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シャッターの下りた商店街
やがて日が暮れようかという頃に手ぶらで歩く青年がいる
ずいぶんとくたびれた格好をしていた
不潔というわけではないが 自分を少しでも良く見せようという意識はないようだ
荷物も持たずに手ぶらである ケータイも持たずに無造作にポケットに突っ込んだ紙幣が僅かにあるだけ
たまに通り過ぎる自転車とすれ違ってもまるで見えていないかのように歩いている
小さなスクランブル交差点を抜けて緩やかな坂を登ると 長い鉄橋が川を跨いでいる
そこを超えると暗い街灯にそって路地へと曲った
学生街の片隅にあるゲームセンター そこが彼の安らげる居場所であった
誰と約束があるわけでもないが彼は同属の集まるこの閉塞的な空気を日々求めていた
プリクラやUFOキャッチャーなど置いてない時代遅れのゲームセンター
休憩用のベンチに彼は座ると店内をゆっくりと見回した
そこは昨日と変わらない そして明日も変わらないであろう若者の顔があった
耳を刺すような大音量のゲームが敷き詰められた店内
メンテナンスも十分とはいえないがゲーマーからすればあるべきゲームがある珍しくも古いゲームセンターである
店の外に学生の自転車が並んだ頃 場違いな客が訪れた
女だった
世界の約半数は女性であるが男連れでもない女が一人でこんな場所に来るのは珍しい
そしてまるで通い慣れた場所のように平然と振る舞い目的のゲームへと進んで行く
狭い店内にひしめいた男達は女に道を開けきれいに退いた
彼は女の振る舞いに見惚れているとこに声がかかった
「やっちまうか?」
そう言ったのはタキである 彼の高校からの友達であり卒業後も変わらず
同じ空気を共有していた
隣に座るタキの手には1.5Lの炭酸飲料が握られている
どうやら今日も閉店までここで過ごすつもりらしかった
そのタキが彼に言ったのは 気に入らない奴や目障りな奴を狩る
素人狩り カップル狩りのことで現実で危害を加えようとするのではなく ゲームでのことだ
様々なゲームがあり形式も多様だが
主に一人で遊ぶゲームと対戦や協力して遊ぶゲームがあり
女が始めたゲームは対戦と協力もできるアクションゲームだった
彼は他人をゲーム内で蹴落とすことに喜びを感じている いつもなら我れ先にと硬貨を投入しているだろう
特に女を連れたカップル狩りが彼とタキのお箱である
もちろんそんなことをすれば二度とこの場所に女が来ることはないだろう
しかし対戦台に女は座り 向こう側の席は空いていた
決めかねる彼を差し置いてタキは立ち上がり ゲーム内で女のキャラクターをゲームオーバーへと突き落とすつもりだった
彼の表情に焦りが見える いや彼だけではない
女はここに似合わない少女趣味の服を着こなせる一輪の迷い込んだ花である
タキの行動は女なんかには興味がないという硬派アピールでもあり またゲームセンターの厳しさを叩き込むというローカルな無言の掟に沿った行動であり
誰も避難はしない だが女の纏った雰囲気は上品であり若干いい匂いがするのかもしれない
そのことから獲物を前にしてひしめく男達は思考を停止させていた
彼の位置からは女のゲーム画面は見えない
だから彼は女の手元を観察していた
左手のレバーは忙しく動き 右手のボタンは小刻みに打たれている
通称グルグルレバーという症状であった
初心者プレイヤーがゲームに複雑なコマンドを要求されると陥る行動である
これはとても滑稽であると同時に珍妙な音を奏でてしまう
失笑を買うことは間違いないが 女である
そしてどうやらCPUの敵にも苦戦しているようだ
時間の問題である いずれは落ちる線香花火だ
ならば自分の手でというある種の義憤に駆られた古参プレイヤーが乱入した
そう一瞬タキよりも速く着席し硬貨を投入したのだ
女のグルグルレバーが止まる どうやら乱入されたのは始めてのようで表情が固まっている
ここで彼の中で正義の心が目覚めた
女のプレイするゲームは四人同時プレイが可能で 味方として隣に座り互いに運命共同体となれるのだ
タキは無難に古参の隣に座り硬貨を投入している
女一人に男が二人がかりで狩ろうというのだ
掟破りもいくらか許されようというものだ
彼は飛び出すようにベンチから動き 女には顔も向けることなく2P側に硬貨を投入した
「え?」
女は状況が理解できずに困惑している
やがてカウントダウンが始まり 男たちの熱い戦いが女を巻き込み開始された




