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白黒の龍の日記  作者: ヘッドホン侍
龍にしましょう
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16.形勢逆転



 な。な。なんでレムがファンタスティックに登場しちゃってんだよ。


 おい、レムお前普通の人間じゃなかったか?

 初の常識人じゃなかったか?


 なのになんでそんな不気味に登場しているんだよ…。


 あたりにたちの悪い笑い声が木霊しているし、風はすごいし、雲もないのに雨が吹き荒れている。

 そこに小さな肉片が鱗状になりながら集まっていって身体が中心に向かって造られていく。端から出来ていくものだから、中身見えちまうし、中心はブラックホールなわけで…まるで……いつもコルトーと同じじゃないか……!?


 …って、えっ!?


ちょっと待て、俺。落ち着け、俺。


コルトーはエコーに何と言っていた。

協力して、と言っていただろう。それに、エコーは水鏡の妖精だと聞いた。そして龍であるテティスが駆り出された…つまり、これは…。



「お前らには感謝…しているぞ…」

嘲けたレムの声が反響する。絶妙なタイミングで冷たい風が吹き付ける。

「おかげで…無駄死にだ」

低く呟れた。卑屈にレムの口が歪む。あははと甲高い声がまた木霊する。


突如、風が止んだ。

笑い声はどんどん高くなり、ついに止まった。


「龍は言っていたぞ!!」

いきなりレムがクレシェンドに叫んだ。


「このような、悪趣味な贈り物、我は必要としていない。我が見返りを求めてお前らを救ってやっていると思っているのか。救いようもないやつだな」


冷たい雨。震え上がる人々。


俺ですら背筋がゾックゾクしている。

何も知らない街の奴らの恐ろしさは何たるものか。いまにも気絶してしまいそうなやつもいる。


「また一度とこんなことをしてみろ。お前らが無駄死にすることになるぞ」


ドーンと地響きがした。どこかで雷が落ちたようだ。


「バカナヤツラダ」


カクカクとレムが歩きだした。



人々は次々に逃げ出していく。みんながみんな「ごめんなさい、もうしません」と口を揃えて。



 つまりは、だ。

 笑い声が木霊していたのはエコーの仕業、風は勿論コルトー、雲もないのに雨が吹き荒れていたのは龍、つまりテティスの業。

 小さな肉片が鱗状になりながら集まっていって身体が中心に向かって造られていくというグロテスクな登場シーンは、コルトーに似ているのではなく、アレがコルトーだったから。

 恐らく、コルトーが水かなんかを被ることで水越しにコルトーの表面・・に、エコーがレムを移していたのだろう。

 騙された気分だ…。

 俺の心拍数返せ…。


 しかし、最後なんて雷落ちてたよ?テティス、いつの間にそんな力を持ったんだ…?強くなったな。母は嬉しいぞ。いや、でも寂しいような…。

 子供の成長を実感するときというのは、勿論微笑ましく嬉しいものだが、同時に、子供がもう自分の助けを必要としなくなるのだ、と巣立ちしていくときのような寂しさが混じって、なんとも言えない複雑な気持ちになってしまう。


 いや…けれど…今は……。


 何だかまた違う思いがあった。


…テティスにあんなこと、言われたからだろうか。

 テティスは俺のことを“母親”だと思っていなかったのだ。

いや、そんなシリアスチックなことじゃないんだぜ。俺が好きだって言うんだ。乙女チックでピンクでほんわかな…俺とは縁遠かった世界なだけだ。その感覚が分からない、というのは相まっているのかいないのか…いや…分からないわけじゃないんだよ。

 でも、母親として娘と思って育ててきたというのに、いざ娘に“男”宣告されても悲しくはならなかった。

 嬉しかったのだ。

 そう、嬉しかった。

 何故か?考えれば考えるほど分からなくなる、永遠のループに陥るが、何となく予感のようなものがあったのかもしれない。

 あ、自意識過剰とかでなくテティスが俺に、とかでなくな。

 結局、どんな関係であってもどんな感情であっても、俺はテティスがこの上なく愛おしいのだと。一緒に居られればそれだけで俺は幸せなのだと。

 一緒にいたいだけなのだ。

 ――…と。



 だからいずれ巣立っていく母から、生涯寄り添える人になったのが嬉しかった。たぶん。


俺はこっぱずかしいくらいテティスが好きなのだ。

 テティスには、ヘイロンの馬鹿と言われてしまったが、これくらいのことは伝えとかないとな。


まぁ…。


まだ俺は、テティスを恋愛対象にできるほど状況に順応していないが…。



 そんな風に色々考えていたからだ。何も気にせずに、草むらから立ち上がってしまった。


「アイヤー!!美男子が草むらから出てきたよー!!」

「さっきのに続く妖怪じゃなかね?」

「違う絶対違うね!!こんなに美しいんだもの!!」

「アイヤー!!本当に!!」


 通りがかったおねいさん二人に捕まってしまった。

さっきまであんなに怯えた表情してたよな。…女っつーのは切り替わり早くて恐ろしい…。

一介の人間を化け物だなんだと生贄に出すような街だ。下手なこと言って、不審がられては一貫の終わりだ。ということで、俺はなすすべもなく、おねいさん(…?)に腕をぎっちり組まれ街の中心部へと連れ去られた。



あああぁ…。



どうしたもんか……。


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