20.静止
情報を持ってきたんだ。今朝花が咲いたんだ。花の妖精が目覚めたんだよ。気をつけて、花は綺麗だけど時に危険だから。特に、龍の子なんて…ヘイロン、今日のところはじっとさせといた方がいい、…って言おうと思ってきたのだけど、遅かったみたいだね。早いとこテティスをお探し。いまならまだ…。
珍しくコルトーが口次早に言っていた。
「なにがどうだっていうんだ」
うろたえる俺に、コルトーは「落ち着いて」と自分が落ち着かない状態で言って、俺の肩を持って後ろを向かせた。
「とにかく今は説明なんてしてられる暇はないんだ。早く探してきて、僕は準備をするから」
コルトーは、俺の背中をポンと叩いたかと思うと、残り風を残して消えてしまった。
なにがなんだかだった。
でも、テティスが危ないということだけは分かった。
あのコルトーが、あれだけうろたえるのだ。どれほどのことなのか。
想像に絶する。いや、正しく言えば、想像もしたくない。
それに、テティスの叫び声。
思い違いで在って欲しい。
全力で俺とコルトーを否定して、全力で走ってきた。
それなのに…!
コルトーの言っていた意味も相まり、ここに来て直感的に理解した。
テティスの花。
この白い花は、テティスだ。テティスが、花に変えられてしまった。
理解はした。
やはり力が入らなくなって、膝から花畑のふかふかの土に崩れ落ちた。なにかが崩れる音がする。
なにかしなくては。
俺の中の誰かが小さくそう言っている。
わかっている。わかっているのだ。何かしなくてはいけない。テティスを助けなきゃいけない。
手を伸ばそうとして、静止した。指先が小さく震える。
何かしなくては、いけない。
何を?
怖いのだ。俺には触れることすら怖いのだ。折れてしまいそうで、傷つけてしまいそうで。
綺麗な白い花弁が、薄い淡い緑色の で弱々しくまとめられている。そこから、また細い、茎が途中で切られていた。
折れてしまいそうだ。
折れたらどうなってしまうんだ?
何をする?怖くて何もできない。
わからない。
駄目だ、わからない。
時が止まったみたいに、俺は白い花を見つめるしかできなかった。
いや、本当にこの花は白いのかすらわからなかった。シルバーで出来たしずくのイヤリングの重みで、花弁が沈んでいるのが、虚しかった。イヤリングの周りは、薄く灰色に染まっているように見える。いや、ピンク、オレンジ、緑、黄色。ずっと見ていると、 うっすらといろんな色に染まっているのがわかった。それが、周りの花の反射だと分かったはいるのに、不安になった。
なぜだろう。見ていることも出来なくなった。
「ヘイロン、テティスは見つかった?」
風が舞った。
「……あぁ」
振り返ると笑顔のコルトー。
一気になにかが抜け出した。
「よかった。間に合ったみたいだ」
微笑むコルトーに連れられて、ほんわかした青年が現れた。




