18.花の妖精
綺麗な空。
黄緑の木洩れ日。
優しい幹。
溢れる太陽。
こんなに美しい森。
こんなに美しい私。
え、ナルシストみたいって?
ふふ。止めて頂戴。冗談でも怒るわよ。私をあんな意気地なしの人間と同じにしないでくれるかしら。
私は、何者よりも花を振りまいているの、あ、比喩じゃないわよ。事実よ。現象よ、現象。
――――だって、私は、花の妖精。
「ヘイロンさーん、これは食べられますかー?」
嬉しそうな声でレムが駆け寄ってきた。その手には大きくて真っ赤な…
「そりゃ毒キノコだろうな」
俺がそう言うとレムは一気に肩を落としてまた食料調達の旅に出かけていった。――――なんだ、このデジャヴ感。今までの流れから言うと、こういう流れでは確実に何かが現れる。しかも、俺の予感が正しければまた何か面倒で大変な何かが。例えば、風の妖精とか。
そんなことを思っていると、心地よい秋の風が吹いて、あまり綺麗とは言えない登場の仕方で綺麗な妖精が現れた。
コイツはこう、どうしていっつも丁度いいタイミングで現れるんだ。
「ふたりはまた食料調達に行ってるよ」
俺は、小さく溜め息をついて、キノコや薬草やなんやでいっぱいいっぱいになったカゴをコルトーに見せた。
「もう十分だろうに」
俺が折角、気を使って話題を提供してやったというのに、対するコルトーはというと、ふーんと気のない返事だけをして、黙ったまま俺を見ている。な、なんだよ。気色悪いな。
居心地が悪くて、俺は目を反らす。すると、コルトーは俺を一瞥して言った。
「ヘイロンいま、失礼なこと考えてなかった?」
「なっ…なんでだよ。なにをだよ」
やっぱコイツ恐ろしいわ。絶対、人の心を読むとかいう副能力を兼ね備えているに違いない。
「やっぱり考えてたんでしょ。全く今日は良い情報を持ってきてあげたというのに…」
そこまでコルトーが言って、二人で顔を見合わせた。
遠くから、テティスとレムの叫ぶ声が聞こえたのだ!!
「あ、レムー!!食べれるってー?」
テティスは僕を見つけると手を振った。僕は応える代わりに、キノコを持った手を振り返した。
僕がしたように、テティスは肩を落として、
「そうか…これなら大きくてお腹いっぱいになると思ったのになぁ」
と呟いた。
…いや、正直僕も食べられないと思ったけどね。
それに、僕だってテティスにそう言った。
僕の言葉をテティスは信じないで、それなのに、ヘイロンさんのことなら一発で信じちゃうわけだ…。
…それは、僕が子供だからだろうか。
それともヘイロンさんの絶対的な信頼度の違い?
いや、どっちもかな…。
そんなことを思って、なぜか途方もない虚しさを感じた。胃が浮つくような気分だ。
何故だろう。折角、森での生活にも慣れてきて、毎日が楽しくなりだしてきたところだと言うのに、ふとした拍子にそんな虚しさを覚えてしまう。
しかし、そんな感傷に浸っていられるのも束の間の一瞬だけだった。
テティスが、「こっちから良い匂いがする〜」と気の向くままに何も考えずに走り出した。
ヘイロンさんが言っていた。
これでもテティスはおとなしくなったんだ。疲れるだろうが、頑張って付き合ってやってくれ。
と。
これより凄かった、ってことですよね。いややっぱり尊敬します…ヘイロンさん。
「ちょっと待ってよー!!」
僕は道に迷わないよう、記憶しながらテティスを追い掛けはじめる他なかった。




