DOLL
獣とも人とも言える獣人が唸りをあげている
空腹を満たそうと群れから外れたリーダーを執拗に追いかけ追い詰めたのだ
パンツァーファウストとライフルを駆使して接近を許さないが 倒しても倒しても獣人の数は減らない
杉山を探して回るリーダーの旅は終わりに近づいていた
闇に溶ける獣人の体色が射撃スキルを鈍らせ 連戦を強いられたリーダーの気力も削がれていた
「大丈夫か?」
リーダーの後方から声がかかるプレイヤーだ
獣人の群れが新しい獲物に向けられた 弱っているリーダーに背を向けて一斉に襲いかかる
声の主は微動だにせず襲いかかる獣人を倒した
武器を使用したわけでもなく 彼は接近する獣人を眠らせるようにして命を奪ったのだ
「魔法使い?」
リーダーが言うと彼はそれを否定する
「そんな上等なものじゃないよ」
柔らかな口調が悪い人間ではないようにリーダーに思わせた 現に弱ったリーダーに攻撃するようなそぶりはなかった
「もうすぐヤバイのが来るらしい 一緒に行かないか?」
友好的な彼は立花と名乗った そして一人の女性プレイヤーを連れている リーダーの見憶えのある人物だ
「木葉 楓です ここはとりあえず共闘しましょう」
ミサキからリーダーは少しだけ木葉のことを聞かされていた 杉山が親しくしていた木葉と別に数人の木葉 楓が別に存在するということを
「クランのメンバーがいるんだ少し離れた所にいる
まずは彼らと連絡を取りたいんだ ここからでは通信機も使えない」
立花が木葉に相談するとリーダーの問題は容易に解決できた
木葉が小型の端末を取り出してそれを操作すると周辺マップが立体的に辺りに表示された
そこにはリーダーと立花 そして木葉のいる現在地からミサキとユウタのいる場所までの繊細なルートが選択された
「これ特殊スキルらしいけど 彼女にしか扱えないんだ 所属するプレイヤーのクランメンバーを検索できるみたいだ いまいち使い道に困るんだけどさ」
立花が好戦的な性格であればそれは兵器となるのだが 木葉のスキルはどうやら便利なGPS程度にしか思っていないようだった
「ここからだと向こうからも移動してもらえれば合流にそれほど時間はかからない
他のプレイヤーの反応も 徘徊型NPCもいないようだ」
立花が周辺マップを観察して詳しくリーダーに説明してくれる リーダーが仲間と通信できないかと尋ねると木葉が短時間なら可能だと端末を操作した
「同じクランに属しているプレイヤーとは通信ができるんだ
ぼくは無所属だから使ったことはないんだけどね」
立花が言いながら木葉から端末を受け取りリーダーに渡す
受け取った瞬間リーダーの目の前にミサキとユウタの登録された画像が表示された
そして画像のない文字だけの杉山もそこにあることを見落とさない
「彼とも連絡を取れるのか?」
リーダーが指差したのは杉山である しかしそれはできない
「クランメンバーでもそこに表示されている通り その方は現在別クランと合流しています
その場合は内偵行為を防ぐために通信は制限されます」
木葉の口調は事務的でさながらプログラムのようであった
リーダーはミサキとユウタに端末を通して呼びかけた 二人は無事であり呼びかけに反応を返した
リーダーは中間地点を割り出して合流を提案 そしておおよその杉山の位置を特定したことを伝えた
それを聞いたミサキの声が元気を取り戻した
通信を終えて端末を返すリーダー
随分と進んだテクノロジーが存在することに驚く
「おかしなことを言うが きみたちは未来人なのか?」
立花と木葉は一瞬顔を見合わせて言葉を選んだ
「ぼくたちは未来人というわけじゃない あなたが過去の人物でないように未来も過去もない
ここは一つの時間軸に存在する空間であって ぼくらプレイヤーは等しく平等なんだ
科学技術もあらゆる時代の物が混在している 虚構と現実の世界 その中での生存競争だったかな?」
そこまで言うと自信なさげに木葉を見る立花
「彼女はプレイヤーじゃないんだ
言うならばプレイヤーをサポートする支援型のバイオドール
つまり人間じゃないんだよ ほとんど人間と同じだけどね
ゲームマスターがレギオンの均衡を保つために必要と判断したプレイヤーをサポートさせているんだって」
そこまで立花が言うと木葉が言葉をさえぎった
人と変わらないように見えるが目の前にいる木葉は どこか血の通っていないプログラムの集合体のように感じられた
リーダーは杉山と親しくしていた木葉との差異を感じていた しかしプレイヤーのサポートという箇所が納得できた
杉山という可能性を戦いに向かわせ 結果成長させたのは木葉という存在があったからだ
残酷な真実を知ってしまったリーダー
杉山にどんな説明ができるのか検討もつかない
リーダーたち三人はミサキとユウタと合流するために歩き出した
今は当面の安全を確保すべきだと リーダーは真実を胸に仕舞う




