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目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。  作者: ヤッくん
第一章 剣術学園編

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3/20

3話 はじめてのゴブリン討伐をしてみた結果

※本作は【毎日更新】予定です。

気軽に一話ずつ読んでいただけたら嬉しいです。


 ショキノ村を出て、街道を歩く。


 舗装なんて呼べる代物じゃない。

 踏み固められた土が、靴越しに頼りなく伝わってくる。

 道の両脇には森が広がり、風が吹くたびに葉擦れの音が近い。


 村を離れてから、しばらく誰ともすれ違っていない。

 それが余計に、胸の奥を落ち着かなくさせた。


「……静かすぎないか」


 誰に言うでもなく、ぼそりと漏らした。


 腰に下げている剣は、村で一番安かったものだ。

 重いのか軽いのかも、正直よく分からない。

 握り慣れていないせいで、歩くたびに存在感だけが主張してくる。


 剣を持っているだけで、少しだけ「それっぽい」気がする。

 けれど中身は、何も変わっていない。


 本音を言えば――戻りたい。


 ショキノ村に引き返して、もう少し準備して、

 装備も、心構えも整えてから。


 そうすれば、きっと安全だ。

 少なくとも、今よりは。


「……三日、か」


 学生でいなければ、三日で死ぬ。

 女神の軽いノリで付けられた、笑えない条件。


 考えれば考えるほど、馬鹿げている。

 けれど、現実だ。


 前世でも、似たようなことは何度もあった。


「もう少し準備してから」

「今やらなくてもいい」


 そうやって先延ばしにした仕事ほど、

 後で必ず首を絞めてきた。


 逃げた瞬間は楽。

 決断しなくていい。責任も、怖さも先送りできる。


 でも、後が地獄だ。


 締切は伸びない。

 問題は勝手に解決しない。

 結局、追い込まれた状態で、もっと酷い形で向き合うことになる。


「……経験則なんだよな」


 だから、進む。


 足取りは重い。

 けれど、止まらない。


 しばらく歩くと、前方から人影が三つ見えた。


「お、兄ちゃん一人か?」


 剣と軽鎧。

 冒険者だ。

 年は自分より少し上に見える。


「剣術都市へ行くなら、もうすぐだ。ただ――

 この辺、ゴブリンが出るからよ。弱いが、油断すると噛まれるぞ」


 それフラグになりそうだからやめてくれ......


「ありがとうございます。気をつけます」


 それだけ言って、別れた。

 一緒に行こう、なんて流れにはならない。


 ……まあ、当然か。

 どう見ても足手まといだ。

 ただ、人に会えたというだけで少しだけ安心できた。


 一人になって、また歩き出す。


 さっきまでの会話が、逆に静けさを際立たせる。


「ゴブリン……」


 AFAでは、嫌というほど倒した相手だ。

 初期モンスター。

 チュートリアル担当。


 数字を稼ぐための存在。

 失敗しても、やり直せる相手。


 でも。


「……ここ、現実なんだよな」


 剣を握る手に、汗が滲む。


 戦闘経験、ゼロ。

 剣技スラッシュ、未習得。


 画面の向こうじゃない。

 リトライも、ロードもない。


 剣術学園の入学試験では、

 剣技が使えるかどうかが見られる。


 その剣技の発現条件は――

 剣を装備して、モンスター百体討伐。


「……討伐数ゼロは、さすがにまずい」


 一体も倒していない状態で試験を受ける未来は、想像しやすい。

 そして、確実に面倒な未来がみえる。


 ――ガサッ。


 茂みが揺れる。


 心臓が、一段跳ねた。


「……来たか」


 緑色の小柄な魔物。

 ゴブリン。


 想像よりも、小さい。

 でも、近い。


 逃げられる。

 全力で走れば、たぶん。


 でも、逃げたら。

 この街道は使えない。

 誰かが倒すのを待つしかない。


 その「誰か」が来るまで、時間は進まない。


「……やっぱ、今やるしかない......よな」


 剣を抜く。


 その瞬間、頭の中に考えが浮かんだ。


(……牽制、踏込、迎撃)


 AFAで何度も見た戦い方。

 剣の基本。

 でも――


 今の俺に、どれができる?


