夕食の時間です
台所に行くと、他のメイド達が夕飯の準備をしていて、台所はてんてこ舞いだった。
今日は休んでいていいと言われたが、流石にそんな訳にもいかないので、私達はメイド服で働く気持ちも持ってきた。
ところが、邪魔だの休んどけだの言われ、台所に入れてすらもらえなかった。
聞くと仕事は分担制で、今日は既に決まっている人達が働いているとのことだった。
私とセレナは今日から勤め始めるというのがわかっていたので、明日から仕事が割り振られている。
炊事は当分は教育係になる先輩のメイドに教えてもらいながら、この家の味などを覚えていくことになる。
掃除などは1日だけ教わり、あとは1人で担当するらしい。
食事はまず家主とその家族が食べ、その後にメイド達が食べる。
今屋敷にいるのは一人息子のクハルだけなので、クハルが食べ終わってから私達の時間だ。
1人で食べるのは寂しいのでは、と思ったが、メイド長のエルザさんによると、幼い頃からよくあることで、本人も慣れているとのことだったので、それ以上は気にしなかった。
少しして、料理を作っていたメイド達が台所から食事を運び始めた。私とセレナはそれを見計らい、せめて運ぶだけでもやらせて欲しいと頼み込んで、運ばせてもらった。
食事をテーブルに並べて、ナイフとフォークを置く。
並べながら、食材がとても輝いて見えると関心した。
これを明日から自分もできるように練習するのだと思うとワクワクしてきた。
大きいテーブルにたった1人だけの食事が並べ終わる。
盆を台所に戻しに行くと、ついでに私かセレナのどちらかがクハルを呼んでくるように、と言われた。
私とセレナはどうするか悩み、ジャンケンで決めることにした。
「ジャンケンポン!」
私はチョキを出した。
セレナはパーを出した。
「私だ!行ってくるね」
セレナは私に手を振りながらクハルの部屋に向かった。
私は台所の近くでセレナが戻ってくるのを待った。
少しすると、セレナとクハルの喋り声が聞こえてきた。
セレナの姿が見えたら私は声をかけようと思った。
「セレ...」
思わず呼ぶ声を切ってしまった。
呼べなかった。
セレナとクハルは仲良さそうに喋っていて、2人とも笑っていた。
随分楽しそうだと思った。
邪魔をしてはいけない、とどうしても思ってしまい、セレナのことを呼ぶことが出来なくなったのだ。
私は2人から何故か身を隠したくなり、台所に入った。
顔だけ出して2人を見る。
楽しそうなクハルを見て、胸がきゅう、と締め付けられる感覚があった。
セレナが笑う。
さらにまた締め付けられる。
-これは、ヤキモチ?
いや、そんなことは無いだろう。
何せ彼とは今日会ったばかりなのだ。
そんな、恋なんて早すぎる。
けれど...
もしそれなら、何故今セレナが居る位置が羨ましいのだろう。
何故変わって私があの場に行きたいと思うのだろう。
私は訳が分からなくて、セレナとクハルがダイニングルームに入るのを見送って、見つからないように早足で自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると私は電気もつけずにベッドに倒れ込んだ。
顔を布団に埋め、目を閉じるとさっき見た光景がまぶたに映る。
他のことを考えようと、食事のことや過去に読んだ小説などを思い出すが、チラチラと脳裏をよぎって気が紛れなかった。
もう、このまま寝てしまおうと思い、メイド服を脱いだ。
寝巻きに着替えてベッドにきちんと横になった。
-今は何時だろうか。
私は時計を見た。
7だから、19時。もう夜だな...
-2人楽しそうだったな...
明日は...彼と喋りたいな...
揺れている。
海に浮かんでいるような感覚。
ゆらゆらと揺れて、心地いい―――。
「リーナ、リーナ!」
揺れて...ん?
揺すられている!?
「リーナ、ご飯だけどどうする?」
目を開けるとセレナが私の顔を覗き込んでいる。
起こしに来てくれたようだ。
「どうしたの?具合悪いの?」
私は体を起こす。
「いや、大丈夫だよ。ちょっと眠くなっちゃって」
私は笑ってみせる。
「そっかぁ!良かった!居なくなっちゃったから心配しちゃった!これからご飯だけど、リーナもどう?」
時計を見る。19時25分。
もっと寝ていたと感じたが、そうでもなかったようだ。
「うん、お腹すいた。ご飯食べに行くよ」
「わかった!先に行って待ってるね!」
セレナは先に部屋を出た。
一応メイド服の方がいいだろうかと思い、私はメイド服にもう1度着替えてダイニングルームに向かった。