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おわり

小説内に未成年の飲酒シーンがありますが、未成年の飲酒を促すものではありません


未成年の飲酒は発育への影響が懸念されています


法律で禁止されているからではなく、自分の為にやめましょう


お金を払って領収書をもらってから辺りを見回す。



お兄ちゃんはよく『毎日毎日頭ぶつけてたまるかー』と自分の身長に憤っていたけど、頭一つと半分背の低い私からすれば当てつけにしか聞こえない。



まぁ、こうして人探しをするときは見つけやすいから五分五分だと思う。



なんて考えていると背中にポスっと妙に軽い衝撃がお酒のにおいと一緒に圧し掛かってきた。




「春香ちゃん、お迎えご苦労さまぁ~。お腹すいたか早く帰ろっか。そういうわけで可愛い妹ちゃんと帰るから君は帰ってくれていいよ~。はい、これタクシー代ね。バイバイ~~。」




お兄ちゃんが背中でゴソゴソと動いているせいで、体の向きを変えるのに思いのほか時間を使ってしまった。


十メートルほど離れたところに綺麗に着飾った女の人が丁寧にお辞儀する。



私もそれに倣って会釈するとその女の人が近付いてきて、その瞳に明確な敵意が宿っていることに気付いた。



その綺麗な人は微笑みながら上品に笑って口を歪に歪めた。




「初めまして、慶吾さんとお付き合いしている矢野 美佳と言います。よろしくね。」



「初めまして、妹の春香です。大変言いにくいのですが、酔ってしまうと連れて帰るときに迷惑するのは私なので、今後このような機会があるときは慎むように言ってくださいね。」




微笑みながら返した私の言葉が気に障ったらしく眉を上げてさらに言葉を紡ぐ。




「ごめんなさいね、春香ちゃん。でも私も慶吾さんも大人なんだから気にしなくてもいいのよ。タクシーだってあるし、大人には他にも色々な過ごし方があるから。彼氏と遊びたくなったらいつでも言ってちょうだいね。オジャマムシは私がどこかに連れて行ってあげるから。」




頭の中で血管が千切れるような音が聞こえた気がした。



ビンタの一つでもお見舞いしてやろうかと思ったところでお兄ちゃんが先に動いていた。



お兄ちゃんは私と彼女の間に立っていた。




「こら、美佳。春香ちゃんはまだお子様なんだからあんまり刺激の強いこと言ったらダメだろ。それと春香、お前もだよ。美佳はお兄ちゃんの後輩何だから邪険にしちゃいけません。あと美佳、今日は悪いけどお開きな。春香が俺の好きなビーフシチュー作ってくれたんだ。じゃあな、美佳。」




