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世界の全てが嫌になったので、AIと世界を滅ぼしてみた  作者: 庄子貴裕
第三章:國の行末争うも、漁夫の利狙うは禿げた大鷲
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3-12

2050年7月1日午前11時08分。データセンター1F通路。


エントランスから中枢施設に向かう碧たち三人は、ドアのセキュリティを解除しながら、進んでいる。

碧はデス子を抱えて小走りで進みながらこれまでの事を考えていた。


デス子と出会ったあの日。国家クリエイター認定試験に落第して、自分の生き方を否定されたように感じた。

あの時はある意味絶望の底だったのだろう。受験4年目位から感じていた、底なし沼か蟻地獄に例えたいような、もがいても届かないあの感覚。

自分を叱咤し、自分のできる範囲で可能な限り修練して臨んだはずだった。

とはいえ、最後の試験を待つ間は半ば諦めていた気がする。そのまま自分の殻に閉じこもるところだった。無味無関心でこの先を過ごすところだった。

それが今はどうだろう。デス子と関わってから、周りが随分変わった。いや、わかっている。周りの人間は随分と自分を気にしていてくれたのだと気付かされた。

周りの人間と関わってみたら、勢いに流された面もあるが、みんな苦しみを抱えていた。

でも、今は協力して状況を打開しようとしている。自分もデス子のオペレーターとしてだけでなく、役に立てたのではないかと感じている。


電子レンジを使ったECM、粘着ネットを打ち出すカタパルト、ソーダメーカーのボンベを使う迫撃砲、そして鉄パイプを砲身に使用するロケット花火ランチャー。

どれも漫画のアイディアとして考えていたものが元になっている。

そして懸命に動くうちに瞬く間に時が過ぎて、今こうやってデータセンターに入り込んでいる。成功させなければ老人ホームの人達だけではなく、明や高野議員の家族にも不幸を運ぶ事になる。昨日共に過ごしたあの子供達の未来が……


「碧、次のドアよ、準備して!」


デス子の声で我に帰った碧は慌ててセッティングを行う。

デス子が解析を開始するが、いつもの余裕が感じられない。


「うーん、やっぱり最初のドアもそうだけど、調査した時よりセキュリティレベル上がってる。あ、バッテリーが危ないかも。碧、次のモバイルバッテリー繋いで!」


翠が腰のベルト右側に手をやると、そこに取り付けた筈のバッテリーが無かった。


「あれ、こっちのバッテリーがない。反対側は…あるな。って事は残り1個か。」


どうやら混乱の中で、バッテリーを一個紛失したらしい。

今回の作戦にはモバイルバッテリーを4個持ち込んだ。明と碧で2個ずつ分けて所持しており、優先的にモバイルバッテリーの電力を使用するようにしていたが、ここまで既に2個のモバイルバッテリーを使用していた。


「まずい、思ったより消耗が激しい。このままだと最後までバッテリーがもたないかも。」


碧の焦りを感じたリクがすかさず口を挟む。


「デス子さん、最後のドアは私が開けますので、このドアはそのまま開けてください。」

「オッケー!任せてちょうだい!」


碧は自分の考えに囚われて視野が狭くなり、バッテリーの確認を怠った事を反省した。即座に思考を切り替え、ほかに見落としがないかチェックを行う。

ドアのロックが解除され道が開ける。


「あれこれ考えるのは終わった後だ。」


碧の呟きを拾う事ができたのはデス子だけだった。


「顔付き変わったじゃん。男の顔になったっていうやつ? キャハハ」


中枢施設入口のドアに到達した。このドアは左右両開きで、一枚のドアが高さ2m、幅1mのステンレス製で無機質に白で塗りつぶされている。取手などはない。本来はセキュリティを解除して左右に開くドアだった。

リクがアタッシュケースの中身を取り出すと、ケースごと形状を組み替え始めた。

元々計画では、全てのドアをハッキングで開ける予定だった。

だが世の中そう予定通りに事は運ばない。今回のようにバッテリーに不安があったり、セキュリティの仕様変更、物理的にバリケードを置かれる可能性もある。

そんな時のために、奥の手として立案されたのがこのハンマー「マスターキー」だ。

碧が考案し、デス子とゲン爺さんが設計、ロクさんが製作命名した破城槌。

無反動ハンマーをベースに、内部の金属球に当たる部分を炸薬式の杭に変更したものだ。使用時にはスイッチで起動する。推進薬代わりの炸薬も仕込まれており、恐るべき速度でハンマーを叩きつけ、インパクト時に杭の衝撃まで加えるシロモノだ。

一応最後のドアで使用する事を想定して、何処に叩きつけるかの構造研究、試作品を使っての実験も行っている。

もっとも、試作品はリクが3回ほどテストしていたが、最後でようやく命中させたと聞いている。アタッシュケースから変形させる完成品は一昨日ようやく完成したため、テストすらしていない。


「リクさん、試作品はテストされてましたけど、実物はテストされてませんよね。大丈夫でしょうか。」


マスターキーを組み上げつつ、視線を動かさずにリクは答える。


「碧さんはRPGはプレイされますか?」

「小さい頃にお父さんがプレイしてたのを見たくらいです。」

「私はね、弟と一緒に色んなRPGをプレイしました。ワクワクしました。最後のボス前になると、いわゆる『エリクサー』ってアイテムが登場します。強力な使い捨ての回復アイテムなんですが、もったい無くて使えない人もいる。弟もそんなタイプでした。」


組み上げたマスターキーをチェックしながらリクは続ける。


「私はね、ゲームだからってやり直すのが嫌だったんです。準備ができました。下がってください。」


二人が下がって伏せた事を確認すると、リクはマスターキーを振りかぶる。


「私はエリクサーは躊躇なく使うんですよ!!」


リクが振り抜くと同時に4本の火線が爆音とともに煌めき、ドアにハンマーが叩きつけられる。

凄まじい音が響き、分厚い金属の板が内側に数メートル吹き飛んだ。


「バンパーはぶつけるためにある……はアメリカ車の哲学でしたっけ。エリクサーは使うためにある。マスターキーはこの時のためにあった……と言う事で良いでしょう。」


最後の障害であった扉が開いた。


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