家作り三日目「効果はばつぐんだ!」
元騎士と転生少年が協力を結ぶことになり翌日。
そんな二人はまず・・・・・手作り花壇の土いじりをしていた。
ガイウスが土で汚れた手で汗をぬぐいながら、愚痴る。
「なんで最初にやるのが花壇なんだよ、おい」
その言葉に転生者の少年ジョージが同様の気持ちなのか、渋々と言い返してきた。
「仕方ないだろ。他のは時間掛かって、これしかすぐに試せるやつがないんだよ」
チッ、役立たずめ。
「あ、テメエ!今、使えねーとか思ってるだろッテテテテテテテ!図星だからってアイアンクローをするなッテェー?!」
勘の鋭い奴よの、こいつも。
俺はジョージの頭から手を話し、怪訝に問いかける。
「というか、そもそもだ。これ、本当に効果あるのか?ただ山から持ってきた葉っぱを花壇に蒔いてるだけだろ」
そう言って目を向けた先には二つの花壇。
片方には土だけ、もう一方もほとんど変わらず違う点と言えば土の上に山から拾ってきた葉っぱが乗っかってるだけ。
痛みを堪えるよう頭を押さえていたジョージが、俺の言葉を否定する。
「ただの葉っぱじゃねえ。腐葉土だ!ほら、フカフカしてんだろう」
「・・・だから、それがどう違うんだ。まあ、いつかは花壇を作ろうとは思っていたから、別に構わないがな」
「くっ、信じてないな。腐葉土の効果に驚いて腰を抜かさないよう気をつけるんだな」
そんなことを言っている内に、拙いながらも花壇が完成し手に付いた土をパンパンと払う。
「そういえば、おっさん。さっき何の種植えてたんだ?花か?」
「野菜だよ、野菜。トメメとかナンズとか普通のだよ」
「トメメ、ナンズ・・・・・ああ、トマトとナスのもどきか。でも、家を飾るってなら花の方が見栄えいいんじゃないの」
「それも捨てがたいが、また今度だな。まずは安定した食べ物の確保が優先だ。あと、トメメやナンズの花も味があって綺麗だからな」
それに、野菜が実れば村の人たちに配って僅かでも恩返しになる。
ふふふ、近所の人に「作りすぎたんで良ければどうぞ」とかいうやり取りするの何気に憧れてんだよな~。
ジョージがおっさんキモいぞとか言ってるが気にしない。スルーだスルー。ただ、明日のコイツの訓練はキツくしよう。
とまあ、花壇は出来上がり、ジョージは迎いに来たリーナちゃんと共に家へと帰った。
俺は買っておいた野菜の種を取りだし、黙々と植えていく。
そんな時であった。
「お、そう言えば――――」
ふとあるものを思いだし、懐へ手を入れた。
~翌日~
「よお、おっさん。どうしたんだ花壇の前に立って。まだかまだかと咲くのを待つ子供でもあるまいし」
いつものように軽口を叩くが、ガイウスの反応がない。
不思議に思いながら、ジョージはガイウスに近づく
「どしたんだ、おっさん?」
「・・・・・腐葉土の目的は何だったかね、ジョージ」
やっと口をきいたかと思えば意味の分からないことを。
昨日説明しただろうに、ボケてんのかと思いつつガイウスの問いに答える。
「植物の成長を促すためだよ。葉っぱにいる微生物が土に栄養をくれるんだ」
「そうか・・・・・・・・・・でだ、そいつの効果はこんなにも効き目が強いのか」
あれ、とガイウスが指を指し、それに従ってそちらを向くと、
「・・・・・(ニョキーン!)」
「「・・・・・・・・・」」
腐葉土を蒔いた方の花壇から、子供の背丈ほどまで伸びた木が生えていた。
その植物は存在を誇示するかのようにユサユサと揺れている。
それを見たジョージがしばし黙った後、
「効果はばつぐんだ!」
と思わず叫んでいた。
対して、ガイウスは関心するように植物を眺めている。
「おい、これがカガク?というやつか。まるで魔法だな」
「いやいやいや!?流石にこれはない!」
「ぬ、違うのか?じゃあ、一体これは」
「・・・・・・・・あっ」
花壇を見回していたジョージが不意に固まった。
「・・・・・・おい。なんか覚えがあるんだろ」
「んあぁー。多分、これだわ」
ジョージが指を指した先には花壇を構成する一つの石。
よくよく見ると、炭でも使ったのか黒の×印が書かれている。