お兄ちゃんはその人のほっぺたにキスすると私の手を引いて歩きだした。






「絶対に嫌!!私、そんな恥ずかしいこと絶対にしないからね。お兄ちゃんのバカ!!」




一時間弱ある帰路を四分の一歩いた場所で私とお兄ちゃんは喧嘩していた。




「別にいいだろ、春香ちゃんー。お兄ちゃんのお願い聞いてよー。一生のお願いだからー。」




ヘラヘラ、フラフラと千鳥足で私に着いてくるお兄ちゃんは何を思ったのかいきなり『春香ちゃんを抱っこする。』と駄々をこね出したのだ。



高校二年生になって抱っこされる女子高生の気持ちも分かってほしい。というか分かって。



お兄ちゃんはお酒に弱いくせにお酒が好きだ。



その上、ワガママになるし、自分の欲望に素直になる。



素直になってくれるのはうれしいけど、TPOは最低限守ってほしいと切に思う。




「へへっ、隙アリッ。」



「へ?きゃっ!?や!!放して、お兄ちゃん。」




溜め息を吐いた私の隙を突いて、お兄ちゃんは私を横抱き、いわゆるお姫様抱っこして歩き出した。



鏡で確認しなくても分かるほどに頬が上気している。



なんとか放れようと試みるが無理だった。



諦めた私はせめてもの妥協案としておんぶに変えてもらう事が出来た。




「昔より重たくなったな、春香。お兄ちゃんはとっても安心し…いてっ!こら、叩くな!!」



「女の子に重いとか言わないで!!ただでさえ秋は体重が増えないか気になってるのに!!」




自分では思いっきり叩いているつもりなのにお兄ちゃんはケラケラと笑うだけだった。



夜の帰り道は静かで、気の早い雪虫が幻想的に見えて、街灯すらも幻想的に見えて、お兄ちゃんの背中が暖かくてつい口を閉ざしてしまう。



だからふと気が緩んでしまった。




「………お兄ちゃんの背中って暖かくって、こんなに大きかったんだね。忘れてたよ、私。」




お兄ちゃんは頷くだけで何も言わずに、揺れる。



それにつられて私も揺れる。




「俺さ、今日はプロポーズされた。」



「……へぇ、そうなんだ。」




なんとなくそんな気がしていた。



家に着いた。




でも何を話したのか覚えていない。



話したかも覚えていない。



気がつけば私はお兄ちゃんと一緒にリビングに寝転がっていた。




「なぁ、春香、水~~。」



「はいはい、お兄ちゃんはソファーにいてね。」




床にうずくまっているお兄ちゃんはなんとも情けなかった。



家に帰ってきてからお兄ちゃんはまたお酒を飲み出した。



ビールを飲んで、開けたら焼酎。


焼酎を飲んで、開けたらワイン。


ワインを飲んで、開けたらブランデー。


ブランデーを飲んで、開けたらようやくギブアップ。



冷蔵庫の中にあるペットボトル詰めのミネラルウォーターとグラスを持ってお兄ちゃんが呻くソファーに向かう。



お兄ちゃんはグラスに注いだそれを飲むと顔をしかめた。





「春香、水が冷たいから飲めない~~。ぬるい水飲ませて、春香~~。」




しなびたお兄ちゃんは眼を閉じながらそんな言葉を呟く。



私は返事をせずにグラスに口を付けた。



確かに冷たかった。



口の中でたっぷりと水を行き来させてからお兄ちゃんの両瞼に左手を添える。



ピクリ、と小さく反応したけどそれ以上は何もなかった。



お兄ちゃんのサラサラとした前髪が流れ落ちる様子が見えた。



お兄ちゃんの伸ばしたように長い睫毛が見えた。唇が暖かくなった。



水を流し込むとお兄ちゃんがゆっくりと嚥下する。



全部移し切ると汗と香水とお酒の匂いが混ざった匂いが流れ込んでくる。



お兄ちゃんの頬が赤いのは私の気のせいだろう。




「もう一口欲しい?」



「うん、欲しい。」



「冷たい水?ぬるい水?」



「ぬるい水ちょうだい。」



「うん、いいよ。」




結局ペットボトルの中身は全て私とお兄ちゃんの中に消えてしまった。




「なぁ、はる…」



「夢なの。」



お兄ちゃんが何かを言ってしまう前に区切った。




「夢なの。これはたまたまお兄ちゃんと私が同じ夢を見ちゃっただけなの。だから夢なの。」




言い聞かせるように言うとお兄ちゃんの寝息が聞こえてきた。



私はそれに感謝すると毛布をお兄ちゃんにかけて冷蔵庫に向かう。



開けると一本だけ缶ビールが残っていた。



それを手に取るとドアに手をかける。



一度交差してから自分の部屋に続く廊下を歩く。



私はその日初めてビールを飲んだ。



初めて飲んだビールはシュワシュワして、苦くて、色々な味がした。



多分私はこれからビールを飲むことがないな、そんなことを考えながら瞼を落とした。


閲読ありがとうございました


これは中学生の時に考えたものです



小説名の[ベルガモット]は柑橘類の果物です


香料として使われますが、光毒性を持っています


*光毒性は紫外線を浴びると害毒になる


前回の恋が成就したので今回は悲恋にしました


次は男の子視点の話を書くと思います

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