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家作り四日目 「トランプタワーを他人に崩されるのが本当に嫌」

トントン、スー、スポッ!


「おー、本当に出来てるぞ。こりゃスゲエ!」


「だろう。しかし、レンガがこの世界に無かったとは盲点だったぜ」


ジョージと俺はレンガとやらを作り置きし、型から外す作業をしていた。


そして、



「・・・!・・・!(ニョロニョロ)」


スポッ、スポッ、スポッ、スポッ、スポッ!


あの謎の植物こと、キーコにもレンガを型から外すのを手伝って貰っている。


「おお、キーコ凄え!」


「器用に複数の蔓を伸ばして抜いてるなあ。てか、俺らより作業が速いぞ」


「・・・・!・・・♪(クネクネ)」


キーコは褒められて嬉しいのか、クネクネと体、てか蔓をくねらせて照れている。

明らかに俺らの言葉理解してるよな、キーコの奴。


因みに、キーコという名前はリーナちゃんが「この子の名前は?え、無いの!じゃあ、キーコはどうかな」と提案(めっちゃ目をキラキラさせて)して来たので、それに落ち着いた。


初めはどう接すれば良いのか分からなかったが、それは時間によって解決した。


好物は水と日向ぼっこ。


当初は何もない花壇にポツンと生えているだけであったが、考えてみればキーコは俺にとっての初の隣人みたいなものだ。

という訳でお祝いも兼ねて、キーコの為に花壇に嵐が来ても良いように即席の屋根と囲いを作ってやった。


素人の俺が作った為に不出来な作品となったが、当の本人(キーコ)は大喜びであった。

それはもう全身をウネウネニョキニョキさせて。

今では夜は腐葉土を敷き詰めた屋根の下に丸まって寝ている。


今ではもうすっかり仲良くなり、率先して俺らの仕事を手伝ってくれている。



キーコも手伝ってくれたおかげで早くにレンガを型から全て外せた。


「で、このレンガ、だったか?外したはいいが、これをどうするんだ」


「ふふーん、このレンガはなこう使うんだよ」


そう行ってジョージが取り出したのは沼の底にでもありそうな泥であった。


俺とキーコはそれを見せられるがピンと来ない。


そんな事に構わずジョージはヘラらしき物で泥を掬うと、レンガの上へと塗る。そして、泥を塗った面にもう一つのレンガを合わせた。


「こうして待てば、泥が接着剤の代わりになってレンガ同士がくっつくんだ」


「なるほど」


ということで、早速レンガで家作りた。


幸いにも家の間取りは決まってるので、壁となる一部をレンガ積んで行く。


掬う。塗る。乗せる。


この工程を幾度か繰り返す。

存外にもこういった一つの作業を長々とやるのは辛く感じ易い。


そして時間は経過し、


「これで最後の一個っと。はぁー、終わったー!」


「試作品だがな。取り敢えず休憩を入れるぞ。お茶ぐらいは出してやるよ。キーコもありがとな」


「・・・・・・♪(クネックネッ)」


