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白黒の龍の日記  作者: ヘッドホン侍
龍にしましょう
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4.わがまま娘


ヘイロンは結局、龍をテティスと名付けた。

4.わがまま娘




「テティス!ほら、危ないだろ」

岩の上で風と戯れていた娘、テティスは、後少しで落ちそうになった。俺に抱きかかえられたまま、テティスはまだ興奮が覚めやらぬようで目をキラキラさせている。

「だってヘイロン!もうすぐ、こ…」そこまでテティスが言うと風がいたずらに吹いた。


《コルトーガクルノ》


楽しそうに歌った。この声は、いつかの…

「ジョセフィーヌじゃないか。やぁ、ヘイロン、テティス、遊びにきたよ」風の妖精が楽しそうに笑った。

「きたか、コルトー」










水がない。

雨が降らない。

分からない。

だからってなんで僕が――?


だからってなんで――…。










「そろそろ来る頃だと思っていたんだ」

俺がそういうと、さわっとジョセフィーヌが優しく頬を触れて、鼻歌を歌いながら去っていった。


「ジョセフィーヌ、またね」

去っていった方に手を振ってから、コルトーはクルリと向きを変えて俺を見た。

「だってテティスの誕生日だもんね」

新しい風がまたやってきてテティスの髪をなびかせた。

「誕生日!!」









ダレカ、ダレカ、ダレカ…

ココニキテ、ココニキテ、…

ワタシヲ…ワタシヲッ

ミ…テ……




はぁっはぁっ…

少年の荒い息が虚しく響く。崖の下。


どうやら僕は死ねなかったらしい。…別に僕は死にたかったわけじゃないんだけど。

街の奴らは、僕が死ななきゃ困るらしい。


街に生け贄の風習があったのは聞いていた。

でも、ずっと豊作も続いてたし、僕たちの街は戦争でも勝ってお金もいっぱいあったし、そんなのは、もう昔の伝説だと思ってた。


――去年までは。



ザッザッ

身体に巻きに巻かれてしまったロープをほどこうと暴れるたびに身体がこすれて血がにじむ。

もう痛くもない。

それよりもこすれる音が木々と岩の間によく響く。

それが悲しかった。

もう誰もいない。

もう誰も――僕を助けてくれる人なんていない。



ザッ


やっと縄がほどけた。踏み出した足が真っ赤だった。

足音だけが、誰もいない森に響いてる。

動物すらいないみたい。


誰にも会わないまま、僕はここで飢え死んでしまうのかな。

それだったら、もういっそ動物に食われて死んでしまいたい。


一人で死ぬのは悲しすぎるよ。


僕は立ち止まった。


「ここは何処なんだ」思わず呟いた。


ココハドコナンダ

ドコナンダ

ンダ…ダ……


こだまする。まるで僕を笑ってるみたいに。

「やめろ!!」

ヤメロ!!

ヤメロ!!

メロ…ロッ…


怒鳴ったはず僕の声が消えいくのが、むなしかった。

馬鹿みたいだ。

こだまなんかに。


こだま……。

僕は泣きたくなった。

「おばあちゃん…」

チャンッ

ン…


呟いた台詞がこだましたけど、僕はもう怒る気にはならなかった。

「君はエコーって言ったね」

僕は木にもたれかかって呟いた。けど、もうこだまは聞こえなかった。












「テティス、これプレゼント」

コルトーが何か差し出した。風の妖精らしくなんかメルヘンなものかと思いきや…

「服かよ」

俺は突っ込んだけど、テティスの嬉しそうなキラキラの瞳を見てしまってはすぐに

「でもまぁありがと」

と付け足すしかなかった。

クッソ…。可愛らしい純白のワンピースを手で身体に合わせて喜ぶテティスを見て、すでに負けた気分がした。

金色の美青年に、銀色の美少女。

へいへい、お似合いですね。どーせ俺なんて黒いし、黒いし、美しくなんてないし、ただの人間だし、ただの保護者…。


「ヘイロンもあるんでしょ?」コルトーが笑った。

からかうような目つきで。コイツには何でも見透かされているようで怖い。つーか、俺が分かりやすすぎるのか…。


「あぁ、勿論」

俺はズボンのポケットに手を突っ込んだ。

――――ん?


あ、いや、こっちにいれたんだっけな。

胸ポケットに手を突っ込む。

「――――っ」


いやいや、もしかしたら、走ってる途中で…。

とかなんとかやってるうちに、俺は上裸になっていた。


「プレゼントは俺――とか、ヘンターイ」

コルトーが棒読みで言った。目が笑ってる。それに答えるように。

《ヘンターイ》やんちゃな風が俺の服を飛ばした。


「ばっ!!んなわけねぇだろっ!!」

「いやん、赤面しちゃって。説得力0だよ」

焦る俺を楽しそうな目つきでからかって、それからやけに真剣な目つきになったと思ったら、くるりとテティスの方に向き直った。

「ヘイロンはものすごく変態だから、テティスは捕って食われないように気をつけなきゃダメだよ」

と人差し指を立てた。

テティスは目をぱちくりさせた。

くそー!!妖精がイタズラ好きってのは本当らしいな!!


「ヘイロン、私たちも食べるの?」

「食べるか!!」


あ。


食べる――そうだ!!思い出した!!

「あの岩のとこだ!!!!」


《クダモノトリイッタトキオトシテタ…》

そよ風が笑った。

「おい、ならそんとき教えてくれよ!!」

《ダッテ、ヒツヨウナサソウダッタ》

ふふふっと言い逃げしやがった。


くそ。人が苦労して選んだものを必要なさそうだなんて……。

そう言われちゃ余計不安になるだろ!

だ…だって俺、女の子にプレゼントなんてあげたことないし、何あげたら喜ぶかなんて――分からないし…。


テティスは、うなだれる俺を見て心配そうにしている。


いやいや、テティスはこの俺の娘だ。

こんな綺麗で純粋な子が俺のプレゼントであろうとなんであろうと喜ばないはずがない!

「ちょっと行ってくる!!!!」


ヘイロンがよたよたと走っていった。




しばらくポカンとしていたテティスが言った。

「ねぇ、コルトー、捕って食うって何?」

「それはねぇ……」



To be continue.







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