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世界の全てが嫌になったので、AIと世界を滅ぼしてみた  作者: 庄子貴裕
第三章:國の行末争うも、漁夫の利狙うは禿げた大鷲
24/31

3-11

2050年7月1日午前11時05分。データセンター・エントランスホール。


時は少し遡る。


リクがエントランスで煙幕を使用する直前、草生首相は涙目でヒステリーを起こしまくし立てる高野議員の対応に追われていた。


「首相、これはどういう事ですか。今どうなっているんですか。この場所は安全なんですか?もしかして私たちをハメたんですか!?」


実際に首相を罠にはめているのは、高野議員の方なのだが……自分の立場や普段のイメージをフル活用して現場の混乱を長引かせる工作をしている。

首相のSPは周囲の警戒で手一杯だ。氷室秘書も現場の警備責任者を捕まえて時間を稼いでおり、首相に詳細な報告が届いておらず、現場の混乱はかなりのものだった。


「高野議員、この状況は私も想定外だ。今報告を確認してさらに奥に非難するか、建物自体を待避するか決めるので少し待ってくれないか。警備責任者!無事なら状況報告を!」


と声を上げたところで、リクが放った煙幕がエントランスに広がり、視界を奪っていく。


「キャー!」


二人の女性の悲鳴が状況把握をさらに混乱させる。

草生首相の近くに倒れ込んできた研究員がSPに、組み伏せられ尋問されている。

草生首相は周囲の混乱の中できるだけ冷静であろうと周りを見回した。が、何者かに腕を取られる。いや、隣に立っていた高野議員が縋り付いてきたのだ。

30を過ぎたとは思えないプロポーション。世間でも言動はともかく、容姿に関してはいわゆる「美人すぎる国会議員」的な評価である。与党議員でも好色な者は、彼女に議会でヒイヒイ言わされている分、ヒイヒイ言わせてみたいなど下品な戯言が出るくらいだ。

個人としても好みはともかく美人だなとは思っていたので、いつも凛として凛々しい高野議員が見せる弱々しい姿はギャップもあり、男心をくすぐられるのだった。

3分もしないうちに煙は排出され、視界は回復する。

SPや警備の人間から現況報告が上がってくる間、高野議員は人目を気にして腕は離したものの、かなり近い距離でおとなしくしていた。

先程までは豊かというには若干物足りないが柔らかな胸の感触を感じており、離れてしまったのは勿体無いと一瞬考えた草生首相は即座に自分を恥じた。


「(私は国と国民のために奉仕し、それ以外の時間は愛する妻子のために過ごすと誓っているではないか。事故で役得とは言え、女性の胸の感触を反芻するなど妻や娘に合わせる顔がない……)」


草生首相は冷静さを完全に取り戻し、それゆえ違和感に気付く。

高野議員は混乱の中で男に縋り付くような人間だろうか。彼女も夫を愛し、三人の子供を持つ母親だ。子供の将来を案じて政治家の道を選び、苛烈ながら筋の通った政治活動を行なっている。立場は違うし言動には辟易するところもあるが、優れた政治家だと評価している。

そんな彼女が普通の女性のように、状況が状況とは言え、夫以外の他人の腕に胸を押し付けて縋り付くなどするだろうか?

これは政治的に、いやこの状況に必要だから?

今日の彼女の目的はわからないが、必要だから行った行動には間違いないと草生首相は判断した。

改めて周囲を見渡す。吉田議員と秘書の姿が見えない。この状況で彼がこの場に居ないのはおかしい。彼ならば非常時は協調体制をとり、今回のようなケースでは勝手な行動をとる事で混乱を助長するはずがない。彼も被害者だという前提になるが。


「高野議員、残念ですが貴女の発言権はしばらくないものとさせていただく。ご不満なようであれば、人をつけるので秘書と休憩室で全てが終わるまで休んでいただくが。」


有無を言わさぬ眼力で高野議員に丁寧にお願いをする。これ以降は小細工させる気はない。

高野議員も首相の雰囲気が変わり、今後主導権どころか反論すら許されないことを悟った。


「まいったわね。もう全部お見通しってこと。流石ね。」

「全部かはわからないが、君たちにしてやられた事は確かのようだね。私はコントロールルームに向かう。帯同はSP二人だけで残りの人員は現場の収集に努めろ。高野議員はせっかくだから同行しますか? 結果を見届けたいでしょう。秘書の方は救護室の方が良いかもしれませんが。」

「お言葉通りにさせて貰います。もう私に出来る事は無さそうですし。」


状況が把握され、指針が決まれば行動は早い。ここには優秀な人材しかいないし、行動を遅延させられる怪我人すら居ないのだから。


1分もしないうちにエントランスホールに残っているのは、一人だけ状況に置いて行かれた氷室ユリと、世話役を任せられた警備責任者だけとなった。


「あの、救護室行きますか?」

「その前に…トイレに行かせてください……」


氷室秘書の声はか細いものだったが、静まりかえった空間で聞き逃す事はなかった。


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