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「事情は分かった」
新たに人が増え、さすがに手狭に感じるリビングルーム。これまでの事情全て説明され、胡坐で座るサブロウは、集まった面々を改めて見渡した。
ちなみにサブロウ以外は反省させられる生徒のように、全員正座である。なぜかデス子も壁の大型ビジョンで正座している。
時は少し遡る。
サブロウはとても常識人である。仕方なかったとはいえ、初の深夜勤務を突如行うことになった碧を気遣い、差し入れを持って監視室を訪れた。
しかし、碧が巡回中なのか留守なので、そのまま待っていた。なお、待っている間もスマホで業務連絡を確認するあたり、彼の性格が伺える。
ところが、一時間まっても碧が一向に戻る気配がない。これはおかしいと監視カメラを確認したところ、2-Bに連れ込まれる碧の映像を発見し、急いで駆けつけたわけである。
「せっかくだから、所長の秘密、この施設の秘密を教えてやる。なんでこんな狭い施設で一万人もの老人を収容して、さらに監獄と呼ばれるような施設を複数運営しているのかをな。」
サブロウから語られたのは、老人たちや碧の想像を上回る、唾棄すべき真実だった。
実は入居者たちの大半は、全国から集められた困窮した老人たちで、本来は施設にも入居できず、悲惨な生活を送るであろう身の上だったのだ。所長はこの老人たちと密約を交わしていた。老人たちのわずかな年金をすべて拠出させ、選挙時の投票を自分たちの指示通りに行うことを強要していたのだ。入居者の投票は、オンライン投票で行われるが、その結果は検閲されており、投票で指示に従わない老人には、恐るべき仕打ちが待っていた。
「俺は所長に弱みを握られていてな。この施設の後ろ暗いことは俺が手を下している。」
サブロウは妹が事故で重傷を負い、手術に金が必要になってしまい、やむを得ず所長から借金をしていたのだ。
「借金はきちんと返したんだが、俺がやったことの罪は消えん。この施設の老人たちも、あの所長でなければ、もう少しましな生活を送れていたろうに……。」
サブロウの告白に、碧は声も出ない。老人たちも怒りをこらえているのか、細かく震えていた。
「では早速行くとするか、デス子君。接続用の端子は用意できるが、そのスマホのままでもクラッキングに問題ないか?」
「はい?どういう事?」
さすがのデス子もいきなりの展開についていけない。老人たちや碧は完全に置いてけぼりだった。
「これから所長室に不正の証拠を押さえに行く」
「「「はい?」」」
「しかし、デストラクションAIか。とんでもない代物だな。」
サブロウは表情は変わらないものの、若干浮かれた声になってる。
「副所長、証拠を押さえたら、どうされるんですか?」
「大丈夫だ、ちゃんと考えがある。」
所長室に着くと、サブロウは碧のスマホとセキュリティ端末をケーブルで接続し、あっさり侵入。所長の端末や金庫もデス子のクラッキングでドラマもなく突破し、データをすべて手に入れてしまった。
「では諸君、詳しくは明日の夜にまた話そう。夜も遅いから、早く寝なさい。碧もあとはおとなしく監視室に待機するように。」
そう言い残すとサブロウは自室に戻ってしまった。あまりの展開の速さに、老人たちも意気をそがれ、おとなしく眠りについた。碧はもうなにがなんだか分からなかった。
翌日、11時頃になって、ようやく所長が施設に出勤してきた。一週間ぶりのご出勤である。
所長室の椅子は革張りの輸入品だ。複数の監獄型老人ホームを運営しているが、この施設が拠点のため、椅子もここが一番良いものを使っている。時たま全施設の視察も行うため、久々に座り心地の良いこの椅子に座ると、ルーティンが完了した感があり気分が良い。
「ふふふ、そろそろもう一つ施設を増やしちゃおうかなあ。先生方に用地の相談が必要かなあ」
太った体を椅子に預けると、重量制限を超えた体重に、椅子がわずかに悲鳴をあげた。
その時、急にドアが開かれ、制服姿のサブロウが息を切らせて入ってきた。
「所長、大変です!逮捕状を持った警察が!さらにマスコミまで!」
椅子の背もたれが『ボキッ』と折れ、所長はそのままひっくり返り、つぶれたような悲鳴が上がると同時に、逮捕状を持った県警が乗り込んできた。
老人ホームは一時大パニックとなった。所長ほか数名が連行され、サブロウは事情聴取を受けている。それでもホーム自体は運営しなければいけないため、碧や一般職員は大わらわだった。
施設が静けさを取り戻したのは、夕方になった頃だった。
静かになった施設をサブロウは満足げに見つめている。
「実は野党の政治家にちょっとしたツテがあってな。前々からチャンスをう伺っていたんだが、デス子のおかげで助かったな。」
「キャハハ。大したセキュリティじゃなかったけれど、本来の仕事をしたみたいで気持ちいいわ!」
「豚には臭い飯がお似合いだ。事件が解決するまで、当面後任人事どころではないし、それまでに我々も体制を整えようじゃないか。罪滅ぼしと言うわけでもないが、私もこの腐った日本を滅ぼす手伝いをさせてもらうぞ。」
サブロウが碧と老人たちに力強く宣言する。
「いやー、まさか一晩でこんなになるとはな。あまり先は長くないから、もう行動に移れるのは助かるのう。」
「皆、協力してくれそうな者たちに、慎重に声掛けしていくぞ。声掛けマニュアルの作成とリストアップからだ。」
老人たちもやる気だ。
碧も怒涛の展開で疲れは感じるものの、高鳴る鼓動に興奮を覚えていた。
風が吹き、状況は動いた。これまでとは違う自分も動き出したのを感じていた。
第一章 終わり
2025/7/8改定




