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家作り六日目「クッキーくれんかの」

「「「変身魔法?」」」


「グスッ。そ、そうじゃ」


リーナちゃんからブリザード級の眼差しと説教をくらいながらも、なんとかジョージと事情を説明し説得に成功。


で、現在、正に渦中の人物(いや、ドラゴンか)に話を聞いてる訳だか。

因みに、裸のままはマズイので、ブカブカではあるが俺の替えの服を着させている。


「じゃ、なにか?お前はドラゴンだけど、育ての親の婆様から教わった変身魔法で人間になれると」


「うん。グスッ。でも、ワシ、まだ上手にできなくて」


「だから、翼や尻尾がこのままなのね」


そう言って、リーナちゃんがドラゴンの尻尾をそっと撫でる。


「なのじゃ。上手くなれば、婆様みたいにぐらまらすな人の若い女子(おなご)に変身もできるのじゃ。『せくすぃーぽーず』や『うっふーん』で若い人の男をお持ちかえりなのじゃ」


「何気に知りたくもないスゴい真実言ったぞ。お前、お持ち帰りの意味分かってないで言ってるだろ」


「ドラゴンのばあさん、若作りしてるんだな。ってか、歳考えろ」


ドラゴンの発言にツッコミを入れる俺とジョージ。


「とまあ、それは置いとくとして。そもそも何でお前はこの村に来たんだ?巣立ちか」


「・・・・・グスッ」


俺の質問に黙っていたドラゴンが、目に涙を浮かべる。


「泣いた!?俺、なんか悪いこと言ったか!」


「泣ーかしたー泣ーかしたってアイタタタタタタッ!?痛い痛い」


調子に乗っていたジョージをアイアンクローで躾けていると、落ち着いたドラゴンが話を再開した。


「実は婆様は居なくなったのじゃ」


「居なくなった?お前が巣を離れたんじゃなく、ばあさんの方から去ったのか」


「そうでは無いのじゃ。婆様が急に『これからは1人で生きなさい。貴方なら大丈夫』とワシに言って飛んで行ったのじゃ。それから会ってない」


巣立ち、じゃないな明らかに。

しかし、子供の前から姿を消すとは、もしかすると。


「なあ、消える前の婆さんの様子はどうだった。何か変わったとこらは」


「う、うぬ?そういえば、食欲が減っていたのじゃ。時には苦しそうに吐いてることも。最後に飛んで行った時はフラフラしてたのじゃ」


「あの、それってーーーー」


リーナちゃんが何かを察し言おうとするが、ガイウスが手をかざし、それを遮る。


「婆様は大丈夫じゃろうか。風邪でも引いとったのかの?今頃どこかで寝込んでないじゃろか」


「・・・・大丈夫さ。そんな必死こいて若作りしてるんだ。ドラゴンは強いし、ピンピンしてんだろ。いつか会えるに決まってる」


「う、うぬ!そうじゃな」


俺の言葉を聞きドラゴンを笑顔を浮かべ、俺はそんな無垢な顔を見て少し心が痛んだ。

そのことを見ないフリをして、話題を変える。


「それでお前は巣から飛んで、この村に飛んで来たと。ドラゴンは滅多に人前に出ないと聞いてたんだが」


「そ、それはじゃな・・・・」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『孫よ。良いか。もしも儂が突然居なくなったら小さな田舎の人里に降りなさい』


『ひとざとー?』


『そうじゃ、儂もお前が独り立ちできるようになるまでは一緒におるがな。約束できるかの』


『うん、わかったー!』


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「小さい頃に婆さんと約束?」


「何でまたそんなことを」


「ドラゴンは人にとって恐ろしくありながらも、尊ぶ存在なのじゃろ」


「まあ、そうだな。ドラゴンは畏怖の対象だ。だが、基本意味も無く襲って来ないし、ドラゴンのおかげで魔物が近付かないって恩恵もあって、どっかじゃ神様みたいに崇めてるみたいだしな」


