食事その後
ダイニングルームに入ると、今日仕事の担当だったメイド達が集まっていた。
その中には台所で働いていたメイド達もいて、その近くでセレナが肩から手を振って私にアピールしていた。
私がそこへ行くと席が1つ空けられていた。
私の席をとっておいてくれたのだ。
「良かったよ。席をとったのは良いんだけど、リーナいないし、部屋に行ったら寝てたし」
彼女は笑う。
私は彼女にお礼を言って席に座った。
するとメイド長が前に出てきた。
「みなさん、今日の仕事お疲れ様です。食事をとって明日に備えてください。いただきます」
「いただきます」
ご飯はすごく美味しかった。
食べずに寝ないで良かったと思い、改めて起こしてくれたセレナに礼を言った。
彼女は
「全然いいよ!ルームメイトなんだし」
と言って笑った。
笑った顔を見て私は寝る前のことを思い出した。
クハルとセレナが並んで歩く光景が脳裏をよぎった。
-ああ、駄目だ。思い出してしまう。
「ごちそうさまでした」
私は食べ終わるとすぐ立ち上がった。
セレナはまだ食べ終わっていない。
「リーナ早いね!」
セレナは慌てて残っているご飯をかきこもうとするが、かきこんで食べ切れるような量ではなかった。
セレナの訴えるような視線を感じつつも、
「先に部屋に戻るね」
と言って私はダイニングルームを後にした。
食器を台所へ持っていく。
担当のメイドが洗うから置いていって良いと言われ、従った。
部屋に戻ろうとして、クハルの部屋の前を通った。
と言っても立ち止まってしまったのだが。
-セレナは坊っちゃまの事が好きなのだろうか
もしかして坊っちゃまも...?
真相が知りたくて仕方がなくなった。
-けれど坊っちゃまは人当たりが良さそうだし、誰とでも仲良くできそう。もしかしたらセレナもただ普通に喋っていただけかもしれない。
空腹が満たされて少し気持ちに余裕が出たのかもしれない。
少し前向きに考えられるようになっていた。
明日にでもセレナに聞いてみようかな、と思い、部屋に戻ろうとしたとき、
「僕に何か用?」
後ろから声をかけられ、びっくりして振り返ると、そこにはクハルが立っていた。
何というタイミングの良さ!
と驚きつつも、ここが彼の部屋の前だということを少しでも忘れていた自分が恥ずかしくなった。
「あっいや、そういう訳では無いです!失礼しました!」
私が頭を下げると、彼は近くに歩み寄ってきた。
用が無いのにここにいたから、流石に邪魔だし叩かれたれたりするかなと少し覚悟はしていた。
しかし彼は私の頭に手を置いて、髪をなでた。
...ん?叩かれない?
撫でられてるし...
「頭を上げなよ」
私の頭から手を下ろした彼に言われ私は頭を上げる。
彼は笑っていた。
私はその笑っている顔でさえ、今のこの時は怖いな、と感じてしまった。
だが彼は私の思っていたのとは違い、怒っているなどは全然なかった。
心配で彼の顔を見ていると、彼は吹き出して笑った。
私は余計に状況が把握できない。
「いやいや、慌てすぎ。僕は怒っていないよ」
え?そうなの?
キョトンとしていると彼は笑いが止まらないようだった。
「あれ?僕そんなに怯えられてる?」
すると彼は私の頬をつまんだ。
余計に状況がわからない!!
「そんなに怯えないで。悲しくなるから」
さっきまで笑っていた彼の顔が急に真面目な顔になった。
大きく笑った後で瞳が潤んでいたこともあり、吸い込まれそうだった。
私が何も答えないでいると、彼は私の頬から手を離した。
「君、可愛いね」
そう言って彼は部屋に入っていった。
私はもう放心状態でしばらく動く事が出来なかった。
部屋に戻る頃にはもうセレナは部屋に戻っていた。
セレナは私が部屋に入ると駆け寄ってきた。
「リーナ何してたのー?私慌てて帰ってきたのに居ないんだもん、びっくりしちゃったよ」
彼女は腰に手を当てる。
「ごめんごめん。ちょっと用事があって...」
「それって坊っちゃまとお話すること?」
何故彼女が知っているのか、と思ったが、そうだ。部屋に戻る時、坊っちゃまの部屋が見えるんだ。
そこをセレナは見ていたのだ。
「あんなにわざとらしく部屋の前に立ってて、自分で声をかけに行くことも出来ない弱虫なんでしょ?」
...ん?彼女は何を言っているのだ?もしかして、怒られてる?それとも、挑発?
彼女はグイッと顔を私に近づけてきた。
「リーナ、もしかして坊っちゃまのこと好きなの?」
...それ、私が聞きたかったことなんだけど!!