何とかだが、全てのレンガを積み終えた。

そんな時、まるで見計らったかのようにリーナちゃんが現れた。


「こんにちは、ガイウスさん。家作り順調ですか?」


「いやぁ、まだまだだよ。完成するまで一体いつまでかかるのやら。ははは」


「ふふ、頑張って下さい。そうだ、良かったら、これどうぞ」


そう言ってリーナちゃんはバケットを差し出してきた。

そのバケットの中から、嗅いだことのない何かいい匂いがしてくる。


「ありがとう。ところで失礼ながらこれは、何かな?どうも私はそういうのに疎くて初めて見る料理なのだが」


「知らなくてもしょうがないですよ。だってこれジョージが考えた料理ですから」


俺はその言葉に驚きを隠せなかった。

驚きを露わにしている俺の顔を見て、ジョージが文句を言ってくる。


「何だ、悪いかよオッさん」


「いや、似合わないと思ってね。料理するのかジョージ」


「作ったのは俺じゃなくて姉ちゃんと母ちゃんだよ。俺は知識を出しただけだよ」


「この子、どこで学んだのか何かしらポンと発明しちゃうんですよ。あ、味なら大丈夫ですよ。とても美味しかったので」


リーナちゃんはそう言うと、大きな布を地面に敷き、皿と水を注いだコップを並べる。


「天気も良いですし、皆で食べましょう!」


「俺喉乾いた〜」


待ってましたとジョージは早速コップに手を伸ばすが、その手をリーナちゃんにピシャリと叩かれる。


「こら、先に手を洗いなさい。キーコちゃんを見てみなさい」


そう言われてキーコの方を向くと、


「ジャブジャブ、ジャー」


自分で飲めるようにと置いておいた水桶に汚れた蔓を擦り合わせ洗い、最後に水桶を上へと持ち上げひっくり返し、身体を洗い流す。


「・・・・・洗ってきます」


「それでよろしい」


植物に負け、何とも言えない顔をするジョージであった。

そんなジョージを見て、俺も静かに手を洗いに行くのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「おお、サクサクしていて美味しい!これが、くっきー、というやつか。こんな菓子は初めて口にしたぞ!」


「アクセントに山で拾ったクルミを砕いて入れてみました」


「これを思いつくとは、案外やるなジョージ」


「一言余計だ、オッさん」


減らず口を言うジョージであったが、褒められた為か満更でもない様子だ。

そのジョージの様子に苦笑しながら、水を飲む。


戦場で剣を振るうのではなく、クワを持ち土を耕す。

快晴の空の下で、誰かと共に食事をする。


「ああ、生きているって感じがするな」


そうガイウスは誰にも聞こえることのなく、小声で呟くのだった。


「さてと、俺もそろそろ姉ちゃんのクッキーをいただくか」


ジョージがそう言ってクッキーに手を伸ばした。


その時、突然俺らに影が差し暗くなる。


不思議に思って皆で顔を上げると、



グオオオオオオ、ガッシャーン!!!