実際にドラゴンを祀っている大きな宗教は知っている。

その事実を聞いたジョージはふと思い恐る恐ると俺に聞いてきた。


「そんな神様みたいのを俺たちボコボコにしたんだけど。大丈夫なの?」


「・・・・バレなきゃいいんだよ。話を戻そう。確かに尊ぶ存在でもあるが、それが婆さんとの約束にどう繋がるんだ?」


「うぬ。婆様がな説明してくれたのがのーーーー」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『人里に降りたら、まずインパクトのある登場をしなさい』


『いんぱくとー?』


『うむ。例えば、そうじゃの、いきなり人間の眼前で着地し『ガオオオオオオ』と咆哮を上げるとかの。勿論、人が死なせては駄目じゃぞ』


『うん!それで、そのあとはー?』


『念話で『我は此処が気に入った。貴様ら村人に危害は与えぬし、ここら周辺の脅威は駆除してやる。その代わり我に供物を捧げよ』とかの。うぬ、大丈夫であろう。これでお主はチヤホヤされながら、毎日食べ物が転がって来る日々が送れるぞ』


『おおー、スゴーい!わかった、わしがんばる―!』


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「「計画が御粗末過ぎるわ!」」


我慢出来ずに思わずツッコミを入れてしまう俺とジョージ。


「かなりぶっ飛んでる婆さんだよな、おい」


「その穴しかないような案を疑いも無く信じたコイツもコイツだが」


というか、そもそもの話、俺ら殺意ある攻撃を放たれたんだが。

こっちが先に攻撃したし、死ななかったからいいモノの。


ドラゴンが人の村で暮らす。

たしかにそんな実例はあるし、稀なことだ。

こいつが一人で生きて行けるか婆さんが心配しての案だったのかもしれないが、なんか妙だ。しっくりこない。

誰かに変な入れ知恵でもされたのかね。


ここは辺境の村が密集してるし魔物の脅威もあるから、案を実行するにはもってこいかもだが、他にもそんな所あるだろうに。


「なあ、ドラゴン。それなら、この村でなくても良かったんじゃないのか。むしろ隣の村の方が大きいし適してるだろ」


「そ、それはの・・・」


急に指と指を合わせモジモジするドラゴン。


「何だ?ここずっと一人きりで寂しかったから人を見つけて喋りたさの余りに降りて来ちまったのか」


「ち、ち、違うわい!それも少しはあったが・・・そんな恥ずかしい理由じゃないわい」


図星かい。

冗談で言ったつもりだったんだが。


「それは、そのぅ・・・・嗅いだことのない甘く良い匂いにつられてしもうてぇ」


「匂いって、もしかしてこれのこと?」


尻すぼみになるドラゴンの言葉に、リーナちゃんが持っていたバゲットの中から無事だったクッキーを取り出す。


「うぬ!正にそれじゃ!」


クッキーを見つけたドラゴンの目はソレをくれ!とキラキラ輝せて訴え、尻尾をぶんぶんと振ってる。


「は、はい、どうぞ」


「いただきますなのじゃ!あ〜ん、もぐもぐ」


ドラゴンは渡されたクッキーを一口で頬張った。

で、どうやら口に合ったらしい。

至福のような顔をして、顔を綻ばせている。


「ウマ〜なのじゃ!もう1枚、もう1枚欲しいのじゃー!」


・・・・・・・これがドラゴン。


「ああ、なんか見たことあんなと思ったら、昔近所の犬があんな感じだったな。ほら、我慢出来ずヨダレ垂れてるし」


「なあ、オッさん。俺の中のドラゴンのイメージ像がガラガラと崩れてくんだけど。クッキー欲しさに現れるって、普通はもっとこうさぁー」


俺とジョージは何とも言えない顔をしながらそんなことを呟く。


