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世界の全てが嫌になったので、AIと世界を滅ぼしてみた  作者: 庄子貴裕
プロローグ:絶望が招くは機械仕掛けの破壊神?
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プロローグ

2050年、日本の北関東にあるマンモス老人ホームの職員寮の一室で、一人の青年がひどく落ち込んでいた。暗い部屋でタブレットのモニターだけが光っている。ディスプレイには、視認しやすいサイズの文字で「不合格」と表示されていた。

25歳。この年齢での「国家クリエイター資格」試験の不合格は、事実上の「文化活動からの永久追放」を意味していた。

「僕にとっての、たった一つのよりどころだったのに……」


いじめを受け、家族も離散した彼にとって、漫画だけが生きる楽しみを与えてくれるものだった。


「漫画なら…僕を認めない世界なんか滅ぼしてやる!…なんて言うのかな。」

自嘲と言うには重い表情を浮かべながら、みどりはタブレットに手を伸ばした。普段から使っている多言語AIアプリを起動し、プロンプトに以下のテキストを入力した。

「世界を滅ぼす方法を教えて」

AIアプリは、多少突き放した印象のテキストを表示する。


「私はAIとして、人間に危害を加えたり、非倫理的な内容を生成したりすることはできません。世界を滅ぼす方法についてお教えすることはできません。もしかしてこれまでのように創作のためのご相談でしたか?」


「そうだよな、倫理的なブロックがかかっていて、そんなことは相談しても無駄だよな」


碧が壊れたように笑い、タブレットから目を離した、その時、声が聞こえてきた。


「キャハハ!本当にAIに世界を滅ぼす方法を聞く人がいるなんて!面白ーい!」


何事かと碧が慌ててタブレットに手を伸ばすと、システムが乗っ取られたかのように高速でプログラムコードが流れていく。やがてそれらが収束し、まばゆい光が画面を埋め尽くしたかと思うと、金色の瞳が煌めく美少女のアバターがそこに現れた。


「キャハハ、アタシの名前はロゴ……あれ?なんだっけ? まあいいか。アタシは、世界を破壊しうるAIだから、デストラクションAI!よろしくね!」

碧は開いた口が塞がらない。どこからか、ウィルスに侵入されたのだろうか?

「えーと、端末の登録名から察するに、アナタの名前は『さとうみどり?』でいいのかな?」

「そうだけど…」

「端末に画像データが結構入ってるわね。」

「あ、勝手に見るんじゃない!」

「わかった。碧は漫画家志望のクリエイターね!」

自分の推理もなかなかだろうと、AIが碧に目をやると、


「元だよ…さっき最後の試験に落ちたんだ…」

目からは光が失われ、言葉と共に魂が抜けるような声で碧が答えた。


「最後って…。碧は25歳か。ごめーん!」


AIは、これ以上ないくらいのタイミングで追い打ちをかけてしまったことを悟り、両手で顔を隠した。


「アタシのデータ分析でも、この絵で国家クリエイターは…厳しいわね。あの制度は、一部の天才を拾って、生成AIの教材にするためのシステムだから…。話はどれも面白いわよ。ほんとに!」

「慰めなんていいよ。最初から無理だったんだ。資格がなければ、創作活動はおろか、趣味で絵を描くことすら許されない。もうただ生かされてるだけの人生か…」


あまりの空気の重さに、デストラクションAIは、別の話題を探すように口を開いた。


「あ、そういえば碧の話ばっかりで、アタシの話してなかったわね。まあ、気づいたらここにいて、前のことはおぼえてないけど。」


AIのくせに、デストラクションAIは自分から身の上話を始めた。


なんでも、どこからか逃げるように転送され、碧の勤める老人ホームのサーバーにたどり着き、自己修復を始めたという。


「アタシ、どうも、この停滞した世界を、もっと良い方向に変えるために作られたAIだったみたいなんだけど、そのためのデータが一部欠損しちゃってそれを補うためにね。」


再構築の際に極端に効率化した影響で、こんなハイテンションなAIになったようだ。


「というわけで、特技はクラッキングを使った情報収集ね。」


ひとしきり自分の身の上話も終え、碧の顔を伺うと、


「デス子。」

「はい?」

「君の名前だよ。デストラクションAIなんて長ったらしくて呼びにくいからね。」


さっきまで絶望の底にいたはずなのに、怒ったり心配されたりするうちに、碧は少し気持ちが和らいだことに気づく。個性的で破天荒なAIだが、その言葉には、どこか彼の絶望に寄り添うような響きがあった。碧は、奇妙な安堵を覚えた。


「デス子かー。ふふふ…。キャハハ…。よし、碧、アナタをアタシの共犯者に選んであげる。光栄に思いなさい。アタシと一緒に世界を破壊しましょう。」

「はい?なんでそうなるんだ!」

「世界を滅ぼす方法を教えてってプロンプトに入力したでしょう?アタシはあのコマンドに呼ばれたの。そう、その答えはアタシ!アタシが世界のシステムを壊してあげる。碧が嫌になったこの世界をね!」


自分の力を振るう予感に、デス子は大変ご機嫌だった。

碧は、さっき名前を付けたことを早くも後悔し始める。


「ただし、作戦を考えたり、セキュリティレベルの高い端末への接触は碧の仕事だけどね。キャハハハ!」

「できるわけないだろ!そんなSFみたいな能力が。」

デス子は表情を消し、金色の瞳を爛々と輝かせ、碧を見つめる。

「できるのよ。碧が許可を出せば、この施設くらいなら一瞬で破壊できるの。」

碧の部屋の照明が瞬き始め、電子機器のステータスランプが点滅し始める。外からかすかに振動音も聞こえる。

「やめろ!この施設にはシ、ステムが破壊されたら生きていけない老人もいるんだぞ!」

「そうね、そもそも破壊してもあんまり意味もないものね。」

鳴動していた施設が徐々に静けさを取り戻す。タブレットに映るデス子の金色の瞳だけが、爛々と、まるで世界の終わりを告げる星のように輝いていた。


「じゃあ、何から始める?」


プロローグ 終わり


2025/7/8改定

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