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新米メイドはお騒がせ!  作者: まっちゃ亜珠貴
3/19

街の小さい本屋では

屋敷のドアが開く。

「おかえりなさいませ、クハル様!」

メイド一同が声を揃えてお辞儀をする。

クハルも笑顔で答えながら目線は動いていた。

「リーナちゃんはただ今割ってしまった皿を台所にて片付けております」

言ったのはエミルだった。

「皿?リーナが割ったのか?」

「はい、つい先程のことです」

「珍しいな。ちょっと台所に寄ってみるか」

「お待ちください」

エミルはクハルの前に立ちふさがる。

怪しまれないように笑顔で。

周りのメイドもそれぞれの仕事に戻るようにバラけていった。

「割れたお皿で坊っちゃまがお怪我をされては大変です」

「私は平気だが」

クハルはムスッとした。

「リーナちゃんに会いたいと思われるのはわかりますが、皿の片付けをしてからでも遅くはないかと。お言葉ですが今行くとかえって邪魔になってしまって片付けが遅くなってしまいます」

クハルは納得したように表情を変えた。

「確かに、それもそうか。後にするよ。今日は彼女にお土産もあるんだ」

「お優しいですね!お土産、何を買われたんですか?」

「本。彼女に頼まれたんだ」

「へぇ!良いですね!私も...欲しかったなぁって思ったり...」

エミルは上目遣いで手を前で組んでねだった。

クハルの頬が少し赤らむ。

「あ、あぁ。今度どこかへ行った時、覚えていたら」

クハルは目をそらして鼻を人差し指でこすった。

「やった!クハル様、ありがとうございます!」

周りにはもう他のメイドはいない。

「それでは坊っちゃま、私は仕事に戻ろうと思います。他の方ももう戻っていらっしゃるので。お荷物、お部屋にお運びしましょうか?」

「頼むよ」

クハルは荷物をエミルに手渡した。

「それでは失礼します」

エミルはクハルのスーツケースと手荷物のバッグを両手に持ち、クハルの部屋へ向かった。

クハルはどうしてもリーナが気になって台所へ向かった。




-少し前

「もう...クハルが帰ってくるのに...」


-「おかえりなさいませ、クハル様!」


-あぁ、帰ってきてしまった。

彼を待ってていち早く会いたかったのに。

今、行ってしまおうか...


私は皿を集める箒を手放し、台所を出ようとした。


-仕事を放棄するわけには...いかない


自分の真面目さを恨んだのは初めてだったが、ここで仕事を放棄する気にはなれず、私は箒を拾い上げた。

仕事を早く片付けて会いに行けばいい、と自分に言い聞かせて塵取に破片を集めた。


ようやく集め終わって、零れないように紙でくるんで、袋に入れて口を結んだ。

「ふぅ」

と一息つくと、外から足音が聞こえた。

入口の方を見ていると、少し見ていなかった顔が出てきた。

「リーナ、ただいま。大変だったね。怪我はしてない?」

「クハル!おかえりなさい!出迎えてあげられなくてごめんなさい。怪我はしていないわ」

クハルは安心したように微笑んだ。

「いいよ、今会えてるんだから。それより君が皿を割るなんて珍しいね。ここに来た時以来じゃないか?」

言いながらクスクスと笑った。

ん?私が割った?

「ちょっと待って、私は皿を割ってはいないわ。片付けはしてたけど...」

「またまたぁ。エミルさんが言ってたんだよ?君が皿を割って、今片付けてるって。邪魔になるから行かない方がいいとは言われたんだけど、どうしても顔を見たくなっちゃってね。もしかして本当に邪魔だった?」

「いやいや、そんなことは!」


-エミルが...?皿を割ったのはセレナなのに...

どこかで情報が入れ違ったのかしら...


「無事に片付けも終わったようだし、そろそろ僕も部屋に戻るよ。荷物を片付けなくちゃ」


-まあ、エミルに止められてもクハルは私に会いに来てくれたし、気にすることでもないか!


「えぇ、わかったわ。今度はクハルの番ね!あとで部屋に行ってもいいかしら?」

「いつでもいいよ。待ってるから」

クハルは笑顔で手を振って出ていった。

今の時間は丁度昼過ぎ。

-行くとしたらティータイムかしら。

私はクッキーを食べてしまったことに気づき、街に出た。


街は栄えていて、人通りも多かった。

メイド服で歩いている人は流石に少なくてかなり目立ったが、もういつもの事なので気にしなかった。

菓子屋に行って、クッキーを買った。

クッキーの入った紙袋を持ち、屋敷に向かった。

外に出たついでに散歩をして帰ろう、と思って少しだけ遠回りした。

昼間だから子供が沢山いて、メイド服が気になるのか、何度も話しかけられた。

そうこうして、たまに子供達と喋りながら歩いていると、本屋を見つけた。

私は立ち止まった。

小さい本屋で、客もそんなに入ってなさそうで、店主のおじさんが1人で営んでいた。

-それで商売出来ているのかな...

するとおじさんがいるのを見つけた子供たちがリーナの周りから急に駆け出し、「おじさん!」と笑顔で声をかけた。

彼は無愛想に見えたが、子供たちの声に微笑み、本棚から絵本を持ってきた。

見ると店の奥に椅子が並んでいて、子供たちはそこに座った。

おじさんはその子供たちの前に椅子を持ってきて座り、読み聞かせを始めた。

私は胸が暖かくなるのと同時に恥ずかしくなった。


-店は商売だけじゃない。周りとの触れ合いの場でもあるんだ...


この本屋の店主は恐らく商売出来ているからこの店をやっているわけじゃない。

こうやって子供たちが来るから店をやっているのだ。

嬉しくなって、急に本を読みたくなった。

帰ればクハルのお土産の本がある。

早くクハルの部屋に行ってお茶しながら本を貰おう。

私は楽しみで、思わずスキップをして屋敷に向かった。

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