しかし、俺らもだが、こいつも災難だな。自分で言うのもなんだがな。


作戦実行しようと空飛んでたら菓子の匂いで釣られて。

あげく降りた先が作っていた家の上で、その他もろもろの理由で俺ら激怒して。

袋叩きくらってボロボロ大泣きしながら謝罪して。


こいつの案は前提条件から失敗してしまったわけだ。


俺はハァとため息を吐きながらも、ドラゴンにすがまれて未だどうしようかと慌てているリーナちゃんから、一声かけクッキーの入ったバゲットを受け取る。


「くれ!もう1枚だけでいいから早うくれ!」


「待て待て。まずは話からだ。いいな」


「う、うむ。り、了解じゃ」


口ではそうは言ってるが、ちらりちらりとクッキーに落ち着きなく視線が行っている。

よだれもこぼれそうになってるし。


「じゃあ、まずはお前これからどうするんだ」


「どうするのだ、とは。いまいち分からないのじゃが?」


「だから、お前この村出たら次はどうすんだって聞いてるんだ」


噛み砕いて言ってやると、ドラゴンは雷に打たれたかのように衝撃を受けた顔をした。


「な、なんでじゃ!お主、わしをここで養ってくれるのではないのか!?」


「なに勝手に決めてんだ!大喰らいなドラゴン一匹の毎日の餌代なんか出せるか」


「頼む、そこをなんとかなのじゃ!それに人型でいればそんなに腹も空かん!せめて、寝るためのフカフカの寝床と雨風を凌げる小屋に、1日5クッキーだけで良いから!」


「贅沢過ぎだろ!普通そこは控えとけよ!」


こいつは交渉というものを知らんのか?

ドラゴンは頼むー!と食い下がり、俺の足にしがみつく。おい、やめろ。足がミシミシ言ってるから。


そんなドラゴンを引き離そうと足をぶんぶん振り回していると、思いもよらぬ事が起こった。


「あのぅ、ガイウスさん。ドラゴンちゃんのお願いを聞いてあげてはくれませんか」


まさかの味方が裏切りの援護射撃が飛んで来た。


「ちょっとリーナちゃん。流石にそれは無理が」


「無理を言っているのは分かってます。でも、その子」


そこで区切り、何かを訴えるようにドラゴンの方を向く。

釣られて俺もそちらを見ると、


「う、うぅぅ・・・頼むのじゃ。お願いじゃから、ここに、ここに住まわしてくれぇ。お願いじゃからぁ」


そこには俺の足を離さんとばかりにしがみつき、顔を涙と鼻水まみれにして懇願する子供がいた。


いや、違う。こいつはドラゴンだぞ。揺れるな。

人間とは違って地上最強の生物だぞ。

誰の庇護が無かろうとも生きて行けるんだ。


尚もドラゴンはまだ俺の足にしがみつかき、泣きじゃくりながらも必死に懇願する。


「頼むのじゃぁ。魔物もたおす、言うこともきく、ヒトには絶対に迷惑をかけない。じゃからーーーー」


おい、やめろよ。それ以上言うな。

そんなんじゃ、俺は、


しかして、ドラゴンは止まらない。


「頼むから、一緒に居てくれぇ。もう、ひとりぼっちはもうイヤなのじゃあ!う、うぇぇぇぇぇぇぇん!」


そう言い切ると、堰を切ったように泣き続けるドラゴン。


「あーあ、いいのかよオッさん?このままだとマジで悪モンだぞ」


ニタニタと笑いながら、煽ってくるジョージ。

くそっ、他人事だと思って。後で必ずシメる。


「・・・・・(ポンポン)」


キーコが蔓で俺の肩を優しく叩いてくる。

キーコ、お前もか。


「ガイウスさん」


止めてくれリーナちゃん、そんな顔で見ないでくれよ。



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・ダァァァァア!!もう、卑怯だろ、これは。

分かってんだよ、そんなことはよ。俺がどうすればいいかなんて!

