ミーティング
翌朝は早くに起床した。
昨晩はファラに教えてもらった宿に泊まったのだが、値段のわりに清潔で気持ちよく眠ることができた。
持つべきものはしっかり者の友だちだ。
ファラには近所の美味しいパン屋の情報ももらっている。
教えられたパン屋で簡単な朝食を済ませた俺は遅れないようにダンジョン前広場へやってきた。
今日はここで三人組とミーティングをしてからダンジョンに入る予定である。
少し早めにやってきたというのにファラはもう待ち合わせ場所に立っていた。
「おはよう。ミフィとラムダは?」
「ごめんなさい、まだ来てないの」
恋人同士である二人は同じ部屋で暮らしているそうだ。
子どものくせにうらやまけしからん話である。
腕時計を見るとちょうど八時になるところで、そこらじゅうの鐘楼から鐘の音が響きだした。
「遅刻、遅刻ぅ!」
「おーい、キーンさーん!」
パンをくわえたミフィとラムダが走ってきた。
「だめじゃない、キーンさんを待たせたりしたら」
ファラのお説教がはじまっている。
「ごめんなさい、昨日の夜はラムダが興奮してなかなか寝かせてくれなくって!」
「ミフィだってノリノリだったくせに!」
二人の言い訳にラファは顔を真っ赤にしている。
「そういうことを表で言わないの!」
「ん? 私たちはカードをして遊んでいただけだよ。ラムダが負け続けて意地になっちゃったの」
「そうそう。だけどミフィだって俺の挑戦を受けたんだぜ」
二人はすっとぼけていたけど、これはわかっていてやっているな。
純情なファラをからかっているのだろう。
困ったものだ。
俺は固まっているファラに声をかけた。
「よし、ミーティングをはじめよう。今日はどうする?」
「私はキーンさんに決めてもらおうと思ったんだけど……」
「俺は昨日ここに着いたんだぜ。ダンジョンのこともよくわかっていないんだ。方針なんて立てられないよ」
『ダウシルの穴』をプレーしたのは十年以上前の話だ。
記憶はあいまいだから、俺はサポートに徹するべきだろう。
「だったら、地下一階の東側を探索するというのはどうかな? 前は西に魔結晶が集中して出たけど、最近は東側に移ってきているんだって」
ファラがてきぱきと提案していく。
昨日死んだリーダーよりよっぽどしっかりしているな。
これなら安心して任せられそうだ。
「リーダーの言うとおりにするぜ」
「リーダーって、私が?」
「遊び人がやるより百倍マシだと思うぜ」
俺の意見をミフィとラムダも支持してくれた。
「うんうん、ファラ姉ちゃんがやりなよ!」
「俺もファラ姉ちゃんがいいと思うな」
ファラはしばらく考えていたが、すぐにうなずいた。
この中では自分がいちばん適任だと判断したのだろう。
さすがはしっかり者である。
「じゃあ、今日は地下一階東側の探索ね。陣形は2・2。前衛はキーンさんとラムダ。後衛は私とミフィよ」
俺たちは軽い打ち合わせをしていく。
「ところで、みんなのレベルはいくつくらだ? あ、言いたくなかったら言わなくてもいいけど」
「俺は6っす!」
「私も!」
ラムダとミフィがすぐに教えてくれた。
君たちには警戒心というものがないのか……。
それだけ信用されていると思えばうれしいけどさ。
「私はレベル8よ。キーンさんは?」
「俺は……」
ファラまで正直に打ち明けてくれたのだ。
俺が嘘を言うのはよくないな。
よし、本当のことを言ってしまおう。
「99だ」
「うそ!」
ミフィが口に手を当てて驚いている。
「またまたぁ……。騙されないっすよ」
ラムダも信じかねているようだ。
「信じられないかもしれないけど、本当だぞ」
だが、ファラさえも信じてくれない。
「うそはいけないわ」
「なんでうそだと思うんだよ?」
「だって、職業をカンストした人なんていないのよ」
その情報は知らないな。
「そうなの?」
「世界でいちばんレベルが高いと言われている勇者様だってレベル60なんだから」
思い出したぞ。
『ダウシルの穴』にはレベルの壁が存在するのだ。
たしか、レベルが20、40、60、90、98、になると、次のレベルに上がるのが極端に難しくなる仕様だった。
小学生だった俺も20から21に上がらなくて何度も心が折れかけたんだよね。
「レベル99じゃなくても、キーンさんが強いのは知っているからいいけどね」
「いや、本当なんだって……」
信じてくれないのは悲しいが、あの苦労がないのはありがたい。
夏休みの後半はひたすらレベル上げの日々だったもんなあ。
それはともかく、仲間のレベルが一桁というのは問題である。
全員がレベル10にならなければ安心して地下二階へは行けないぞ。
よし、まずは仲間のレベリングをしてみよう。
俺はそう心に誓った。
カクヨム作品のなろう移植です。
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