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白黒の龍の日記  作者: ヘッドホン侍
龍にしましょう
21/33

20.静止


 情報を持ってきたんだ。今朝花が咲いたんだ。花の妖精が目覚めたんだよ。気をつけて、花は綺麗だけど時に危険だから。特に、龍の子なんて…ヘイロン、今日のところはじっとさせといた方がいい、…って言おうと思ってきたのだけど、遅かったみたいだね。早いとこテティスをお探し。いまならまだ…。


 珍しくコルトーが口次早に言っていた。


「なにがどうだっていうんだ」


 うろたえる俺に、コルトーは「落ち着いて」と自分が落ち着かない状態で言って、俺の肩を持って後ろを向かせた。


「とにかく今は説明なんてしてられる暇はないんだ。早く探してきて、僕は準備をするから」



 コルトーは、俺の背中をポンと叩いたかと思うと、残り風を残して消えてしまった。



 なにがなんだかだった。


 でも、テティスが危ないということだけは分かった。

 あのコルトーが、あれだけうろたえるのだ。どれほどのことなのか。

 想像に絶する。いや、正しく言えば、想像もしたくない。


 それに、テティスの叫び声。


 思い違いで在って欲しい。



 全力で俺とコルトーを否定して、全力で走ってきた。



 それなのに…!


 コルトーの言っていた意味も相まり、ここに来て直感的に理解した。


 テティスの花。


 この白い花は、テティスだ。テティスが、花に変えられてしまった。



 理解はした。

 やはり力が入らなくなって、膝から花畑のふかふかの土に崩れ落ちた。なにかが崩れる音がする。

 なにかしなくては。

 俺の中の誰かが小さくそう言っている。

 わかっている。わかっているのだ。何かしなくてはいけない。テティスを助けなきゃいけない。

 手を伸ばそうとして、静止した。指先が小さく震える。

 何かしなくては、いけない。


 何を?



 怖いのだ。俺には触れることすら怖いのだ。折れてしまいそうで、傷つけてしまいそうで。

 綺麗な白い花弁が、薄い淡い緑色の で弱々しくまとめられている。そこから、また細い、茎が途中で切られていた。

 折れてしまいそうだ。

 折れたらどうなってしまうんだ?

 何をする?怖くて何もできない。

 わからない。


 駄目だ、わからない。


 時が止まったみたいに、俺は白い花を見つめるしかできなかった。


 いや、本当にこの花は白いのかすらわからなかった。シルバーで出来たしずくのイヤリングの重みで、花弁が沈んでいるのが、虚しかった。イヤリングの周りは、薄く灰色に染まっているように見える。いや、ピンク、オレンジ、緑、黄色。ずっと見ていると、 うっすらといろんな色に染まっているのがわかった。それが、周りの花の反射だと分かったはいるのに、不安になった。


 なぜだろう。見ていることも出来なくなった。



「ヘイロン、テティスは見つかった?」

 風が舞った。

「……あぁ」

 振り返ると笑顔のコルトー。

 一気になにかが抜け出した。

「よかった。間に合ったみたいだ」

 微笑むコルトーに連れられて、ほんわかした青年が現れた。


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