強烈な音と共に、大きな()()が降ってきた。




『ガオオオオオオオオオオ』



身体の芯から震え上がる咆哮が響き渡る。


まず目に入ったのは黒。

闇よりも深い黒の鱗に覆われ、紅き眼がこちらを見下ろしている。

人の腰より太い頭から生える角、大地すら切り裂く爪、獲物の骨ごと噛み砕く(あぎと)、遥か彼方だろうと追いかけることが可能な翼。


モンスターに疎いただの村娘であるリーナですら、目の前の存在を知っている。


「・・・・ド、ドラゴン!」


『ガルルルルルルルルルルル!』


あまりの威圧にリーナは思わず気絶してしまう。

この姿を前にして、人がドラゴンに勝つなど到底イメージ出来ない。

誰もが我れ先にと尻尾を巻いて逃げる。




そう、普通なら。




例えば、あくせく働いて作ったレンガがドラゴンがその上に降りてきたせいで壊れていたり。


例えば、少年がクッキーにまだ一枚も口にしていないのにドラゴンの着地時の風のせいでひっくり返ってしまったり。


例えば、せっかく作って貰った花壇の雨避け用小屋もどきが飛んできたレンガのせいで壊れたり。




そんな状況なら話は変わってくる。


ゆらりとドラゴンの前で揺れる三つの影。


鉈とスコップを手に握り。

掌に増大な魔力を集中し。

蔓を何本も纏め頑丈にし。


眼前のドラゴンを膨大な殺意を込めて睨んでいた。


「ガ、ガルル?」


目の前のおかしな連中が逃げないことに戸惑うドラゴン。


しかし、そんなドラゴンのことなど御構い無し。

三人はドラゴン向かって、攻撃を開始した。


まず始めに動いたのは、ガイウスであった。

一瞬、ガイウスの姿がドラゴンの視界から消える。


そして気づいた時には、ガイウスがドラゴンに接近し、下から顎を打ち上げんと、


「オラァッ!!」


力任せにスコップを振るった。

スコップは折れるどころか、ドゴンッと豪快な音を上げドラゴンにダメージを与える。


『グオオオッ!?』


予想外の一撃を喰らい、堪らず苦痛の唸りが出る。


しかし、それだけでは終わらない。

無理矢理持ち上げられたドラゴンの視界に一本の太い線が空に引かれているのが映った。


違う。

アレは線ではない。

変な見た事もない植物が伸ばしている蔓だ。


その事に気づいた時には、既に遅し。


振り下ろされた蔓がドラゴンの眼に目掛けてバシンッと鞭の如く打たれる。


『ガアアァッ!!』


ドラゴンは頑丈である。

しかし、的確に眼球を狙われ、潰れてはいないが痛覚と衝撃により視界が奪われる。


その数秒のスキを少年は逃さない。


「ウォーター・ランス」


詠唱が紡がれ、少年の掌から放たれた巨大な水の槍がドラゴンの腹へと着弾する。


『ッギャ?!』


完全なる不意打ち。

突然の腹への衝撃に呼吸が一瞬止まる。


だが、流石はドラゴン。やられっぱなしでは終わらない。

目の前の敵を斬り刻まんと、自慢の爪を近くに居たガイウス目掛けて振るう。


その巨体からは想像が出来ない程のスピードで迫る剛腕。

人がマトモに受ければ刹那の間に挽肉になるだろう一撃。


しかし、ガイウスは避けようとしない。

それどころか、その一撃をスコップと鉈を構え、身体を限界まで捻り、


「おっらああぁ!」


迫る剛腕の軌道を晒した。

捩じ伏せる力と優れた技術、どちらかが欠けては不可能な技をガイウスはドラゴンに畏れることなく平然とこなす。


そして間髪入れずにドラゴンの腕へと鉈で斬りかかる。

強固なドラゴンの鱗に阻まれ致命打には届かぬが、攻撃した鱗が欠けている。


ドラゴンは目の前にいる敵に恐怖を抱いた。


己にダメージを与えられる程の力を持ち、牙よりも細い腕で己の攻撃を封じた。

逃げるどころか、こちらに向かって来る。

この敵達はドラゴンの理解を超えていた。



ドラゴンは羽を広げ、慌てて空へ飛ぶ。


逃げなければ、こいつらはヤバイ!


だが、それは上手くいかなかった。


しばらく飛ぶと、足に違和感を感じた。

かと思った瞬間、ガクンと引っ張られたような衝撃が走った。

どんなに羽ばたこうが、これ以上飛ぶことができない。

何が起きたのか視線を足に向け確認する。


蔓だ。

あの植物の蔓が自分の足に巻き付いて、ドラゴンを捕縛していた。

その蔓はドラゴンが力を入れようが千切れず、まるで大地を相手にしているかの如く微動だにしない。


蔓相手に躍起になっていたドラゴンだったが、何かが蔓を伝って昇って来ているのに気づく。


・・・いや、アレは物じゃない!人間だ!?


スコップは置いて来たのか、鉈を両手に持ちドラゴンを目指しガイウスが駆け上って来ている。


ドラゴンはガイウスを振り落とさんと行動に移ろうとする。


「サンダー!」


だがそれも放たれたジョージの魔法による空からの落雷により邪魔される。

身体を走る電撃にドラゴンは硬直し、それが決定打となった。


「落ちろおおおおッ!」


蔓を昇りつめたガイウスは勢いを殺さずそのままドラゴンに向かって飛び、頭の角へと渾身の力で鉈を振るった。








その後、まるでドラゴンが発したかのような「ギャオオオオ!」という野太い悲鳴が村全体に響いたそうな。

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