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目立たず静かに生きたいだけなのに、 呪い付きモブとして転生した結果、 五つの学園を練り歩く最下位スタート生活になりました。  作者: ヤッくん
第一章 剣術学園編

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10/20

10話 森でゴブリンを狩っていただけなのに、なぜか暗殺者扱いされ始めた件

※本作は【毎日更新】予定です。

気軽に一話ずつ読んでいただけたら嬉しいです。

 朝。


 まだ空が白みきる前に、俺は稽古場に立っていた。


 理由は簡単だ。


「遅い」


 正面に立つ銀髪の美少女――シトラ・シトラスが、すでに剣を構えていたからである。


「……すみません」


「三十秒遅い」


「えっ」


 思わず空を見る。太陽はまだ出ていない。


(この世界の三十秒、厳しすぎない?)


 そんな疑問を抱く暇もなく、剣が振り下ろされた。


 次の瞬間、世界が反転した。


「がっ!?」


 床と再会。


(……俺の朝、床から始まりすぎる)


 受け身で転がり、起き上がる。


 痛い。でも、痛いのはもう普通になってきた。

 ブラック企業に長年いた俺の感覚では、意識ある→まだ行ける→倒れる、までがワンセットだ。


 シトラスが淡々と言う。


「今日は、速くする」


(やめてくれ)


 剣が振られる。

 一瞬だけ、ゆっくりに見えた。


 踏み込み。

 剣筋。

 重心。


 見える。


 身体が勝手に動いて、半歩ずれる。

 剣が空を切る。


 シトラスが小さく頷く。


「……見えてる」


「そんなことないです」


 そんな会話がありながら、上手くできたのは最初だけ。

 五分もしないうちに、俺は地面に転がっていた。

 何度も何度も同じ動きを繰り返した後、


「終了」


「……ありがとうございました」


「スポンジが楽しみ。」


「はい……?」


「また明日の朝」


 それだけ言って、シトラは去っていった。


(……何を考えているか分からない)


 朝稽古は、毎日こうして終わる。


 今日の稽古はそのまま終わり、俺は半分死んだ状態で寮へ戻った。


 周囲の学生が道を空けるのに気づいたが、たぶん俺が汗臭いせいだろう。


(ごめん、俺だって好きで汗かいてるわけじゃない)


 そう思った。



 昼。


 学園の廊下は、妙にざわついていた。

 俺の方を見て、学生たちがひそひそと話している。


「……あれが」

「最下位のはずなのに、毎朝シトラス様と稽古してる……」


「実は暗殺者らしい」

「いや、元傭兵だって聞いたぞ」


「最下位っていうのは偽装だ」

「序列を下げて、敵を油断させてる」


「ゴブリン狩りの速度が異常らしい」

「ゴブリンキラー……」


「いや、裏ランキングがあってそこでは一位だそうだ」

「あぁ。あの噂の裏ランキングだろ?」


「シトラス様が育ててるってことは、王家の隠し子かもしれない」

「血筋を隠してるのかも?……」

「おれは公爵家の隠し子って聞いたぞ?」


 誰もが好き勝手言っていた。


 だが――


 当の本人は。


 倉庫で木箱を運ばされていた。


「おい最下位。これも運べ」


「はい」


(物流学園め……)


 木箱を抱え、汗をかく。

 視線を感じる。


 だが俺は気づかない。

 気づくわけがない。



 俺は今、腰をやられそうになっているのだから。


(この世界、剣術より運搬技術のほうが大事なんじゃないか?)


 今日も今日とて雑用を押し付けられていた。



 夕方。


 俺は森へ向かった。


 理由は単純だ。


 ゴブリンを倒さないとスラッシュを覚えられない。

 剣技を覚えないと死ぬ確率が上がる。

 死ぬのは嫌だ。

 とてもシンプルな理由からだ。


 森に到着したので、さっそくゴブリン探しを始める。


(学園より森のほうが平和だな……。ゴブリンのほうが話が通じる気がする)


 森の奥。


「ギャギャ……!」


「はいはい」


 剣を抜く。

 ゴブリンが突っ込んでくる。

 俺は構えた。


 そして。


 一瞬だけ、世界が遅くなる。


 踏み込みが見える。

 腕の振りが見える。

 剣が来る軌道が見える。


(……まただ)


 身体が勝手に動く。

 半歩ずらし、剣を振る。

 喉元に刃が入った。

 ゴブリンが倒れる。


(……え?一発で倒せた?ラッキー!)


