だよ。木を切ることになってだ。それで、ドラ子。お前はどうした」
「ぞ、そこで前のミスを挽回しようと、がんばったのじゃ」
「うん、その心意気は賞賛するよ。でもな・・・尻尾振り回して、そこら一帯の木を全部へし折る奴があるか!限度があるだろ」
突如ドラ子自慢の尻尾を振り回し、木々がそこだけ丸裸に。やり過ぎだ。
上空から見るとまる分かりで、ジョージはそれを見て十円ハゲみたいなどと言っていた。
その木を放置する訳にもいかず、三度往復して村へと運ぶことに。
「まあ、これもまだいい。最後だよ。一番の失態は。3度目の往復する時自分に任せてくれって言って、ドラ子1人で木を運びに行ったよな」
「う、うぬぅ」
「そりゃ迷ったけど、3度目くらいは一人で出来るだらうと思って、ドラ子信じて任せたさ。心配しながら待ってて、お前が無事に帰ってきたのを見た時はホッとしたし、成長したし褒めてやんなきゃな、とも考えたさ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『持ってきたのじゃー』
「お、ドラ子か。オッさん、無事戻って来たみたいだぞ。おーい、ドラ子こっちだー!こっちに木を降ろせー」
ドラ子の姿を確認したジョージが、木を置くポイントで手を振る。
ドラ子はジョージの指示に従いながらホバリングして
ゆっくりと降りてきた。
・・・きたのだが。
「ガイウスさーん。クッキー焼いてきましたよー」
『クッキーじゃ!』
ボフンと。
バケットを持ったリーナちゃんのクッキーという言葉を聞いたドラ子がホバリングの途中で人の姿に変身しリーナちゃんの元へと飛んでった。
突如空中で支えを失った大木は重力に従い落ちて行き、
「え、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジョージーーーー!」
下にいたジョージに木々の雨が降り注いだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「クッキー欲しさに我忘れてんじゃねえ!それでもドラゴンか!」
「じゃ、じゃってぇ」
「だってじゃねえ!ジョージ見てみろ」
「あわ、あわわ・・・木が一本、木が二本」
「あまりの恐怖でキャラが崩壊してるだろ!そもそもジョージじゃなかったら怪我するところだぞ」
「ガイウスさん。怪我じゃすみません、普通は死にます」
リーナちゃんが冷静にツッコミを入れてくる。
ジョージは何とか全部木を避けたのだが、そりゃ一つ一つがバカ重い木が降って来たんだ。怖くない筈はない。
現在ジョージはキーコの看病を受けている。
「う、ひっく、ごべんなざい。次からはせんがら、追い出さないでぼじいのじゃぁ」
「ガイウスさん、そろそろ許してあげても」
ドラ子が涙声で頭を下げて謝り、リーナちゃんがドラ子へ救いの手を伸ばす。
俺はしばしドラ子を睨んで黙っていたが、
「・・・はぁ、ったく。ほらドラ子、立て。休憩にするぞ」
その俺の言葉にドラ子はガバリと顔を上げた。
「ゆ、許してくれるのか?ここから追い出さないでくれるのか?」
「追い出すかよ、こんぐらいで。ガキのしたことにそこまで目くじら立てて、約束破らねえよ。まあ、説教はするがな。次からは気をつけろよ」
「う、うぬ!」
説教もひと段落ついたところだし、そろそろ飯にするか。
俺は未だ覚めないジョージの頬を叩く。
「ほら、ジョージ。起きろ〜」
「はっ!俺は一体何を?」
うん、大丈夫そうだ。
視線を戻すとドラ子がクッキーを食べようとして、リーナちゃんに手を洗いなさいと注意されている。
現在のドラ子の服はリーナちゃんのお下がりをリーナちゃんの親御さんから頂いた物だ。
村人達にドラ子のことを説明した時は、予想通りというか少し場が騒然とした。
しかし、村長の、
『別に大丈夫でねえか』
の一言で何故か収まってしまった。
おい、それで良いのか村長、それでいいのか皆。
まあ、そっちの方が助かるけど。
懐が広いのか、それとも何も考えてないのか。
始めは恐る恐るだったが、ドラ子がただのアホの子、もとい害がないのが分かり、今では村のマスコットだ。
村の老人から貰ったのか、時々果物などを持ち帰って来たりするし。
村に馴染んでくれんのは良いのだが。
果物で餌付けされるドラゴンて、どうなのよ世間一般のイメージ的に。
そんなこんな考えている内に手洗いが終わったのかドラ子が帰って来た。
「洗って来たのじゃ!お、っとと」
サイズが合わないズボンのせいで転びそうになるドラ子。
俺は倒れないように手を貸し支えてやる。
「大丈夫か?」
「う、うぬ 。どうにも慣れぬので、ついの」
「ドラちゃん、やっぱり私のだとサイズが合わないかしら?」
そりゃまあ、お下がりだから、ぴったりのサイズといかない訳で。しかも、尻尾と翼用の穴を作って貰ってる訳だが、引っかかったりで本人はどうも気になってしまうらしい。
ドラ子の服、ねえ。
こんな辺境の村に呉服屋などある訳なく。
遠出になるならあるので、行っても良いのだが。
服を買う時は着る本人が居ないといけない。
いかんせんドラ子の変身は中途半端なため、連れて行くのは避けたい。人攫いなどに目をつけられるな、大方。いや、絶対。
「全く、どうしたものか」
そんな俺の悩みなど知らずと言わんばかりに、当の本人は姉弟と共に座り満面の笑みでクッキーを頬張っている。
「うむうむ、相変わらずうまぁなのじゃ!」
「俺もひとつもーらい、と」
「ふふ、たくさんあるからドンドン食べてね」
「いや〜、美味しいですねコレ」
・・・・・・うん?
