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目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。  作者: ヤッくん
第一章 剣術学園編

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11話 噂というものは、だいたい本人のいないところで完成する件

リネン・リネット視点


 リネットは、朝の稽古場が少し怖かった。


 理由は単純だ。


 講師補佐――ランキング三位。

 シトラ・シトラスが、そこにいるから。


 強い、という言葉では足りない。

 剣術学園の空気そのものが、彼女の周りだけ別物になる。


 銀髪は冷たく光り、表情は薄い。

 立っているだけで、周囲の温度が下がるような雰囲気。


 同じ美少女でも、リネットとは真逆だ。


 リネットは、ふわりとした淡い栗色の髪を肩で揺らし、

 柔らかい頬と丸い瞳で、よく「可愛い」と言われる。


 本人はその言葉に慣れていない。

 褒められると、すぐ耳が赤くなる。


 だから余計に思う。


(……シトラスさんって、氷みたいに綺麗なのに、近づくと刃があるんだよね……)


 リネットは、一度だけ声をかけられたことがある。


 入学直後。

 訓練場の端で見学していたら、突然――


「立って」


 そう言われた。


 意味が分からないまま立ったら、投げられた。

 そして起きたら、また投げられた。


 剣術を学ぶというより、

 地面と仲良くなる修行だった。


 その日、リネットは一日でギブアップした。


 泣いてはいない。

 泣いてはいないが、心が折れた。


 だから分かる。


(……あの訓練、毎日やるのは無理)


 できるのは、化け物だけだ。


 なのに――。


「……今日も、いる」


 朝靄の向こう。

 稽古場の端で、二つの影が動いていた。


 銀髪の少女。

 そして、もう一人。


 最下位の学生――シズカ・ニクラス。


 まただ。


(……なんで?)


 最初は偶然だと思った。

 たまたま声をかけられただけだ、と。


 でも三日続けば偶然じゃない。

 一週間続けば、もう習慣だ。


 シズカは今日も剣を構えていた。


 構えはぎこちない。

 姿勢も安定していない。


 当然のように、倒される。


 ――一度。

 ――二度。


 見ているだけで胃が痛い。


 普通なら、来なくなる。

 少なくともリネットは、一日で限界だった。


 なのに。


「……立ってる」


 三度目に倒されたあと。

 シズカは、よろけながら起き上がった。


 膝が震えている。

 息も荒い。


 それでも剣を握り直して、また構える。


 シトラスは何も言わない。

 ただ、剣を振る。


 そして――また倒れる。


 なのに、逃げない。


(……信じられない)


 強いわけじゃない。

 うまいわけでもない。


 ただ、やめない。


 それが逆に、怖いくらいだった。


「......変わった人」


 ぽつりと漏れた声は、誰にも届かなかった。

 でも、その言葉は少しだけ残った。


 胸の奥に、小さく引っかかるように。





 朝食の時間。


 食堂の空気が、いつもと少し違った。


 ざわざわしている。

 そして、声がやけに小さい。


「聞いた?」

「最下位の話」


 リネットの耳が、勝手に反応した。


「え、あの最下位?」

「そうそう。毎朝、シトラス様と稽古してるらしい」


(……もう噂になってる)


 スプーンを持つ手が止まる。


 噂が広がるのは分かる。

 だって、あれは目立つ。


 ただ――。


(でも、ここまで広がるのは早すぎない……?)


「でもさ、最下位だよ?」

「なのに毎朝だって」


 噂は勝手に形を変える。


「一度も倒れないらしいよ」

「シトラス様の剣を全部避けてるって!」


(倒れてる。普通に倒れてる)


 事実はこうだ。


 倒れる。

 起きる。

 倒れる。

 起きる。


 それだけだ。


 でも噂の中では、もう別物になっている。


「暗殺者みたいな動きだって」

「いや、元傭兵らしい」


 そこまではまだ分かる。

 尾ひれがつくのはいつものことだ。


 だが次の噂が、妙に具体的だった。


「最近森に急所を一撃でやられたゴブリンが何体も転がってたらしいぞ」

「しかも傷が少ない。綺麗に首とか喉を……」


(……何体も?)


 リネットは眉をひそめた。


 シズカくんが急所を突いて倒したのは、せいぜい一体か二体だろう。

 そんな器用なことを連発できるほど、まだ慣れていないはずだ。


 じゃあ、その死体は――。


(……シトラスさん?)