 狙った箇所は偶然にも急所を射抜いていた。

 

 耳を拾って袋へ。


「……一体目」


 次。


 二体。

 三体。


 今日は調子がいい。


 というか、調子がいいというより――


(いや、気のせいだな。俺はただのモブだし。朝練の痛みで脳がバグってるだけだな)


 そう思いながら、また一体倒す。


 耳袋が、少し重くなった。



 今日はそろそろ帰ろうかと思ったそのとき。


 森の入口から、足音がした。


 複数。


 俺は反射的に木陰へ隠れた。


(……やばい、学園の人間だ)


 学園の人間は面倒だ。

 ゴブリンより厄介だ。


 木陰から覗くと、

 数人の学生が森の中を見回していた。


 貴族っぽい装備。

 剣も鎧も高級品。


「……本当にいたのか?」

「痕跡はある。血の匂いもする」


「最下位が一人でゴブリンを狩ってるって話だったな」

「信じられん……」


 学生のひとりが、倒れたゴブリンを見つける。


「……首元だ」

「一撃で急所を斬ってる」


「流れている血が少ない」

「無駄な傷跡もないな」


 別の学生が、低い声で言った。


「暗殺者の剣筋だ」


(違う。たまたまだ)


 さらに別の学生が震える声で呟く。


「いや……違う」

「暗殺者じゃない」


「じゃあ何だ?」


「ゴブリン専門の殺戮者だ」

「……ゴブリンキラー」


(やめてくれ)


 別の学生が首を振った。


「いや、俺は聞いたぞ」

「最下位は実は上位者だと」


「ランキングを偽装してる?」


「シトラス様が直々に朝稽古をつけてる時点で怪しいよな」

「普通、最下位に興味を持つか?」


「つまり……あの最下位は、最下位じゃない、と」


(モブだよ。最下位だよ。ランキング百位だよ)


 学生たちは勝手に結論を固めていく。


「敵を油断させるために、わざと弱く見せてるかもな」

「裏ランキングではかなり上位だと聞いたぞ。」


(ランキングに裏もあるのかよ)


「いや、公爵家の隠し子って言ってるやつもいたぞ」

「ワンチャン王家の可能性も......」


(ワンチャンもツーチャンもないよ)


「いや、もしかして異世界からの転生者だったりして」

「「その可能性だけはないわ!!!」」

「だよな!笑」


(いやそれが正解)


 うっかり声をだしそうになる口をなんとか両手で塞いだ。


 木陰で息を殺す。


 すると学生のひとりが、真剣な顔で言った。


「ひとつだけ言えるとしたら……関わらない方が絶対にいいな」

「たしかに。見られたら消される可能性もあるかも。」

「あぁ。早々に撤退するぞ」


 学生たちは足早に去っていった。


 森の静寂が戻る。


 俺は木陰から出て、しばらく固まったまま立ち尽くした。


(……何だったんだ今の。というか、俺けっこう噂になってんじゃん。なんとか噂の火消しをしないとな。シトラスさんに直接それは嘘だと説明してもらうのが最善かもな)


 そんな結論に至る。


(明日の朝お願いしてみるか)


 そんな思考を巡らせながら俺は耳袋を握り直した。


 まだ数が足りない。

 スラッシュまで、まだ遠い。


 噂の火消し、ゴブリン討伐、剣技の習得、シトラスさんの朝練のお断り、ゲームとリアルの違いについて、などなど。


 考えることは山積みだ。


 俺はただ、生きたいだけなのに。

 静かに。

 ひっそりと。

 こっそりと。


 そう思いながら、俺はまた森の奥へ向かった。


 ――その背中を、

 誰もが「最下位の背中」だとは思っていないとも知らずに。


どんな感想でも大歓迎です。

スタンプや一言だけでも感想をいただけると、

とても励みになります。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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