 ゴブリンが距離を詰めてくる。


 足音が近い。

 息遣いが聞こえる。


 そう思った瞬間だった。


 ゴブリンが、勢いよく踏み込んできた。


「剣技スラッシュ……!」


 声だけが空を切る。

 剣も、空を切る。


「……出るわけない......よな!」


 体当たりされた。


「ぐっ!」


 地面に転がる。

 痛い。

 想像より、ずっと。


 息が詰まる。

 視界が揺れる。


 起き上がろうとして、気づく。


 ゴブリンが、じりじりと近づいてきている。

 こちらの様子をうかがいながら。


 逃げない。


 いや――逃げられない。


 足に力が入らない。

 剣を握る指が、震えている。


 ゴブリンの黄色い目が、こちらを見ていた。


 ――笑っているように見えた。


 唾液が糸を引き、牙が光る。


 距離が縮まるたびに、呼吸が浅くなる。


 耳の奥で、自分の心臓の音だけが大きくなる。


 ――殺されるかもしれない。


 その考えが、冗談じゃなく、現実として浮かんだ。


 ゲームなら、死んでもリスポーンできる。


 でも、ここは現実だ。


 死んだら終わりだ。


(……どうする? どうすべきだ?)


 頭の中が真っ白になる。


 逃げる?

 無理だ。


 踏み込む?

 怖い。


 斬る?

 当たる気がしない。


 でも、立っていなければ。

 立っていなければ、噛まれる。


 ゴブリンが、肩をすくめるように腕を振り上げた。


 ――来る。


 瞬間、身体が勝手に動いた。


 無理に前に出て斬りつけたりはしない。


 ただ、半歩だけ。

 ほんの少しだけ、位置をずらす。


 避けるというより、

 死ぬ場所を変えるだけの動き。


 それでも。


 ゴブリンの爪が、空を切った。


 ――今だ。


 そう思ったわけじゃない。


 ただ、剣を振らないと終わると思った。


 腕を振った。


 剣が、ゴブリンの腕に当たった。


 硬い。


 肉の感触。

 骨に当たったような鈍い衝撃。


 手が痺れる。


 浅い。


 でも、確かに斬れた。


「ギャッ――!」


 ゴブリンが声を上げ、半歩下がった。


 その瞬間、息が戻る。


 いや、違う。


 息が戻ったんじゃない。


 緊張で息をするのを忘れていただけだ。


 ゴブリンが、怒ったように歯を剥く。


 次はもっと速く来る。


 絶対に。


(……もう一回)


 思考じゃない。

 反射に近い。


 ゴブリンが踏み込む。


 俺は、また半歩ずらす。


 そして、剣を振る。


 当たった。


 今度は、首元。


 狙ったわけじゃない。


 ただ、近かったから振った。


 ゴブリンの身体が崩れ落ちる。


 地面に落ちて、

 ぴくりとも動かない。


 静寂が戻る。


 森の音が、急に現実に聞こえてくる。


「……生きてる?」


 自分の声が、妙に遠い。


 少し待ってから、座り込む。


 足が震えている。

 手も止まらない。


 勝った感覚は、ない。


 あるのは、心臓のうるささだけだ。


 そして――


 胃の奥が、気持ち悪い。


 吐きそうなのに、吐けない。


 ただ、息をしているだけで精一杯だった。



 視線を落とすと、ゴブリンの耳が転がっていた。


「……耳」


 拾って、袋に入れる。

 一個十ゼニー。


「命がけで、千円……」


 前世を思い出す。


「……ブラック企業だな」


 苦笑しつつ、立ち上がる。


「……でも」


 たしかに倒したんだ。

 俺の手で。


 背後から声がした。


「兄ちゃん、一人でやったのか」


 さっきの冒険者たちだ。


「いえ……たまたまです」


「それでも、逃げなかったんだな」


 返事は、できなかった。


 そして――


 再び歩き出す。


 服は汚れ、身体は痛い。

 強くなった実感は、ない。


 それでも。


「……一体」


 たかが一体。

 けれど、確実にゼロじゃなくなった。


 やがて、視界が開ける。


 高い城壁。

 剣を帯びた若者たち。


「……剣術都市」


 掲示板に、紙が貼られている。


【剣術学園 入学試験 三日後】


「……間に合った」


 シズカ・ニクラスは、剣術都市へ足を踏み入れた。


――ここから先が、逃げられない場所だとも知らずに。



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