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2050年7月1日午前11時25分。データセンター・コントロールルーム。
「何アイツ、感じ悪ーい。」
「日本に核ミサイルだと!?」
流石の事態に草生首相のお顔もまっ青である。
駆け寄る明と高野議員。
状況を正確に掴むために碧が動いた。
「デス子、日本に向けられた核ミサイルの情報をメインモニターに出して!」
ここまで、また状況に流されてしまったが、この短時間でデス子の優秀さを再認識していた碧は、状況の打破にデス子の力が不可欠だと直感していた。
であれば、デス子が力を振るうには、自分が正しく判断しなければいけない。プロンプトの入力だけは碧自身が行うのだ。
「さっきの大統領の電話の時みたいに、デス子にいちいち確認を挟ませるようではダメだ」
誰にも聞こえなかったが、碧は自分の決心を言葉にした。
「はーい、大統領が言ってた核ミサイルはコレね。モンタナ州の空軍基地からICBMが発射されてるわ。10分前の映像よ。ICBMの大気圏内再突入まであと545秒。ちなみに着弾予想地点だけど、霞ヶ関周辺っぽいわ。かなりヤバいわね。」
草尾首相は自分のスマートフォンを端末から取り外し、傍にあった白石大臣のスマートフォンを明に渡す。
「私は空自の基地に直接連絡して、迎撃を指示する。明君には特命で私の代行をやってもらう。このスマートフォンで官房長官に連絡して都民の避難指示を指揮してくれ。皆もできるだけの対応を頼む!」
早速緊急コールを行う首相。明は魂の抜けた白石大臣のスマートフォンを顔認証で解除して、官房長官にコールを飛ばす。リクはデモを指揮する弟に、高野議員は東京都知事へと連絡を始めた。
碧は彼らが情報を整理しやすいように、現状のデータをわかりやすく表示するようにデス子に指示を出したあと、自分に何ができるかを考え始めた。
「(考えろ!考えろ!こんな時どうする!)」
物語はまさにクライマックスだ。日本のピンチだ。絶望的な状況で、実際自分にも容赦ないストレスが襲ってくる。
「(このストレスが解放される展開、結果から逆算するんだ!ピンチを切り抜ける時こそカタルシスが生まれる。どんな展開だとみんなが驚く?こんな時のお約束は……昨日の敵は今日の友!)」
脳が焼き切れるかのような感覚の中、碧は突破口を見出した。
「デス子、衛星レーザーはもう制御下だったよね。使用も可能なのか?」
「はーい、制御奪取済みでーす。一機は冷却中だけど他は射程範囲ならどこでも照射可能ね。」
「二度と使えなくなっても構わない!衛星レーザーを使ってICBMを阻止!方法は任せるができるだけ被害を少なくするんだ!」
それは、音声入力ではあったが、渾身のプロンプトだった。
「キャハハ!本来は成層圏は射角じゃないけど、復旧を考えないなら!」
コントロールルームのモニターがすべてアクティブになり、人間の目では把握できないスピードでデータ処理が行われる。
明も、リクも、高野議員も、草生首相も電話の手を止めてモニターを見入ってしまう。
「間に合うか!?」
「3秒くらい余裕があるわ」
モニターには衛星レーザーの様子が映し出される。本来の稼働限界を超えて動かしているため、フレームが悲鳴を上げている。
そして4機の低軌道衛星からレーザーが照射された。
まず一機目のレーザーが限界まで絞り込んだ出力で照射された。ICBMの制御装置が配置されている場所に命中し外板が赤熱化する。
続いて2機目のレーザーが外板をさらに加熱して溶解させ、中にある制御装置を焼き切った。
さらに3機目、4機目のレーザーが弾頭近く、そして尾翼の一つに命中し、軌道を変化させる。軌道と突入タイミングをずらされたICBMは目標を日本から大きくずらした。
ICBMの着弾予想シミュレーションに切り替わったメインモニターを見つめる一同。それぞれの電話口から、状況確認を求める声が聞こえてくる。
「ICBMは…どうなったんだ?」
「キャハハ、一番被害が少なくなるところに、丁重にお送りしたわよ。観測データから算出されたICBMの着弾地点はこちらでーす!」
メインモニターにはこう表示されていた。
「コメリカ合衆国ワシントン州」
その日、ホワイトハウスの前庭に、後の核廃絶平和運動の象徴として観光名所となるモニュメントが出現した。
あまりにも強すぎる力である核兵器が、何かの間違いで発射され、自分たちにも牙を向くことをこのモニュメントが教えてくれたのだ。この日を境に、コメリカだけでなく世界で核廃絶運動が盛り上がり、最終的に全ての核兵器は廃絶された。世界の歴史で、最後に核兵器が使われた都市は長崎となった。デス子は「できるだけ被害を少なくする」というプロンプトを完遂したのだ。
第三章 終わり




