7話 百体という数字が、思ったより現実的な数字だった件
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おれはモブである。
剣技もまだない。
どうしてこうなったのか、頓と見当がつかない。
しかも学生じゃないと死ぬ呪い付き。
そして、才能も血筋もステータスのボーナスもない。
だったら数を積むしかない。
ということで、
剣術学園の門を出た俺は、森へ向かっていた。
貴族の子息たちが整った装備で訓練場へ向かう横を、
俺は一人、反対方向へ歩く。
(……今日も森かぁ)
朝は稽古。
昼は雑用。
夕方からが、本番。
森の奥から、聞き慣れた声がする。
「ギャギャ……!」
「……はいはい」
ゴブリン。
剣を抜く。
構える。
前ほど、手は震えない。
慣れたわけじゃない。
ただ、覚悟が決まってきただけだ。
一体目。
斬る。
浅い。
距離を取る。
もう一度。
ゴブリンが倒れる。
「……まずは一体」
耳を拾って、袋に入れる。
十ゼニー。
「ギャギャ……! ギャギャ!」
茂みから再びゴブリンが現れた。
二体目。
三体目。
(二体を同時に相手にするのは少し気が張るなぁ)
まだ剣技は出ない。
スラッシュは、相変わらず沈黙したままだ。
(……焦るな)
頭の奥で、そんな声がする。
「……来たな」
正面からは行かない。
横に回る。
距離を取る。
沈黙が場を支配する。
(……自分から攻めると、カウンターがくる)
頭の奥で、前世の記憶がかすかに動いた。
(攻めた方が、負けるんだよな)
理由はうまく言えない。
でも、そうだった。
こちらから攻撃するより、
相手が攻めるのを待つ方が、
勝つ確率は高かった。
そして――正面からは行かない。
横に回る。
距離を取る。
相手が動くのを待つ。
斬る。
逃げる。
転ぶ。
「……っ」
背中に、鈍い衝撃。
息が詰まる。
(……まだ、まだやれる)
立つ。
それだけで、十分だった。
剣を握り直す。
一体倒れる。
もう一体。
森に、静寂が戻る。
「……二体」
耳は、五つになっていた。
空を見上げると、もう夕方だ。
「……ふぅ。つかれた」
それが正直な感想だった。
一日で五体。
悪くない。
でも、百体には程遠い。
(……普通、心折れるよな)
でも、折れたところで、
代わりにやってくれる誰かがいるわけでもない。
剣術学園へ戻る途中、
訓練場の横を通りかかる。
「攻撃こそ最大の防御!」
「血筋を信じろ!」
「才能があるなら迷うな!」
聞き覚えのある声ばかりだ。
(……迷っていいなら、楽なんだけどな)
誰かが近道を示してくれる世界じゃない。
ゲーム知識がおぼろげにあるのはプラスの要素。
(だけど、ゲーム知識を使って無双するにはどうすればいいんだ?)
自転車やバイクの存在を知っていても再現はできない。
電子レンジや冷蔵庫が使えても、作れと言われると難しい。
そんな感じだ。
◇
夜。
部屋に戻り、剣を床に置く。
腕が重い。
肩が痛い。
剣を構える。
「……スラッシュ」
何も起きない。
分かっている。
まだ足りない。
耳袋を持ち上げる。
今日の成果は五つ。
「……百割る五で、二十日か」
思ったより、現実的な数字だった。
(ゲームだと小一時間で覚えるスキルなんだけどな......)
自分で言って、
少しだけ息が抜ける。
才能がないなら、
積むしかない。
ただ、死なないために最低限は強くならないと。
布団に倒れ込みながら、考える。
明日は、何体だろう。
三体か。
六体か。
百体には、まだ遠い。
それでも――
「……確実に、減ってはいるんだよな」
数字は、嘘をつかない。
シズカ・ニクラスは、
その事実だけを支えに、目を閉じた。
その日の夢は、
何体倒しても減らないゴブリンに囲まれる夢だった。
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