「思い出したけど、確かこれ俺がちょいと魔法の練習で使った石だ」
「練習だぁ?」
どうやら以前に魔力を増やせないかと、ジョージは暇なときに拾った石に魔力を送り込んでいたらしい。
で、その石がうっかり花壇の積んだ石の中に混じっていたらしい。
「って、おい!まさかその石、魔石化してるのか!」
「魔石?」
魔石とは。
その名の通り、魔力を溜め込んだ石。
手に入ることは滅多になく稀少で、貴族の魔導師が高額で買い取るのだ。
「その石の大きさだと10年間遊んで暮らせるぞ」
「マジでか!」
その話を聞いたジョージの目が銭マークになった。
分かりやすいな。
危ないのでジョージが先走る前にガイウスが釘を指しておく。
「止めとけ」
「な、何だよ、おっさん、真剣な顔して。分け前でもよこせってか」
「そうじゃない。お前、そんなことしたら魔導貴族に一生飼い殺しにされるぞ」
「へ?なにそれ怖い」
「普通の人間に魔石は作れない。だから稀少で価値が高い。そんな状況においてお前は半永久的に湧く宝石の山だ。金にがめつい貴族がそんなお前を放っておくわけないだろが。お前に危害がいくなら構わないが、最悪この村全体が人質に取られるぞ」
「まじかよ、それ」
ジョージが俺の話を聞いて、その事実に引いている。
「分かったなら、それでいい。商人に売るわけにもいかないし、まあ、家で使うなら問題ないしな。砕いてちょいちょい家に持ち帰れ」
俺はジョージから魔石を受けとる。
しかし、魔石に植物の成長を増進させる効果があるとはな。
まあ、こんな高価な物花壇に使う馬鹿なんか普通は居ないよな。
そんな事を考えながら魔石をマジマジと見ていると、ミシリと皹が入った。
その皹はあっと言う間に全体へと広がり、壊れて小さな破片となり手からこぼれ落ちてしまった。
慌てて落ちた破片を握ろうとしたが、指をすり抜けて地面に散った。
破片で指を切り血が出ているが、今はそんなことを気にしてられない。
この現象を俺は知っている。
魔石は中の魔力を使い果たすと砕け散るのだ。
今のは正しくそれだ。
しかし、それならばその魔力は何処に消えた、いや何に使われた?
クイックイッ
「お、おっさん。それ」
混乱している頭を何とか落ち着かせようとしていると、手が後ろに引っ張られ、前からジョージの声がかかる。
「おい、ジョージ。今考えているから後にしーーーー」
うん?目の前にジョージがいる?
なら、俺の手を後ろから引っ張っているのは誰だ。
引っ張られている自分の手を見てみると、
「・・・・・・(ニョロニョロニョロニョロ)」
「「・・・・・・・」」
花壇から生えた例の植物から伸びた蔓が、まるで生きているかのようにユラユラ、ニョキニョキと俺の手に絡みついていた。
「「うわおおおッ!?」」
「・・・・・・!(ニョロ!)」
謎の現象?に驚く俺とジョージ。
すると、まるで謎の植物が二人の声に驚いたかのように、ビクッと振動し、その拍子でするりと俺の手から蔓が外れた。
俺は慌てて距離を取り、近くにあった薪割り様の鉈を構え、謎の植物に突きつける。
ジョージも掌に魔力を集中させ、いつでも対応できるように構える。
しかし、
「・・・・?・・・!(ニョロ、ニョロニョロニョロ)」
謎の植物は戦闘体勢になっている俺たちに警戒心を構えた様子は一切なく、それどころか蔓を伸ばし、初めて鉈を見た子供の如く、まるで観察しているかのように鉈の周りでユラユラしているだけであった。
「・・・敵意は、無いようだぜ」
「というより、なついている、のか?」
俺たちは謎の植物の無邪気な姿に拍子抜けし、無害だと判断して構えを解く。
その間も、謎の植物は危なっかしそうに鉈をペチペチと叩いて、金属の感触を楽しんでいる。
「おっさん。これ、って言うかコイツは魔物なのか?トレントとかあんな感じの」
「いや、似てはいるが明らかに違う。コイツには見たところ魔物と違って確かな知能と感情がある」
ガイウス、しばし黙考。
「・・・・・・あ」
「・・・・・・おい、おっさん。今度はアンタかよ。で、一体何したのさ」
