CLAN
部屋に一人でいる杉山
窓を全開にして風を通して街の騒音を聴いている
一人でいる時に何をするということはないのだが 杉山はむげに過ごす時間も嫌いではなかった
誰からも連絡のない杉山のケータイ ゲームセンターへ行こうかと寝癖を整えると ドアをノックされる
きっとタキだろうとドアを開けるとそこには見知らぬ女が立っていた
「杉山さんですね?」
鋭い雰囲気を持った女の言葉 杉山は厄介なことになるのではないかと思いながらも要件を聞く
「今度のレギオンわたしたちのクランと共同で戦って欲しいんです」
女がどうして部屋を知っていたのかそれは別として 杉山はとりあえず女が仲間を紹介するというのでそれに従い
女のクルマに警戒もせずに同乗した もし敵だとしたら複数で襲撃する 敵でなく味方でもないとしても杉山たちには時間も情報もなさすぎた
残されたわずかな時間で少しでも生存確率をあげる必要があった
女はケータイを片手にハンドルを握り 杉山と接触できたことを仲間に伝えている
通話を終えると女が言う
「少し奥まった場所に行きます時間は大丈夫でしょうか?」
丁寧な口調が逆に杉山には居心地が悪い
当然時間に追われてはいないのだから 杉山は問題ないとそれを快諾した
市街地から一時間は離れると険しい悪路に入り込み やがてけもの道にさしかかると女はクルマを停めた
「ここからは歩きます」
杉山はいわれるままに女が先行して行くのに続く
風が出てきたのか木々が揺れ天気も崩れ始めているようだった
辺りの闇は深くなり街灯もないただの森となった 果てしなく歩かされるのを杉山が覚悟したのは草が身の丈程に高くなってからだった
「手を握りますね」
はぐれることのないように女が杉山の手を握る
女性の温かさに杉山は木葉を思い出す
風がより強くなると小雨が降り出した それでも女は引き返そうとはしなかった
「もう少しです」
その言葉のあとさらに歩くと沢に着いた そこで女はライトを取り出して何度か点滅させた
対岸にある生い茂った森から人影が姿を見せる
「様子がおかしい 杉山さん隠れてください」
女が言うとライトを消して身を低くした
そして何やら呟いている
杉山は近くにある身を隠せる岩陰に入った
「悪い予感がするな」
杉山が言うとアサルトライフルを呼び出し 岩陰から対岸を窺った
確認できるのは二人であったが 射撃武器を持った敵が潜んでいる可能性がある 杉山はうかつに体をさらけだすことはしない
女が呟きを終えた
辺りの闇を照らす太陽のように燃えさかる大きな何かが生まれた
「行きなさい」
女がそれに命令すとそれは遠吠えをあげて動いた 沢を跳び越えて紅の光跡を描き目標に近づく
それは大きな体躯に炎をまとった狼であった
女の放った狼に連中は銃撃を開始したが それは無駄であった
一人は太い前足に踏み殺され そしてもう一人はトリガーを引きながら噛み殺されることとなった
「魔法でも使えるのか?」
杉山の言葉には答えず女はさらに狼を操り 周囲を索敵する
狼と女の距離が離れた刹那 飛来する物体が側面から杉山と女に迫った
声を出す余裕もない奇襲であった 杉山がとっさに女を突き飛ばして身を伏せる
飛来したのは携行型ロケット砲弾であり 岩に命中すると爆発した
その威力は凄まじいもので岩が粉砕され 爆風が杉山の背中を焼いた
「狼を戻せ!!」
杉山が攻撃を受けた方向に銃撃を開始する
だが見えない位置からの奇襲である おおよそで反撃をしているにすぎない
敵の装填を阻止するには十分ではない
銃撃を続けながらも女を見ると 口から血を流して動いていない
死んでいるのかもしれなかった 確認する暇もない杉山は次の攻撃に備えて敵との距離を詰めることを選んだ
夜の闇に銃声と爆発音が響く 狼は主の命令が途絶えると姿を保つことができずに消滅し
戦えるのは杉山だけとなった
森へと踏み込んだ杉山は気配を殺すのではなく 木々を縫うように移動している
木を盾にして攻撃を避けていたのだ 直撃を受けずとも人を吹き飛ばすロケット砲だが 走り続ける杉山に連射の効かないロケット砲は適切な攻撃手段とは言えなかった
接近する杉山に再装填を焦る顔の見えない敵
再装填を終えてそれを構えた時には杉山の銃口が眼前にあった
ロケット砲を向けて杉山を威圧し 降伏するつもりはないのだと強がる
だが距離が近すぎる もし撃って杉山に命中すれば二人とも助からない
「銃をおろせ!!」
向けられたロケット砲が見えていないかのように杉山は動じない
無言で圧力をかけるも敵も譲らない 重い空気に包まれる二人をよそに雨が強く降り注ぐ
先に動いたのは杉山である
構えたアサルトライフルをゆっくりとおろして見せた
そしてそれから手を離した アサルトライフルが湿った土の上に転がった
不用意に敵はその行動を目で追っている 杉山の足が動いたのにきづくのに遅れ 胸を蹴られる
意識の外からの一撃は効果的でさらに杉山はロケット砲を奪い 腹部に拳を打ち込む
前のめりに倒れた敵を彼のベルトでもって両腕を拘束した
アサルトライフルとロケット砲を提げて 杉山は敵を引きずり女の元へと戻った
女は崩れた岩にもたれかかり かろうじて意識はあるようであった
身を守るために再び狼を出現させているが 先ほどとは違い狼から発せられる炎は薄い
「杉山さんご無事で何よりです」
女は変わらず丁寧な口調である 杉山はさらに接近する足音を感じたが狼が動かないことからそれが女の仲間であることがわかった
「もうお終いだ 魔女に喰われる」
拘束された男が震えて言った 杉山は成り行きに任せるしかない




