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突然現れた抗えない絶大的存在は矮小である人間の命をいたずらに奪い
まるで気にすることもなく飛び去った タキが死んだ
死ぬ意味も理由もなく ただ一方的に殺された
ついさっきまで生きていて呼吸をし温かかったタキは肉塊となり 瓦礫を血で彩って二度と動くことはない
死んだのだ
変わり果てたタキの体を見つけた杉山は 恐怖に震えるでもなく怒りに支配されているようでもなかった
木葉の何度目かの呼びかけてで杉山はようやく振り返ると行動を開始した
安全を確保するために今は行動を開始すべきなのだ
「灯りが消えてる」
走りながらも木葉が呟いた
街灯も立ち並ぶマンションや住宅からも生活の気配がなかった
それにまだ深夜でもないのに行き交う人もクルマもないのだ ドラゴンの出現だけが異変ではなく
もっと大きなズレや現実にバグが起こっているのではないか?
杉山はそう直感していた そしてそれは正しかった
いくらか走ると川を跨ぐ鉄橋の先が消えているのが見えた
闇にのまれて見えないのではなく完全に存在していないのだ
鉄橋の中央辺りから先が切り落とされたように消滅し川も空さえもない
「これどういうこと!?」
木葉が杉山に答えを求める 当然このような異変は見たことも聞いたこともないのだ
答えようがない杉山だったが 緊張感のない言葉を発した
「腹が減った」
事態の改善や問題の解決といった取るべき行動 目指すべき事柄から離れ 杉山は空腹を満たすために木葉とコンビニにいる
無人のコンビニはきちんと営業していた ただ無人というだけで店内BGMは流れ 冷蔵庫も保温機も作動していた
けれども公衆電話と備え付けのFAXは動かない
「早く行こう」
買い物カゴに大量の商品を入れる杉山に呆れる木葉
辺りの闇から何かが訪れここを取り囲むのではないかと B級映画さながらの事態に陥ることを恐れる
それも当然だ もう何が起きても不思議ではないのだから 普通の神経の持ち主ならば悠長に買い物などしない
ちょっと変わった人なのかと杉山を疑い始める木葉
カゴいっぱいに入れた商品を当然という顔で持ち去る杉山に慌てて声をかける
「お金払わないとダメだよ!!」
言葉もなく無言でカウンターにカゴを置く杉山
当然誰もいないのだからいくら支払うべきかわかりようがない
「木葉さーんレジお願いしまーす」
まるでバイトにきた新人に指示するような演技じみた物言い
とっさに木葉はカウンターに回ってバーコードリーダーを握った
しかしコンビニのレジ打ちなど経験したことはない
「すいません 急いでいるんですけどー?」
困らせようと杉山は悪態をついて見せる
「千円です・・・」
木葉は杉山を呼び止めたことを後悔した
くしゃくしゃの千円を受け取り それをとりあえずレジの受け皿に載せる
「ありがとうございました」
新人研修のようなぎこちない仕事を終えた木葉がカウンターから戻って杉山の手を握った
「行こう」
少し恥ずかしそうに木葉は早足で杉山を引っ張って行く




