PRISONER
ワイバーンの襲撃は全方位からの攻撃となり
火力は必然的に拡散され薄まった
絶え間ないワイバーンの捨て身の攻撃についに城塞が揺らぎ始めた ケルベロスの五人が動き電子砲で飛来するワイバーンを焼き払う
威力は絶大的でありまるで剥がれるようにワイバーンが墜ちる
しかし数の前にはその威力を持ってしても戦力は削られる 障壁が展開され炎を遮るも 長くは続かず大勢のプレイヤーと城塞の半分を破壊されてしまった
ワイバーンの勢いが弱まったころ 立っている近接プレイヤーは杉山と堀川だけであった
継続的に放たれていた弾幕も勢いはなく ワイバーンの鱗を撃ち破る数がない
強力な射撃スキルを有したプレイヤーは狙われ 噛み殺されている ケルベロスだけがその中で残った
電子砲は耳障りな音を奏でてワイバーンを焼くが それにも使用限界があった ケルベロスはそれを知っていて限界まで温存したのだ
だが今回は彼らの予想を超えた数であったがために投入が早まり また雑な運用となってしまう
堀川はケルベロスに余裕がないことを察していた そしてこの次に訪れるワイバーンたちの王との戦いに備えて一人戦域から離れる
杉山はそれにきづくも堀川を追いかける余裕はなかった
次々と迫るワイバーンをかわして辛うじて反撃するのが精一杯である もちろんそれが行えるのはまだ味方が生存しているからである
ケルベロスの電子砲が不調をきたし 大部分のワイバーンが城塞に取り付く
杉山が動く ケルベロスに全滅されては7番の所在がわからない
そこへ後列からの銃弾が迫る 誤射ではない 敵前逃亡と判断され狙撃されたのだ 杉山には銃撃は通用しない
城塞からの銃撃をものともせずに杉山は後退した 完全に近接プレイヤーを失い 空白を埋めるために射撃プレイヤーが否応なしに前へと出ることを要求された 杉山は近接だけでなく射撃プレイヤーも捨て石なのだときづく
ケルベロスが存続し確実に成長するシステムなのだ
けれども力を持たないプレイヤーはそれにすがる他ないのだ
偶発的にその図式が今崩れている 杉山は人とワイバーンの間を縫って走った 逆走する杉山をケルベロスも把握していた
けれども今はそんな些細なことを気にする余裕はなかった
大地を人とワイバーンの血が満たしたころフェーズ2が終了した 満足に動けるのはケルベロスの五人だけである
杉山も接敵したワイバーンとの戦闘で幾らかのダメージを負っている 血塗れとなった杉山が装備をきにするケルベロスの元へ辿り着いた
「ご苦労だったな 良い働きだった
我々ケルベロスも消耗した 散っているメンバーを招集しても次のフェーズは厳しい きみもここを離れてやり過ごすべきだ
このエリアの戦闘は終わった 次に来るドラゴンに有効な武器を失ってしまったよ」
クラン ケルベロスのリーダーであろう男が杉山に言った
「おれはここに残る まだ仕事が残ってるんだ」
杉山が言うとアサルトライフルを向けた
「本気か?
我々ケルベロスは最上位ランクのクランだ
人数だけじゃない 装備もきみの想像を超えたものだ」
杉山がアサルトライフルのトリガーを引くと同時に五人が動いた 強化スーツをまとった連中の動きは速く アサルトライフルの射線から瞬時に離れて電子砲を向けた
だが近すぎた 電子砲の発射にはわずかにチャージを必要とした それを狙って杉山がアサルトライフルで電子砲を破壊した
チャージにより収束したエネルギーが爆発した まだ逃げることを選択していなかったプレイヤーもろとも城塞が吹き飛んだ
爆発はエリア全域に渡って響き渡り 強い衝撃波が駆け巡った
それでも杉山は立っている 強化スーツをまとっているといっても電子砲の爆発には耐えられるはずはなく
四人の強化スーツは破壊されて蒸発してしまった
「遠距離攻撃無効化スキル ファーストと呼ばれる女のスキル 私が欲した最強のスキルだよ」
四人の部下を盾にして男は爆発を耐えていた
そして笑っている まるで杉山を敵とさえ認識していない余裕があるのだ
シルバーホワイトを抜くと同時に男を斬りつける杉山 しかし手応えがない
「ここにケルベロスが五人しかいなかったのは慢心ではない
私一人でも十分戦えるからだよ 私もスキルを持っている近接攻撃無効化スキルだ」
杉山のシルバーホワイトから放たれるワイバーンさえも凍結させた力が届かない
アサルトライフルで銃撃を行うもの強化スーツがそれを弾いてしまう
「ウィザードへの弔いか?それとも私たちケルベロスが捉えたあの女への執着か?」
男は杉山を殴りつけた 小さな動きであったが杉山の体は宙を舞った
剥き出しの大地に叩きつけられる杉山
「あの女の使役する獣は危険なのだよ
元ウィザードのファーストよりも危険な存在になり得る
それでは困るのだ 我々ケルベロスはこの世界を レギオンを望んでいる 終わらせてもらっては困るのだ
きみも強くなり過ぎたようだ 消えてもらうよ・・・」
男が最後まで言うと突然ゆっくりと膝から崩れた
狙撃を警戒して杉山が辺りを見回した そこには見慣れない男が立っている そして傍らには木葉がいた
「その男は死にました 彼 立花から発せられた毒を吸ったのです
でも大丈夫 古い世代のプレイヤーと一部のNPCにしか効果はありません」
木葉が淡々と状況を説明した
立花が杉山に近づき手を差し出す 杉山がそれを掴んで立ち上がる
「ここに来る途中きみの仲間に会ったよ
もうすぐここに到着する そしてきみが探している7番と呼ばれる女性
彼女は今 現時点でクラン ケルベロスのリーダーに昇格した高比良というプレイヤーの手中にある」
事情通の立花に杉山が疑いの目を向ける
「ぼくはゲームマスターじゃないよ
ただの調整役として派遣されたプレイヤーだよ
そしてそっちの女性はゲームマスターからぼくに与えられたバイオドール プレイヤーじゃないんだ」
嘘を言っているようには見えない そう杉山は感じた そしてバイオドールという言葉が杉山の中で弾けた
「木葉 楓 きみは何人いるんだ?」
杉山が問う
木葉は面識のない杉山から思わぬ質問を受け 多少困惑したが明確な答を返した
「必要な数だけ生産されています 個々にリンクしているわけではないので全体数を把握できません」
ひどく事務的な言葉で一片の温もりもない
「まもなくフェーズ3が始まる ここにドラゴンがやってくることは約束されているんだ
毎回誰かがそれを倒してレギオンはまた次の回を迎える
言うなればぼくたちは囚人なんだよ
それでも今回は最高ランクに到達できるプレイヤーが二人いるみたいだね
ケルベロスの高比良 そしてゲーマーズの杉山君きみだよ
ぼくは疲れてしまった 彼女を頼めるかい?」
立花はそういいながら仰向けに倒れた
そして杉山の返答を待っている
「わかった」
長い沈黙の後 木葉が言う
「立花が死亡しました オーバーアサルト 能力の限界を超えたのが直接的要因です」
おそらくは長く連れ添ったであろう立花の死にあまりに無機質である
「少し黙ってろ!!」
杉山が声を荒げると その瞳をまっすぐに受け止め 木葉は口を閉ざした
様々な感情が杉山を壊し始めた 声を殺しても涙を止めることまではできなかった
木葉 楓 その足元で泣き崩れる杉山 ミサキはようやく再開できた杉山の悲痛な姿を偶然にも目撃してしまった




