7.5 ヘイロン
本編からそれてみました。
生贄にされる前、村の少年だった頃のヘイロンくんのお話です
7.5 ヘイロン
「君、気持ち悪いね」
大体、初対面の奴は俺を見て、そう思うことだろう。が、しかし、面と向かって言われたのははじめてだった。一瞬驚いてしまったが、無論、傷付くこともない。今更だ。なんたって、理由は明らかだ。――俺の髪の色は、真っ黒。金か銅か、たまに赤か。そんな村の中で、俺はいやに目立つことだろう。
「知ってるさ。俺の一族はこうなんだ」
綺麗な金髪の少年は俺の言葉に驚いたのか、目を見開いた。それより、俺は驚いていた。発言とか、少年の美しさとかでなく、登場の仕方に。木の上から、膝でぶら下がって、逆さに出てきたのだ。しかも、いきなり。
「そうでもなかった気がするけど」そんなことを呟いて、少年は木から飛び降りた。
…は?
「俺の親を知ってんのかよ」
そんなはずはない。俺と同じくらい、いやそれ以下に見える少年が、俺の父さんを知っているはずがない。なんたって、俺も知らないのだから。
俺の父さんは、俺が生まれる前に森へ出された生贄だ。
それに、母さんのことなんて知ってる奴もいない。
俺は、孤児院で育った。要するに、この村に俺の一族を知る子供なぞ、居ないのだ。
そう言われて見てみると、こんな少年、この村で見たことはない気がする。大体、寂れたしがない村の子供にしては、気品が有りすぎる。綺麗な金色の髪だってそうだし、人形の様にくりりとしたエメラルドブルーの瞳だって、シルクの服だって…。並み大抵の村人とは確実に違う。なんつーか、オーラ…みたいなのが。
「お前、何者だ」
俺が睨みつけると、その少年は「ふふふ」と微笑んで、転がっている丸太に腰掛けた。
「いや、僕はね、たださ。君は、どうしてあれだけ言われててめげないんだろうって、その根性というか、粘り強さに恐怖したんだよ」
あれだけって…?
「髪がどうなこうな、って影で言われてるじゃない。知らないわけじゃないでしょう、ヘイロン」
その少年の口ぶりからすると、少年は俺を、少なくとも髪色で偏見しているわけじゃないらしい。
よく分かんないけど、つーか、外部の奴…?なのかもわかんねぇが悪い奴ではないらしい。
「憐れむことはあっても、村人を恨んだことはねぇよ。外見しか見られないなんて、人生損で可哀想な奴らだよな。つーか、どうやって名前…」
俺がそこまで言いかけると、また少年は木に登っていってしまった。顔に似遣わない早業で。
「人に質問したなら、自分も質問にこたえろ!」
叫び声も空しく、少年の影は消えてしまった。…くそ。なんなんだよ、あいつ!
踵を返して森を出ようとしたとき、かすかな声が聞こえた。
「風の噂に、聞いたのさ」
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「…ロン!ヘイロン!」
テティスが俺を覗き込んでいる。岩場で日向ぼっこすると言い出したコイツに付き合っているうちに、寝てしまったらしい。
「どうした?」
「コルトーがね、遊びに来てくれたよ!」
テティスは、まだセリフも言い終わらないうちから、風と一緒になってコルトーと遊び始めた。
「よくここにいるって分かったな」
俺がわざとらしく言うと、コルトーもわざとらしく微笑んだ。
「風の噂に、聞いたのさ」
…あれ。
…まさかな。




