14話 死ぬ気でやるのと、死ぬのは別問題な件
学園の廊下。
俺の歩く先々で、生徒たちが不自然に避けていく。
昨日よりも「割れ方」が鋭い気がする。
「……ねぇ、シズカくん」
不意に横から声をかけられた。
振り返ると、そこには心配そうに眉を下げたリネットが立っていた。
「リネット。どうしたの?」
「……決闘、本当に受けるんだね。でも、そんなに無理しないで」
リネットの瞳は潤んでいる。彼女にとって、俺は「無謀な挑戦をする哀れな同級生」に見えているのだろう。
「負けても……退学になるだけだよ? 別の道だってあるし、命まで取られるわけじゃないんだから」
優しい言葉だ。だが、俺の心は白目を剥いていた。
(……違うんだよ、リネット。俺にとっては退学=物理的な死なんだよ)
この呪いの仕様を知っているのは、世界で俺一人だけ。他人から見れば「学歴を失うだけ」のイベントが、俺にとっては「ギロチン台への登壇」と同じ意味を持つ。
「大丈夫だよ、リネット。俺は……死なないために、戦うだけだから」
俺が絞り出した言葉は、彼女の耳にはこう届いたらしい。
「――っ! 死ぬ気で、勝ちに行くってこと……!?」
リネットが顔を赤くして絶句する。いや、比喩じゃなくて。直喩なんだ。マジなんだ。
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昼休みの屋内訓練棟の屋上。
俺は一人、木刀を振っていた。
シトラスさんとの稽古でボロボロになった身体を、前世の「深夜残業を乗り切るためのストレッチ」で無理やり動かす。
肩甲骨を剥がし、股関節を限界まで回す。
前世で、エコノミークラス症候群を避けるために椅子の上で編み出した「社畜の生存体操」だ。
不意に、視界がぐらりと揺れた。
(……あ、立ちくらみか。やっぱり栄養不足だな)
一瞬、飛んできた羽虫の動きが妙に鮮明に見えた気がしたが、俺はそれを単なる貧血の予兆だと思って無視した。スキルなんて気の利いたものは、今の俺には一欠片も感じられない。
(ゴブリン討伐数、数え間違いがなければ、昨日でもう百体は超えてるはずなんだけどな……)
何か特別な力に目覚めるかと期待したが、身体は相変わらず重いままだし、筋肉痛もひどい。
結局、俺には才能なんてないんだ。そう溜息をつき、泥臭く木刀を振り続けた。
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その日の放課後。
ワイン・ワイトは、稽古場で部下たちに囲まれていた。
「ワイン様。あの最下位、屋上で奇妙な踊り……いえ、隠し技の練習をしていました」
「ほう。隠し技ですか」
ワインは優雅に眼鏡を拭く。だが、その指先はわずかに震えていた。
「あの奇妙な動き……。関節をあり得ない角度まで回し、脱力と緊張を繰り返している。おそらく、筋肉の限界値を強制的に引き上げる秘術、あるいは相手の視覚を惑わす歩法の一種でしょう」
さらに報告は続く。
「リネット様に対し、『死ぬ気で戦う』と宣言したそうです」
「退学すら恐れず、命を賭して私に挑む……。そしてあの不気味な踊り。シズカ・ニクラス、何を隠している?」
ワインの脳内では、シズカが「自らを崖っぷちに追い込むことで真の力を引き出す、狂気的な実力者」として構築されつつあった。
「いいでしょう。私も相応の覚悟で挑む。……ただの決闘だと思っていたが、どうやらこれは『命を賭した戦い』のようですね」
ワインの誤解が、決闘のハードルを勝手に垂直上昇させていく。
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夜の森。
俺は最後の力を振り絞り、ゴブリンに向けて剣を突き出した。
「ぎ、ぎゃっ!?」
これで何体目か。もう数えるのも止めた。
百体倒せば何かが変わると信じていたが、結局、何も起きなかった。
ステータス画面にも変化はない。
ただ、肩の痛みに顔をしかめ、帰路につく。
「……やっぱり、モブに剣技は覚えられないのか?それとも他に条件があるのか......」
泥だらけの顔で、俺は力なく笑った。
決闘本番まで、あと少し。
俺は知らない。
スキル発現の真の条件は「討伐数」だけでなく、その力が必要とされる「極限の死地」にあることを。
俺の「生き残るための残業」は、いよいよ本番の幕を開けようとしていた。
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