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世界の全てが嫌になったので、AIと世界を滅ぼしてみた  作者: 庄子貴裕
第三章:國の行末争うも、漁夫の利狙うは禿げた大鷲
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3-8

2050年7月1日午前11時06分。データセンターエントランスホール。


外から避難した視察団の潜入実行部隊の三人、碧、明、リクの3名は首相からそれほど距離を置かない位置で、目立たないように様子を伺っていた。

見取り図は頭に叩き込んである。中枢施設へ通ずる入り口、設置されているセキュリティの種類、通行用のIDカードを奪いやすい人間の選定、互いの位置関係の確認などを素早く行う。

現在エントランスには二十人程度の人員が入り乱れており、襲撃の状況を把握しようと必死になっている。

リクがパスを奪うターゲットを決め、碧と明に目配せを行う。

リクが静かに懐から2本のスティックを取り出すと、気配を消して体を沈め、床にスティックを滑らせた。

スティックは部屋の中央に到達したところで、ブシューっと音を立てて白いガスを噴出し、視界を塗りつぶす。

一旦静まりかけたエントランスを、再度喧騒が包む。



データセンターの研究員『向田』は自分の不幸を呪っていた。濃密な白色ガスのせいで視界は50cm先もよく見えないし、刺激物が含まれているのか視神経を通して鼻までムズムズしてくる。こんな時に限ってポケットティッシュを携帯していない。さっきは後ろからぶつかられて前につんのめり、首相付きのSPに突っ込んでしまった。鬼のような剣幕で詰め寄られ1分ほどは生きた心地がしなかった。

思い返せば、今朝のTVの占いコーナー。たまたま目に入っただけだが、獅子座の運勢はワースト1だった気がする。あんなもの見なければ良かった。そもそもあんな非科学的なモノ、自分は信じてない。

そもそも自分はなんで今このタイミングでエントランスに居るんだ。

そうだ、本来こう言うのは主任研究員がやるべきだろ!あいつは1ヶ月前から出勤してないけど。

所長からの指名で視察の案内役を任された時は、主任のポジションに近づいたかと浮かれていたのに、そんな気分は砲撃の音とともに吹き飛んでいた。

「(ああ、誰か早くなんとかしてくれよ。)」

ひたすら嵐が通り過ぎるのを待つ彼だったが、陽動が終わるまで、彼の首からぶら下がっていたはずのIDカードが無くなっている事には気付かなかった。


碧と明は煙幕の中、中枢施設へと通じるドアの前まで来ていた。明はリクから預かったアタッシュケースを静かに下ろすと、人影を注視し、聞き耳を立て周囲を警戒する。

碧はアタッシュケースからタブレットPCとスマートフォンを取り出す。このアタッシュケースは対電磁波仕様の防護ケースで、電子レンジのマイクロ波からデス子を守るために準備したものだ。

PCを立ち上げスマートフォンとデータをリンクさせる。

デス子が画面に姿を見せるが、流石に空気を読んで声を上げることはしなかった。だが、その表情はやる気に満ちているのがわかる。

準備が終わり10秒もしないうちに黒い影が近づいて来る。事前の取り決めたハンドサインをかかげながらリクが戻ってきたのだ。


「リク、いけたか?」


抑えた声で明が問いかけると、リクがIDカードを掲げてみせる。


「セーフティジョイントのあるネックストラップだったので、気づかれずに済んだようです。助かりましたね。」


リクがIDカードをセキュリティ端末にかざすと認証がスタートする。この施設の通行用のセキュリティはIDカードでの認証がメインだ。ただし、重要施設への通路はIDカードだけではなく、登録済みの網膜パターンが必要になる。この入口は網膜認証も必要な扉だ。

碧が認証用のカメラの前にスマートフォンをかざすと、デス子が偽装した網膜パターンの画像情報を送り込み、セキュリティに干渉する。


「キャハハ、予定より処理にバッテリーを消耗したけど、セキュリティは突破したわ。」


と、スマートフォン上にデス子のいつもの話し方のようなテキストが表示された。

三人は極力音を立てずにドアを開閉させると、データセンター施設の中枢に潜入を開始した。

エントランスはようやく白いガスが排出され視界が戻り始めるところだった。


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