「いや、理由がこれしか無いなってだけだが。あれはそう、俺の家作りのキッカケとなった本を手に入れ国を出た後のことだ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いやはや、久しぶりでございますね騎士様」
騎士を辞めると王に叩きつけ国を出てすぐのことであった。
俺が買った本を扱っていたあの掴みどころの無い商人が居た。
まるで俺がそこに来るのを知っていたかのように。
道の真ん中で、商品を並べて、ニコニコと。
「客が居ないのでそろそろ店仕舞いしようと思ってたところで」
「いえいえ、国からの追っ手ではないので、そこはご安心を。何でそのことを知ってるかって?そんな些細な事はいいじゃないですか」
「それで、お客さんもう引越す土地はお決まりで?決まっている、土地も買ったと。それは良かった!」
「本日オススメの商品は新居を築く人にピッタリ『心機一転一括セット』です。野菜の種から、薪割り用の鉈、ランタン、簡易式テント、スコップ、ノコギリなど大工用具に、雨の日の時間潰しの本が全て揃っています」
「今ならウマと荷台をお貸しする上に、サービスも付いて、今ならたったの銀貨8枚!お安く提供しますよ!」
「さあ、どうします?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え、まさか買ったの」
「買った。一括で」
「怪し過ぎるだろ!怪し過ぎて、警察も戸惑うくらいだよ!」
「大丈夫だ。全商品を確認して不良品が無かったからな」
「そういう問題じゃないだろ。ってか、全然関係ないじゃん」
「まあ、待て。話しは最後まで聞け。そのサービスとやらで貰った物の一つになーーーー」
〜〜〜〜〜〜
『あ、そうでした。これもお客さんに差し上げます』
『ん?これは、何かの種か』
『ただの種じゃありませんよ。それは【幸福を呼ぶ種】と言われてます。その種は特殊で魔力を吸って成長しまして、更に愛情を込めた分、幸福が変わります』
『ふ〜ん。じゃ、貰っとくわ』
『大事に育てて下さいね・・・・・・世界樹なんで(ボソッ)』
『ん、何か言ったか?』
『いえいえ、なにも』
〜〜〜〜〜〜〜〜
「うん、明らかにそれだね。証拠のバーゲンセールじゃねえか。てか、馬鹿だろアンタ」
話を聞き終えたジョージは無表情でそう言ってきた。
今回は此方に非があるので、プロレス技は掛けないでおこう。
取り敢えず落ち着いた二人は動く植物の方を向く。
「・・・・・・・!(ニョキッ、ニョロニョロ)」
見られている事に気付いたかのように、俺たちの方にツルを伸ばす。
恐る恐るた伸ばされた蔓は俺の頰、手、腹、足に触れていった。
「多分、魔石の魔力を吸って急成長したんだろう。うおっ、脇は止めろ」
「・・・でも、どこが幸福を呼ぶんだ?今の所、ただ動いて、おじさんをくすぐってるだけじゃん」
どうしよこれ?とニョロニョロペチペチと未だガイウスの身体を弄る植物を見ていると、「なに?」と言わんばかりに植物は首を傾げるようにニョキ?と蔓を曲げる。
そんな時だあった。
「ガイウスさーん、居た居た!今日もお母さんのお料理を持ってーーーー」
鍋を持って来たリーナちゃんがいつものように元気満点な笑顔で走って来て、俺にニョロニョロと絡まる蔓を見て固まってしまった。
そして、「だれ?」とリーナちゃんの方に蔓を向ける植物を見てプルプルと震えている。
ヤバい。
リーナちゃんが魔物と勘違いして叫ばれると非常にヤバい。
「リーナちゃん、待っ『やだ、カワイイ〜』・・・・ヘッ?」
そう言って、リーナちゃんは鍋を置いて、植物の方へと駆けて行った。
リーナちゃんの反応に植物も「え、なに、だれ!」と言わんばかりにウネウネして、少しパニクっている。
「なあ、オッさん」
「なんだ」
「幸せを呼ぶ、ってこれのことかね?」
「・・・これなんじゃねーの」
あんなに喜ぶリーナちゃん見た後じゃ、今更あの植物を処分できない。
今日の教訓は、無垢には勝てない、だな。
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