ったく、俺は家を作りたいだけなのに何でこんな事になんだよ!?


俺は無言の訴えに耐え切れず、頭をワシャワシャと掻き、覚悟を決めドラゴンを見据える。


「おい、ドラゴン!」


「う、ひっく、うん?」


「お前は約束を守れるか。守れるなら俺が面倒見てやる!」


「・・・!う、うぬ!守る、絶対に守る!」


ドラゴンは流していた涙を拭い、真っ赤になった目でこちら見上げる。


「一つ、人の役に立つこと。働かない者に出す物はないぞ」


「う、うぬ!わし、働く!」


「一つ、むやみにドラゴンの姿にならない。ここでは人型で暮らしてもらう」


「うぬ、了解じゃ!」


「で、最後に一つ。俺の家作りを手伝え。壊した責任もあるしな。全部守れれば、お前と一緒に居ると約束する。女神ハナミ様に誓ってもいい」


「分かったのじゃ!わしも龍王の名に誓うのじゃ!」


ドラゴンは満面の笑顔でそう返してきた。


あー、もう、これだいいかよ、まったく。

女神様にも誓っちまったし、後には引けないぞおい。


勢いでここまで言ってしまった事を今更ながら後悔する。


おい、周り。にやにやするな。キーコも表情は分からんが、絶対に笑ってるだろ。


とまあ、喜んでいたドラゴンであったが、不意に不安な顔になりながら話しかけてきた。


「の、のぅ、お主」


「何だ?」


「その、の・・・・クッキーは1日何枚貰えるかのぅ。い、いや冗談じゃ!何でもないのじゃ!」


ドラゴンの気の抜ける発言にポカンと茫然とした俺の顔を見て、気を悪くしたと思ったのか慌てて否定するドラゴン。


そんなドラゴンの姿に俺は思わず笑ってしまった。


「・・・ぷっ、ははは!まあ、なんだ。そう怯えんな。1日は流石に無理だが、手伝いを頑張ればあげるさ。俺は作り方知らないからなんとも言えないがな」


大丈夫かな?とリーナちゃんに視線を送ると、笑顔で頷いてくれた。


「はい!1週間に一度くらいなら」


「だとよ。それでいいか、ドラ子」


俺の言葉にドラゴンこと、ドラ子が大きな目をパチクリとさせた。


「ドラ子、とはワシの名か?」


「そのつもりだが」


ドラゴンは特例以外は自分の名が無いのだ。

ドラゴン、ドラゴンと呼ぶのはちょいと面倒くさいので、名付けてみたのだが、ドラ子は不満なのだろうか?


「オッさん、それはちょっと安直過ぎないか?」


「うっさい。覚え易くていいだろうが。まあ、本人がイヤなら変えるが」


そう言って、ドラ子の方を向く。


「いや、気に入ったぞ!ドラ子、ドラ子か。ワシの名前、ぐふふふ」


「お、おお、気に入ってくれたか」


予想以上の喜び様に、少し驚く俺。


「ワシはドラ子!これからよろしくお願いするのじゃ!」


「ふふ、ドラちゃん、よろしくね」


「姉ちゃん、その呼び方はなんかマズイ」


さっきの泣き顔は何処へやら、和気藹々として姉弟と話をしている。

キーコも喜びを表して、ウネウネと蠢いている。


しかし、勢いで言ったとはいえ面倒くさいことになったぞ。

そもそも、他の村の人への説明もあるし。

ここは隠さずに言っといてしまうべきだろうが、考えただけで頭が痛い。


はぁと深い溜息を吐く。


「・・・・・まあ、いいか」


正直言ってしまえば後悔はしている。だが、また同時にスッキリもしているのだ。


誰が好き好んで人の泣き顔なんか見たがるかよ。

比べるまでもなく笑顔の方がいいに決まってる。


それに俺、ペット飼いたかったしよ。


俺はやれやれと心の中で諦めをつけ、四人の輪に加わるのだった。

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