2話 目立たないつもりだったのに、開始地点から詰んでいる件
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目を覚ましたとき、最初に感じたのは土の匂いだった。
「……え?」
跳ね起きると、視界に入ったのは木造の家屋と、見慣れない石畳の道。
遠くで誰かの話し声がして、鶏の鳴き声まで聞こえる。
「……ここ、どこだ」
立ち上がろうとして、ふらついた。
「痛っ……」
身体が軽い。
いや、軽すぎる。
視線を落とすと、そこに映ったのは見覚えのない手だった。
細くて、若い。
近くに置かれていた水桶を覗き込む。
「……十五歳、くらい?」
間違いない。
まだ子どもだ。
しかも、顔は普通。
特徴もなければ、イケメンでもない。
身長も平均的。
「……モブ顔だな。よし」
思わず安堵する自分がいた。
周囲を見回して、ようやく状況を整理する。
木造の建物が並ぶ、ごく普通の村。
入口の木看板には、こう書かれていた。
【ショキノ村】
「……どこかで聞いたことあるような名前だな」
嫌な予感が、じわじわと背中を這い上がってくる。
自分の服装を確認する。
布製の簡素な服。
完全に村人Aだ。
「宿から探すか……」
ポケットを探ると、小さな革袋が出てきた。
中を開ける。
「……百ゼニー」
数え直しても、百。
「一ゼニー百円換算だと……一万円か」
なぜか無意識に理解ができた。
少なくはない。
けど、多くもない。
宿に泊まって、食事して、装備を揃えたら一瞬で消える額だな。
「……学生にならないと、三日で死ぬんだよな」
女神の軽い口調が脳裏に蘇る。
逃げ道はない。
とにかく、状況を把握しないと。
「……ステータス」
半信半疑で呟いた瞬間、
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
「……出た」
慣れた表示。
文字のフォント、色合い、配置――。
「これ……」
読み進めて、確信する。
「Academy of Five Arts……」
喉がひくりと鳴った。
「……AFAだ」
間違いない。
前世で、仕事の合間に何百時間も遊んだゲーム。
Academy of Five Arts。
五つの分野、
剣術・魔法・気功・召喚・神聖の中から
始めに一つを選んで進める育成MMORPG。
それぞれの分野に一つずつ学園が存在し、
そこに所属して頂点を目指すゲーム性となっている。
「そうか……AFAのショキノ村か」
知っている世界なのはありがたい。
でも――。
「これ、主人公じゃなくて、完全にモブ側だよな……」
表示されたステータスを確認する。
「……低っ」
HPは少ない。
SPも心許ない。
どの系統も中途半端で、
突出したものは一つもない。
「主人公キャラの初期ステータスより、だいぶ低いな……」
AFAは、本来なら最初に選んだ分野に
ボーナスがつく仕様だったはずだ。
剣術を選べば剣術、
魔法を選べば魔法。
「……どれも低いって、逆にすごいな」
せめて一つくらい、特化していてほしかった。
「まぁ、文句言ってもしかたないか」
画面を閉じて、深く息を吐いた。
十五歳。
所持金百ゼニー。
宿なし。
村人の服。
そして、三日以内に学生にならないと死亡。
「……詰んでるな」
でも、不思議とパニックにはならなかった。
「やるしかない、か」
いつもの思考だ。
逃げたい。
けど、逃げ方が分からない。
立ち止まっても、状況は良くならない。
だったら――。
「とりあえず、オリヴィア剣術学園だな」
ショキノ村から、割と近い位置にあったはずだ。
AFAでは、剣術学園が一番敷居が低い。
入学試験も、基礎ができていれば何とかなる……はず。
「……スラッシュ、だっけ」
剣を握る感覚を、頭の中でなぞる。
この世界で生き延びるには、
まず、学生になること。
目立たず。
ひっそりと。
こっそりと。
「……それで、ちゃんと立っていればいい」
シズカ・ニクラスは、ショキノ村を後にした。
――この先で、
自分が何度倒れることになるのかも知らずに。
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