4話 入学試験で目立ちたくなかったのに、静かに地雷を踏み抜いた件
※本作は【毎日更新】予定です。
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剣術学園の正門を見た瞬間、思った。
「……てか、でっかすぎ。」
ゆうに十メートルは超える高い石壁。閉じられた鉄扉。とにかく大きい。
その前に集まる、同年代の若者たち。
百人はいるだろうか。
全員、剣を帯びている。
全員、妙に自信ありげだ。
(……場違い感がすごい)
あぁ今すぐ帰りたい。
だが、帰ったら死ぬ。
三日以内に学生にならなければならない、という条件は、
やる気を出すためのものじゃない。
ただの脅迫だ。
正門に立てかけてある掲示板を見る。
【オリヴィア剣術学園 入学試験 試験内容】
・基礎剣術
・模擬戦
・ーーー
・ーーー
試験内容についての詳細が羅列されており、
最後にこう書いてあった――
・本日夕刻より試験開始
「今日!?」
大きい声が自然と出た。
やばい、やばい、やばい。
身体もメンタルも全然準備ができていない。
夕刻まであと数刻。
「これ合格できんのか......?」
◇
そんなこんなで少し休憩した後、
腹ごしらえをしたら規定の時間となるのだった。
「試験を受ける方はこちらへ」
重そうな鎧を着た受付の男性に案内される。
そして受験者は順に、稽古場へ通される。
石敷きの訓練場。
中央には、腕を組んだ試験官たちがいた。
「これから一人ずつ基礎剣術の試験をする」
数人ずつ順番に試験が開始される。
数分後。
名前が呼ばれる。
「シズカ・ニクラス」
「……はい」
剣を持って、前に出る。
視線が集まるだけで、胃が痛い。
「基礎剣術を見せろ。まず覚えている剣技を」
(……来たか)
未習得。
だが、言えるわけがない。
剣を構える。
「……剣技スラッシュ!」
振る。
ただの、素人の素振りだ。
もちろん何も起きない。
もう一度。
「……スラッシュ!!!」
さっきよりも気合を入れる。
が、何も起きない。
「……スラッ」
「やめっ!」
最後まで言うことなく終了の合図......
終わった......
稽古場に、静かな空気が落ちた。
「剣技未習得だな」
試験官の声は、事実を述べているだけだった。
「はい……」
「次。模擬戦」
「え、今ですか」
「今だ」
逃げ道は、ない。
さきほどの醜態を挽回するしか生き残る道はないのだが、
そのことが却って心を焦らせる。
相手は、別の受験者。
構えが安定している。経験者だ。
「……お願いします」
「では、はじめ!」
試験官の合図の声が響く。
相手が踏み込んでくる。
(……速い)
反射的に剣を振る。
当然、当たらない。
次の瞬間――衝撃。
「――っ!」
身体が浮いて、落ちる。
(……あ、これ普通に痛いやつだ)
地面に転がりながら、息を整える。
「……立てる?」
声がした。
模擬戦の相手からではない。
訓練場の端。
銀髪の美少女から声をかけられた。
受験者たちが、無意識に距離を取っていた。
「……はい」
一瞬見惚れる。
だが、そんなことしている場合じゃない。
すぐ立ち上がる。
ふたたび相手に視線を合わせる。
何度か撃ち合うが、とてもじゃないが勝てるだなんて思えなかった。
でも――
ここで諦めるわけにはいかない。
諦めたらそこで試合が終わってしまう。
つまるところ、学生になれない。
学生になれないということは――
死死死死死死
いやだ! いやだ! いやだ!
足腰は限界だった。
だが、気持ちだけで立った。
再開。
結果は同じだった。
数合ももたず、また転ぶ。
何回繰り返しただろうか。
十回?
二十回?
いや、それ以上――
「終了」
無情に響く試験官の声。
俺はその場に倒れ込む。
「おわった、......」
試験が終わったという意味ではない。
人生が終わったという意味だ。
ありがとうございました。
短い人生だったけど、自分なりに頑張りました。
「シズカ・ニクラス。合格」
「……え?」
一瞬、意味が分からなかった。
「剣技なし。能力は低い。戦績もない。」
淡々と、並べられる。
「だが――」
一拍、間。
「途中で折れなかった。剣術は後から教えられる」
それだけだった。
(……それ、合格理由になるのか?)
訓練場を出ようとしたところで、
さきほど声をかけてくれた銀髪の少女が近づいてくる。
「壊れなかった」
至近距離。
感情のない声。
でも澄んだ声。
「前の人は、すぐ負けを認めた。次の人はすぐあきらめた。」
「……はぁ」
「あなたは、最後までくじけなかった」
それだけ言って、去っていく。
理解は、できなかった。
ただ、
生き残ったーーーーー!!!
死から回避できた。
ただただ生き残ることができた、という喜びが心の中に満ち溢れた。
◇
次の日。
【序列発表】
シズカ・ニクラス
学園ランキング:百位(最下位)
「……よし」
思わず、拳を握る。
「生き延びた……」
自然と拳を天に突き上げた。
周囲から奇妙な視線を向けられたが、今だけは気にならなかった。
最下位。
完璧だ。
「……これで静かに過ごせる」
そう思った。このときは――
受付の人に聞くと、
とりあえず、入学式はまた後日開かれるとのこと。
今日は特に何もないようで、もう帰っていいようだ。
ただ、校舎内以外は自由に見学していいよと言われる。
せっかくなので屋外訓練場へ。
「遅い」
昨日の銀髪の美少女が、すでに剣を構えていた。
「……え?」
「鍛える」
短く、それだけ。
(……断る選択肢がない.....)
次の瞬間、視界が反転する。
「がっ!?」
地面。
息が、一瞬止まる。
「立って」
淡々と、観察する声。
周りには訓練をする人などいないため、
在学生や見学をしている新入生からやたらと視線を集めることになった。
そのとき、ようやく理解した。
「……目立たないって、難しいな」
こうして、
シズカ・ニクラスの剣術学園生活は始まった。
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