STRONGEST
涼原とソルジャーを連れたコマンダーは 杉山を尋ねようと完全武装で行進を開始している
目立たぬように普段は少数で動いていたが 今回はドラゴンに挑戦するのと同じくらいに重きをおいていた
「誰かいます」
先行するソルジャーがコマンダーに指示を求める
涼原は距離があったがそれが杉山であることを確認できた ソルジャーたちにコマンダーは指示を出して横列にて距離を詰めた
杉山がいる場所は先のない鉄橋の上だ 逃げ道を塞ぐつもりなのだ
背中を向けている杉山が手にしているのは釣竿で そばにはバケツがあるだけで武器は見当たらない
「もし拒むようなら始末せよ」
全員がコマンダーの言葉を飲み込むと 覚悟を決めて杉山を囲んだ
仲間にすることはまるではなから考えていないのだろうかとさえ思える
影に隠れる涼原にコマンダーは背中越しに呟く
「彼らには実践経験が必要だ 仲間にならぬのならば虎狩りを行うだけだ」
久しぶりの友達に語りかけるように 杉山は釣竿を置いて言う
「何か恨みを買うようなことをしたかな?」
鉄橋の幅は広くクルマが往来するのに不自由のない広さだ ソルジャー達は均一に広がりそれを塞いでみせた
ある程度の隙間はあるも 互いの槍が届く許容範囲である
「きみはこの状況をどう思う?
空想や物語の世界にいるべき敵がいて 我々を縛る法律も国家権力もない この状況を」
厳しい面構えを見せるコマンダー 杉山は中途半端な言葉でごまかそうとはしなかった
「何もしなければきっとしばらくは平和でいられる 無理にあがいて人を死なせるよりは今はいい」
杉山自身も平和が長く続くとは考えてはいない
だからといって多くの命を殺めるつもりもなく また仕組まれたゲームに無謀に挑む必要もないと思っていた
それはここに隔離された人々の想いと重なっていた
「ならばもし このまま敵が二度と現れなかった場合 このまま何もせずに枯れていこうと言うのか?」
ソルジャーは二人の言葉による決着を静かに待った
いつでもしかけるために心の中では刃を抜いているのだが それを表情には出さない
「ドラゴンには勝てないしゲーム攻略も不可能だ 何よりここで自給自足も悪くはないだろう」
対立とまではいかないにしろ杉山とコマンダーは反りが合わない
「生活するとなると食料だけでは足りんな・・・
女だ 我々は女も必要としている」
杉山の表情が変わった それを敏感に感じ取ったソルジャーたちは槍を強く握った 始まるのだと涼原は確信した
「諸君 虎狩りだ!!」
コマンダーの号令でソルジャー達は左右の三人 六人が盾を捨て杉山に襲いかかる クロスボウよりも強い充足感を求め槍を構えた突撃だ
「時代遅れなんだよ」
杉山がそう吐き捨てると右手にアサルトライフルが出現した
銃声が鳴り響き彼ら六人の体を無慈悲に貫いた
まっすぐに直進する六人は格好の的となり 杉山の眼前に崩れる
「放て!!」
慌てる様子もなくコマンダーはクロスボウでの攻撃を命じる 杉山は死体と生殺しとなった彼らを盾として攻撃を凌ぐ
クロスボウの矢では貫通力が足りず 杉山に届かない
残弾が少ない 再装填の前にコマンダーを仕留める必要が杉山にはあった
狙われるのはコマンダーであるとソルジャーも把握している
銃弾は盾に弾かれてコマンダーは守られた
コマンダー自身も盾を構え 残ったソルジャーに突撃を指示する
アサルトライフルに残弾はない 再装填が開始された
それを悟られぬように杉山が叫んだ
「近距離なら盾を貫くぞ!!」
ソルジャー達に刹那の迷いが生まれ杉山の銃口が説得力を増した
「あいつのライフルは自動装填されます 待ったらダメだ」
ここで涼原がアドバイスをしたことで コマンダーがソルジャーを鼓舞する
「逆賊を討てば女が手にはいるぞ!!」
再装填が間に合わない もはや銃口を恐れない四人を止めれるものはなかった
杉山はライフルを離し 手ぶらとなった両手で二本の槍を取った
左手は短く右手は長く槍を構え 囲まれることに備える
コマンダーは盾を捨てクロスボウを構える
近接戦闘を始めたソルジャーと杉山は入り乱れ とても狙撃できる状態ではない
杉山が直線上にソルジャーを挟むように動いてコマンダーからの遠距離攻撃をも警戒しているのだ
四本の槍に襲われる杉山は防戦一方であったが チャンスを狙っていた
披露から呼吸は乱れ 汗が頬を伝うも杉山の目は死んでいない
不用意に伸ばされた槍を足で払い隙を作った
杉山はコマンダーに左で持った槍を投擲してみせた
距離があるのだ命中してもたかが知れている
また 十分に避けれるだけの距離的猶予がコマンダーにはある
それでもソルジャーたちは槍の行方を目で追ってしまった
右の槍でもっとも近いソルジャーの胸と首を突いて 向き直ったもう一人の腹部に槍を突き立てた
一瞬にして数の優位を削がれ さらには杉山のアサルトライフルに再装填を許してしまった
突き出される槍をかわしてライフルを拾い トリガーを絞る
コマンダーに助けを求める二人のソルジャーの頭部が弾け ついには十人の部下をコマンダーは失ってしまった
「あんたも256なんだ 最後まで諦めるなよ」
杉山が折れかけたコマンダーの闘争本能に再び火をつけた
ボウガンから矢が放たれると銃弾と交錯し 杉山の右腕を貫通した
慌てて次の矢をセットするも コマンダーのボウガンからそれが放たれることはなかった
顔面に銃弾を受けてコマンダーは乾いたアスファルトに横たわった