1話 目立たず生きたいだけなんですが、条件が重すぎませんか?
※本作は【毎日更新】予定です。
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目を開けた瞬間、最初に思ったのは――白い、だった。
天井も床も、遠くに見える空間の果ても、すべてが均一な白。
病院でも会議室でもない。
どこか現実感のない場所だ。
「……あ、これ死んだやつだ」
妙に冷静に、そう理解した。
日本での最後の記憶は、深夜のオフィス。
未送信のメール。
机に突っ伏したまま、意識が途切れた。
過労死。
たぶん、それだろう。
「ようやく終わった……」
仕事ができると言われ、頼られ、任され、
気づけば抱えきれない量の責任を背負わされていた。
断れなかった自分が悪い。
それは分かっている。
そして、失敗した。
たった一度の、大きな失敗。
それまでの評価も信頼も、全部ひっくり返った。
人は離れ、陰口だけが残った。
――もう、目立つのはこりごりだ。
「お疲れさまでした」
不意に声がした。
柔らかく、澄んだ声。
振り向くと、そこに一人の女神が立っていた。
白銀の長い髪。
整いすぎた顔立ち。
美しい、という言葉では足りない。
“そういう概念”が形を持ったような存在だった。
「えっと、あなたが……神様?」
「そうなります。簡単に言うと」
軽い。
想像していた神より、ずっとノリが軽い。
「さて、転生の件ですが――」
「あ、はい。
あの、一つだけお願いがありまして」
神の言葉を遮って、思わず手を挙げる。
「目立たない人生でお願いします。
ひっそり、静かに、こっそりと」
神は一瞬きょとんとしたあと、
少し目を細め、楽しそうに微笑んだ。
「うふふ……
その願い、今までで一番地味ですね」
褒められてないが、気にしない。
「分かりました。
では、あなたはとあるゲーム世界の住人に転生します。」
「ゲーム……?」
「剣と魔法と、その他もろもろがある世界です。
あなたはその中の――モブですね」
モブ。
その言葉に、なぜか強い安心感を覚えた。
「最高です」
「え?」
「いえ、最高です」
「あなた、本当に面白……いえ、変わった人ですね」
神は怪しげに笑い、そして話を続けた。
「ただし、一点だけ注意事項があります」
嫌な予感がした。
「この世界、学生であることが非常に重要でして」
「はあ」
「学生でない状態が三日続くと――」
神は一瞬、言葉を切った。
「死にます」
「……はい?」
一瞬、意味が理解できなかった。
「えっと、それは……比喩とかでは?」
「いえ、物理的に死にます。
呪いです」
さらっと言った。
「解除は?」
「不可です」
「なんで?」
「手続きミスですね。すみません」
軽すぎる。
しかもどんなミスだよ!
人の命をなんだと思ってんだよ!
「ちょ、ちょっと待ってください。
それ、致命的じゃ……」
「大丈夫です。
学校や学園はたくさんありますから」
そういう問題?
神さまだけに、やっぱりぶっとんでる。
神は指を折りながら説明する。
「剣術は剣術学園、
魔法は魔法学院、
気功は気功道場、
召喚術なら召喚院、
神聖術なら神聖協会。
どれかに所属していれば問題ありません。評価も大事な要素になってきます。」
「……一生、学生ってことですか」
「まあ、そうなりますね」
胃が痛くなった。
学生。
所属。
評価。
嫌な単語ばかりが頭に浮かぶ。
「ちなみに、ランキング制度があります」
「やっぱりありますよね……」
「一位から百位まで。学園ごとのランキングです。
上位ほど安全です。」
安全?どういう意味だ?
その一言に、胸がざわついた。
「……目立たなければ、安全ですよね?」
神は少し考えてから答えた。
「この世界では、それはどうでしょう」
嫌な沈黙だった。
「名前はどうします?」
「……え?」
「転生後の名前です」
少し考えて、口を開く。
「シズカ・ニクラスで」
俺は、好きなゲームのキャラの名前を拝借した。
シズカってキャラが好きなんだ。
目立たず、静かな感じが。
神は笑った。
「皮肉が効いてますね。
では、良い学生生活を」
光が視界を覆う。
最後に聞こえた神の声が、
やけに楽しそうだった。
「――あ、ちなみに。
目立たないようにすると、
たぶん逆に目立ちますよ」
「それ、最悪のフラグじゃないですか……!」
そう叫んだ瞬間、意識は闇に沈んだ。
目を覚ますと、そこは見知らぬ街の路地裏だった。
手には一枚の、
入学試験の案内が書かれたビラ。
【オリヴィア剣術学園 入学試験のご案内】
期限は、三日後。
「……まずは、合格しないと死ぬのか」
シズカ・ニクラスは、深く息を吸った。
目立たず、ひっそりと、こっそりと。
――そのはずだった。
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