BLOOD
木葉の血液が杉山へと輸血された
他にドナーを募る時間はなかった 木葉の負担も大きいものとなった
体重も比較的軽い木葉にはきつい量の輸血だったのだが 横になっている杉山の容態が改善されたのを見て安心して笑う
「きみもしばらくはじっとしていろ」
木葉は黙って男の指示に従う
男は杉山の傷口も的確に縫合してみせた 医療機器の大半が動かないようだったが
メスやハサミなどを消毒して 見つけられた物でできる限りを行ったようだ
「信じられないよな あれ杉山一人でやったんだろ?」
男がいうのは鉄橋にあったコマンダーとその配下の死体のことだ
「相手だって武装してたようだし あの人数を銃があるからってやれるもんかな?」
詮索し何かを聴き出してそこから弱味につけこもうというわけではない もしそんな奴なら杉山を助けずに無防備な木葉は殺されている
「杉山君はきっと病気なんだと思う」
「病気って?」
男は木葉に説明を求める
木葉のいう病気というのは肉体的なものではない
心のありようなのだというのだ 杉山の少年時代を簡単に説明すると 男が語り始めた
「少年兵を戦争か何かに備えて作ったんだろうね?
それも念入りにだよ 子供の時に植え付けられた価値観というのは人格の形成に大きく作用するらしい
それらを本来あるべき道に戻してやるのは簡単なことじゃない」
男の言葉は個人的な主観や推測ではなく 蓄積されたデータによる分析の結果である
木葉は先を急ぐように口を開いた
「じゃあどうすればいいの?」
答えを求められても責任を取れるわけじゃないと男は前置きし続ける
「完結させてあげるしかないだろうね
彼の植え込まれた強さへの衝動や義務感 いや これはもう呪縛とか呪いめいたものだ
それを行った当事者との直接的対決か 精神的な克服を儀式的にやるべきだろう」
どこにいるのかわからないという父親を捜すことはきっとできない
そして強さの証明を繰り返す間に杉山はいつか倒れるだろう
木葉の表情がくもる
「人間の心はどこにあるか知っているかい?」
別方向の問いかけに木葉は反応できない
「人間の心?」
なんとなく木葉が指差したのは心臓
「そうだね 最近の臓器移植なんかで心臓や臓器にも個人を個人たらしめる要素 いうならば人格や性格つまりは心が宿っていることがわかったんだ
となると細胞や血液にだってそれがあってもおかしくはないってことになるんじゃないかとね 個人的な推測だけどさ
きっと今輸血した血液に君の心はあるし 彼の心と混ざり合い素敵な科学変化が起こると信じたい」
「医療従事者になるにはすこしロマンチストだったってこと?」
木葉は安心して男と笑い やがて穏やかな眠りへいざなわれた