 あの人なら、やりそうだ。

 むしろ、やっていない方がおかしい。


 だが噂は、そこを都合よく飛ばして完成していく。


「ゴブリンキラー……」

「いや、暗殺者の末裔か?」


 その一言で、噂は完成した。


「血筋を隠してるんだよ」

「公爵家の隠し子ってやつ?」

「いや、王家じゃね?」


(飛びすぎだよ……)


 リネットはため息をつきたくなった。


 話が、もう段階を踏んで変わっている。


 事実。

 解釈。

 誤解。


 順番通りに、きれいに進んでいる。

 そして、噂が楽しい方向だけで終わっていないのも感じた。


 羨望。

 嫉妬。

 恐怖。

 苛立ち。


 そういう感情が混ざると、

 噂はただの話じゃなくなる。





 昼前。


 廊下で、シズカくんを見かけた。


 両手には木箱。

 雑用を押し付けられているらしい。


 それはいつも通りの光景だ。


 でも――周囲の視線が、違った。


 露骨ではない。

 けれど確実に。


 好奇心と、敵意が混ざっている。


 視線が、刺さる。


(……シズカくん、気づいてない)


 本人だけが、いつも通りだった。


 荷物を抱えて歩く姿は、ただの雑用係。

 噂の中心人物とは思えない。


 それに、リネットは知っている。


 入学試験のあと、偶然少し話した。

 そのときも、彼は「目立ちたくない」って顔をしていた。


 なのに、今は目立ちまくっている。


「シズカくん」


 リネットは声をかけた。


「ん? あ、リネット」


 反応も、普通だ。

 拍子抜けするくらい普通。


「……大丈夫?」


「うん。腰が危ない」


 内容がリアルすぎる。


「朝の稽古……」


「んー……まあ、生きてるから」


 軽く言って、箱を持ち直す。


 それで終わりだ。


 噂の中心人物とは思えない。


 でもリネットは知っている。


 彼は最近、自分が噂になっていることに薄々気づいている。


 ただ――。


(たぶん、ここまで大事になってるとは思ってない)


 本人は、そういう顔をしている。


「……ねえ、最近、周り変じゃない?」


 試しに聞いてみる。


 シズカくんは首を傾げた。


「え? ちょっと噂されてる気はするけど……まあ、そのうち消えるでしょ」


 呑気すぎる。


(消えないよ……むしろ増えてるよ……)


 リネットは胸の奥がざわついた。


「みんな優しいよ」


 シズカくんが言った。


「……え?」


「通るとき、道を空けてくれるし」


(それは優しさじゃなくて……)


 恐れて距離を取っているだけだ。


 噂が回った者に対する、自然な防衛本能。


 でも本人は、気づかない。


「俺、汗臭いからさ」

「気を遣ってくれてるんだと思う」


(悲しい勘違い……)


 リネットは何も言えなかった。





 その様子を、少し離れた場所から見ている視線があった。


「……おい」


 ランキング中位のとある学生が、仲間に声をかける。


「あいつ、見たか?」

「ああ」


 最下位。

 雑用係。


 なのに――


 雲の上の存在であるシトラス様と毎朝稽古。

 さらに、男子の間で「天使枠」と呼ばれているリネットちゃんと親しげに会話。



 あり得ない。


 序列というのは絶対で、最下位は最下位らしく振るまうべきだ。


「気に入らねぇな」


「だな」


 別の学生が、低い声で言う。


「血筋もないのに、調子に乗るなよ」


 努力?

 根性?


 そんなものが評価される場所じゃない。


 この学園では、才能が全てだ。

 血筋が全てだ。


 努力なんて、負け犬の慰めでしかない。


 だから。


 努力を続ける最下位が、異常に見える。


「本当に強いのか……噂が本当なのか確かめる必要がある」


 誰かが言った。


 その一言で、空気が決まった。





 その夜。


 シズカは、森にいた。


 木々の間を縫うように歩き、

 息を殺して進む。


 学園の空気より、森の方が落ち着く。


 少なくとも、森は噂話をしない。


(……森、最高)


 そんなことを考えていた。


 草むらが揺れた。


「ギャ……!」


 ゴブリンだ。


 シズカは剣を抜いた。


  ゴブリンが飛びかかってくる。


 その瞬間――


 なぜか、間が取れた。


 踏み込みの癖。

 腕の振り。

 視線の向き。


(……来る)


 身体が勝手に半歩ずれる。

 爪が空を切る。


 シズカは反射的に剣を振った。

 手応え。


 ゴブリンが倒れた。


「……上出来」


 シズカは剣先を見た。


(けっこういい感じだよな? でも、調子に乗らないようにしよう)


 たまたま。

 そういうことにしておく。

 天狗になっても良いことはない。



 耳を拾って袋に入れる。

 十ゼニー。


 

「……よし」


 それだけで十分だ。


 今日も、少しずつ進んだ。

 ただ、生きるために。

 ただ、学生でいるために。


 耳袋も毎日のゴブリン狩りにより、いつのまにか三袋目に突入していた。

 シズカは袋を握り直し、森を出た。


 

 噂のことなど、知る由もない。

 だが学園のどこかで。

 静かに、不満が形を取り始めていた。


 シズカの知らないところで。


 噂というものは、

 だいたい本人のいないところで完成する。

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