1.教育者は苗床
1.教育者は苗床
さぁ、時が満ちた。
そして、泉で龍は生まれる。
愚かな君へせめて、これをあげよう。
このどこまでも白き龍を。
「お前が今回の“教育者”だ」
村長に呼ばれて、何かとドキドキしていた。それが。
「――はぁっ?」
やっぱり、俺も“教育者”か。しかし、
「なんで毎回、俺ら一族がっ…」
「わかるだろう。考えてみることだ。そして、何より主様がそうおっしゃった」
村長は、さぞかし当たり前のようにそう言い放って、自分から呼び出しておいて去っていってしまった。
分からない。俺がそこまでの大罪を犯したか?何が、いけなかったか。勿論、悪いコトと言われて、思い当たる節がないほど俺は善人じゃない。
しかし自分でいうのも何だが、学業だって、普段の生活態度だって、申し分ないと思う。
何が、“教育者”になって罰を受けるほどの罪だったか分からない。
†††††††††
――ずっと昔のあるとき、ある村には、龍がいた。生まれたばかりの何も知らないそれの苗床となるものを罪人を“教育者”と呼んだ。
教育者たちは龍を必死になって育てる。
それが罪人の運命、いや、宿命なのだ。…
†††††††††
村長室をでるやいなや、俺は後ろから何か固いもので殴られたようだ。
「ほら、あの黒いのだ」
あぁ…。
ただ一つ、罪として思い浮かぶのは…この髪くらいかな――――…
少年は気を失った。
「いつ見ても不気味だな」
男らが少年に麻布を被せて縄で巻いた。気を失って力なくダラリと垂れた腕は男らと何ら変わりないのに。
「さぁ、いそげ。そろそろ刻限がくるぞ」
「分かっているさ」
そのまま男らは連なって村を出て行った。少年の入った麻袋も剥き出しに。そんな光景なのに、村人は振り向きも咎めもしない。でも、だからと言って、村人を怒ってはいけない。
当たり前なのだから。これが村人の普通なのだ。
だから、憐れむことをしても怒ってはいけない。だが、しかし怒ったところで彼らにその怒りを理解することは到底できないだろう。
どさっ
少年の身体が乱雑に投げられた。村から森の奥へ奥へ進んでいった男らは、森がちょっと開けた岩場でたち止まり、そうしたのだった。
鈍い音を立てて岩場に落ちた少年の身体は力無くダラリとして、岩に溶けてしまいそうだった。




