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世界の全てが嫌になったので、AIと世界を滅ぼしてみた  作者: 庄子貴裕
第一章:風が吹けば桶屋は儲かり、風車も回る
2/17

1-1


碧が悪魔のようなAI、いや、悪魔以上の破壊神的存在…かもしれないデス子と出会ってから数日が過ぎていた。


「(もっと大きな破壊ってなんだよ。危うく老人ホームが破壊されるところだったし。)」


あの夜のデス子の悪戯は、一瞬騒ぎになったが、安全確認を行ったところ問題もなく、既になかったことになっていた。


「碧~、今日は何のお仕事するの?」


実際、デス子の能力は碧の知る現在のAIのレベルを凌駕する性能だった。老人ホームの一般データサーバーに滞在しているらしいが、碧が使用する全ての端末にあっさり侵入し、それらを全て自分用にカスタマイズした上で、仕事中であろうとインカムにも侵入して話しかけてくる有様だった。

碧はハイテンションなデス子に翻弄されながらも、日常業務をきちんとこなしていた。


「まったく、落ち込む暇もないとはこのことか。」

さて、碧の勤務する老人ホームは、北関東の外れにある大型施設だ。

2050年現在、医療の発展により、老人たちが老人ホームに溢れかえり、人手も収容施設も足りない状況だった。政府は補助金を大盤振る舞いし、半公営ともとれる老人ホームを増設した。

そうした背景で登場したのが、裏では「監獄型老人ホーム」と呼ばれる施設だ。


「この施設、やたら入居者が多いわね。ん?この敷地面積で1万人の入居者?ちょっとした町じゃない。」


デス子は、気になったデータはすぐに検索し、必要であれば、足りない情報をクラッキングで収集していく。


「ブロックによっては、二段ベッドがずらっと並んだ100人部屋もあるんだよね。」

「居住環境わるー!アタシが人間なら、そんな部屋絶対無理だわ。」


デス子と小声で話しながらも、碧は次の作業を行うため大食堂に向かった。

老人ホームの大食堂では、朝の食事が終わり、入居している老人たちが移動を始めていた。この大食堂は、施設内でも裕福な者が生活するエリアだ。もっとも大半の老人は、部屋に戻って大人しくしているか、日向ぼっこをして過ごすか、ぼーっとTVを眺めているか、がほとんどだ。彼らはここで何もない余生を送り、オンラインで選挙を行い、退所する時は死んで出るか、病院で死んで出るかの二択だった。

ただ、そんな雰囲気はお構いなしに、一箇所だけ賑やかなエリアがあった。

日当たりのいいテーブルで、6名のお年寄りがお茶を飲みながら談笑している。彼らの話題は、普段から自分たちの世話を丁寧にこなしてくれる碧の様子についてだった。

「ここのところ碧君の様子がおかしいと思わんか?」

そう、彼らは碧が担当するエリアの一つ、2-Bエリアの住人たちなのだ。


「なんかこう、情緒不安定と言うか、浮き沈みが激しいというか。」


2-Bの中でも若干若めの70歳、ムードメーカー的存在のゲン爺さんが、今も食事の後片づけをせっせと行う碧を見ながら、その様子を口にした。


「うーむ、そう言えば、もうすぐ国家認定クリエイター資格試験だったろう。最後のチャンスだったはずだから落ち着かない可能性はあるぞ。」


と、元教師の二ノ宮が答えながら、食堂に設置されているTVに目をやると、国会の様子が中継されている。まだ40歳になったばかりの議員が壇上で政府に質問をしている様子が映っている。


「総理にお尋ねしたい。この治安維持用衛星の維持管理費、昨年よりも大分多く計上されているようですが」

「二ノ宮さんの教え子、明君だったか。今日も頑張ってるのう。」

「今の議員で首相に刃向かおうという者は、明くらいしかいなくなってしまったなあ。」


お年寄りの話が最近の政治の話題になった頃、その時、碧はピシッと制服を着た男に声をかけられていた。

「副所長、お疲れ様です。」


この男は副所長のサブロウ。複数の老人ホームを経営するため、不在も多い所長に代わり、この施設を実質的に仕切っている。


「碧君、試験のことは把握している。残念だったな。」

「副所長、ありがとうございます。しかし、結果は結果です。受け止めております。」

「そうだな、結果には従わなくてはならない。今後は通常の勤務時間に加え、深夜の勤務にも参加してもらうことになる。」

老人介護を担う若者の数は圧倒的に不足している。第一次・第二次産業(農業、工業など)は既にAIによる超効率化で極限まで人手が削減されており、これ以上介護に人を回す余裕はない。そこで政治家たちが目を付けたのが、文化の発信を行う「クリエイター」たちだった。

2040年、政府は「国家クリエイター」資格制度を導入。

要件は主に二つ。この資格を持つ者以外には、文化的創造が一切許されない。

もう一つは救済措置と呼ばれるもので、国家クリエイター希望者は、不合格でも規定年齢までは時短で働き、深夜勤務や残業も免除されるというものだ。


碧は減免措置の終了を覚悟していたが、夢の終わりも再度突き付けられた気分だった。


「早速だが、夕方の勤務を調整するので、今夜の深夜勤務を頼めないだろうか。」


デス子がインカムを通して碧に耳打ちする。


「碧、ここは引き受けなさい。」


碧は一瞬だけ考えて返事をした。


「承知しました。深夜勤務お引き受けいたします。」

「助かる。仕事内容を把握しているか?」

「はい。業務は一通り理解しておりますが、深夜業務の前に再度確認します。」

「いや、待て。マニュアルは確か回りくどい内容だったはずだ。だから、今夜の業務に必要な分だけ始業の1時間前までにメールで送っておく。5分も確認すれば十分なはずだ。」

「それでは、副所長にお手間をかけます。」

「AIにマニュアルを要約させ、素案を提出させてチェックすれば、こちらも5分もかからん。そうやってお互い効率よくいこう。」

「ありがとうございます!」


こうして碧は初めての深夜勤務に臨むことになった。

そんなやりとりを、2-Bの老人達はちゃっかり盗み聞きしていたのであった。

2025/7/8改定

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