MOB
杉山とリーダーの対決から数日がたった
ゲームセンターに残った人たちはしだいに散り々となって小さなグループを形成していた
けれどもゲーム攻略に挑むものは現れず 一定の秩序があった
どのグループにも混ざれない コミュニケーションを苦手とする男 涼原は自動販売機の前にいる
無理やりこじ開けられた自動販売機は 無残に商品を抜き取られ使われない硬貨だけが残されていた
ゴーレム以降 脅威は現れずたんたんとした日々が続いていた
空は澄み切って地面を走るクルマもなく静かであった
狭い範囲の空間にも慣れ もうこのままでもいいのかとさえ思えるほどに涼原は適応していた
それはポジティブな気持ちからくる適応ではなく 異変が起こる前の日常でも言葉を発する機会さえほとんどなかったのだから 当然友達も属するコミニティーすらなかったのだから 気に病む必要はないといったネガティブな諦めからくる想いである
プレイヤーキルを警戒し単独での行動は避けるべきだが どうしても以前と同様に閉ざしている
結果 食料の確保も効率的ではなく 誰かが興味も示さなかった物を口にいれることになった
それも限界らしく彼の足取りは重く 乱雑に乱れた頭髪と伸び切った髭が限界を感じさせる
何があるわけでもないが歩き続けた
ちょうどなんとなくゲームセンターへと向かっていた時のような気分で
やがて涼原は疲れ誰も通らないのだからと道路の真中に座り込み 仰向けに倒れた
少し休んでまた歩き出すつもりだったのだろう しかし行き倒れのように動かない涼原に声がかけられる
「何か見えるのか?」
軍人のような厳しい顔をした男が立っていた
足音もたてずに涼原の隣にいる
慌てて起き上がると どうやら男は数人の連れを伴っているのがわかる
男同様に全員が武装している みんながするような簡易的な武装ではなく どこで用意してきたのかクロスボウと鋭く長い槍を持っている
「怯えることはない 我々はプレイヤーキルはしない」
男の言葉を信用はできないが もう逃げれる距離でも体力も残されてはいない
頭の上に表示される数字は256 杉山と同じ数字から強い存在であると涼原は確信する
「食物が欲しいのならついて来い いい場所がある」
男に従い涼原は彼らと行動を共にする
スポーツクラブの食堂 そこには冷蔵庫がありまだいくらかの凍った食料が残されていた
もちろん大量の飲料水もあった
それらを存分に食べることを涼原は許され 機嫌を損ねないように目配りしながら口に運んだ
まるで罰ゲームでもさせられているような 重々しい空気がそこにはある
涼原の正面に座る男 彼はコマンダーと呼ばれていた そして彼の取り巻きはソルジャーと呼ばれていて番号で呼ばれている
統率のとれた彼らは軍隊のような厳しい規律と規範で秩序を保っているのだろう
私語もなく何かに備える待機を直立不動で続けるソルジャーたち
弱々しい声で涼原が食事の礼をいうと
コマンダーが口を開いた
リーダーとは違う強い要求のような拒めない力を秘めた言葉だ
「きみの見た中でもっとも高い数字を持つ者は誰だ?」
杉山だと涼原は素直に声に出した
「そいつには仲間がいるのか?」
この問いにも正確に途切れ途切れではあるが涼原は答える
「武器は?」
尋問にも似た語り口は完全に涼原を恐怖させてしまう
涼原の手は震え父親に許しを乞う幼子のように 恐怖に支配されているのが見て取れる
「我々はこの状況を絶好の機会だと思っているのだ ここには敵がいる 我々の打ち倒すべき敵がいる
しかしそれはあまりに強く強大な存在である」
コマンダーの言葉からそれがドラゴンのことであると涼原にも理解できた
「弱者が群れても仕方がない その男 杉山を同志として迎え入れたい」
コマンダーは涼原に案内を丁寧に要求し 考えさせる暇もなく了承させてしまう
杉山がアサルトライフルを所持していることを進言すると コマンダーはソルジャーに盾を持ってこさせた
どうやら手製であるらしいが銃弾を遮ることができそうな大きな金属の盾
力でもって杉山を味方に引き込もうという魂胆だ
対ドラゴンを想定して備えようという彼らに 杉山のアサルトライフルだけでは勝ち目がない
奥に待機していたソルジャーが整列すると その人数は十を超えた