今、おかしな声がしたような。
視線をリーナちゃん達から横へスライドすると、
「ホントーに旨い!是非ともレシピを教えて欲しいですね」
「「「・・・・・誰?」」」
いつだかの怪しい商人が居た。
しかも、さも当たり前のようにクッキーをサクサクと食っている。
リーナちゃん達3人も今更ながら商人に気づいたようだ。
「おや、これはどうも。私、怪しい者ではないのでご心配なく」
いや、その自己紹介は逆効果だろ。
その怪しさを更に引き立てる言葉を聞いた3人は警戒して商人から離れる。
まあ、それが普通の反応だよな。
対して俺は慣れたもので、驚きより呆れの方が大きい。
ほんと、いつから居たんだ?
神出鬼没という言葉はコイツの為にあるのではと思ってしまうよ。
「また、お前か」
「お久しぶりです、ガイウス様。お元気なようで」
「おかげさまでな。で、今度は何を売りに来た」
何故ここに居る?とは聞かない。聞いてもコイツは答えないだろうし、こういうのは考えるだけ無駄だ。
「おお、話が早くて助かります!準備するので少々お待ち下さい」
商人は嬉々としてそう言うと、何やらガサゴソと用意を始める。
その間にジョージが俺に近づき小声で聞いて来た。
「なあ、オッさん。この明らかに怪しい奴、誰よ?」
「前にも話したろ。キーコの種を渡してきたあの怪しいの」
「ああ、あの怪しい商人」
「お、お客さん。流石にそこまで『怪しい』を連呼されると傷つきます」
おっと聞こえてたようだ。
商人に視線を戻すと、準備を終えていた。
「さあさあ、何でもあるので、どうぞ拝見を!」
何でもあるっていっても買うものはないだろう。
まあ、取り敢えず見るだけ見とくか。
「何じゃ、何かくれるのか!」
「おい、無闇矢鱈に触って壊すなよドラ子」
初めて見る物に目をキラキラとしているドラ子がしでかさないように首根っこを捕まえておく。
今度コイツに売買という概念を説明しなくてはだな。
「なーなー、あれは何じゃ?」
「あれ?」
ドラ子が指差し興味を示した物に目を向ける。
そこにあったのは・・・・・・子供服だった。
色は赤で、フリフリが沢山付いて、派手というか豪華。
しかも、ちょうどドラ子が着れるであろうサイズの。
「おお、お目が高い!これはアラクネの糸で編まれた子供服です。アラクネの糸は伸縮性に富み、しかも丈夫で例えドラゴンが噛んでも破れないとか。中古ですが、素晴らしい一品です。しかし、問題がありまして」
「これの前の持ち主が龍人という特殊な種族の方でしてね。その方達はドラゴンのような尻尾と翼を持ってまして、それ用の穴が開けられてるのですよ」
「その為、なかなか買い手がいなくて。今ならお安くしときますよ。どうです、お客さん?」
商人に出された額は手の届く範囲、むしろ安いと言えるものだ。
早速リーナちゃんが試しにとドラ子の前に服をかざすとぴったりと合わさる。
ドラ子は「おお、綺麗なのじゃ!」とご満悦なようで。
リーナちゃん、ジョージ、キーコも「似合ってるわ!」「これゴスロリ服だよな?」「・・・!(ウネネ!)」と揃って褒めちぎる程の大好評。
ここまで来れば買う以外に選択肢はない。
断る理由もない。
だが、
「何かお前に負けた気がしてならないんだが」
「毎度ありがとうございまーす!」
俺は的確な物ばかり売ってくる不気味を通り越して不思議な商人のニコニコする顔を憎たらしく思いながら、自分の財布を取り出すのであった。