未熟な聖騎士
4 未熟な聖騎士
ステータス画面の裏面もまた、ステータス画面だった。
名前 :サクラ・キンタ
ジョブ:聖騎士(レベル1)
力 :9
早さ :4
体力 :7
賢さ :3
運 :4
HP :15
MP :5
聖騎士のスキルと呪文
かばう:仲間を守る
身体強化魔法:自分の防御力をあげる
どうやら俺は二つのジョブを切り替えて使うことができるようだ。
これが特殊能力『リバーシブルステータス』か……。
それはいいのだが、こちらのステータスはレベルが1か……。
まあ、低いほどレベルは上がりやすいから今後に期待である。
しかし、聖騎士と言えば俺がかつてプレイしたルマンドのジョブじゃないか。
ゲームのストーリーだと、聖騎士になれる人間はその時代において一人だけだったはずだぞ。
ルマンドのプロフィールだって帝国唯一の聖騎士だったのだから。
それなのになんで俺が?
この世界にルマンドはいないのか?
べつにいなくてもいいけどさ……。
実を言うと、俺はルマンドがそれほど好きじゃなかった。
ルマンドは強い正義感の持ち主で、曲がったことが大嫌いなキャラクターだ。
最初はそういうところに惹かれてルマンドをプレイした。
だけどプレイ中に少しずつ違和感を覚えてしまったんだよね。
ルマンドの人生は結構悲惨なのだ。
聖騎士としての職務を全うするために恋人とは別れるし、要領が悪く、いつも損ばかりしていたのである。
恋人であるモリーナ嬢がルマンドを諦めて別の男性と結婚してしまっても「死地に赴く私と結ばれるよりずっといい。これでよかったのだ……」とか言ってしまう。
そのへんから、ルマンドが嫌いになったんだよなあ。
また、聖騎士というジョブも好きではない。
防御力は高いけど、仲間を守ることが主な役割で、攻撃の技が少なかったからだ。
唯一の救いはアンデッドに強いことかな。
そういったわけで、ゲームの主人公として魅力を感じなかったのである。
それに、この世界の騎士団は警察みたいな組織でもある。
聖騎士はその団長だ。
だが、俺は警察権の行使も邪神討伐にも関心がない。
よし、聖騎士であることは秘密にして、遊び人として生きていこう。
俺は即決した。
だってさ、遊び人のレベルは99だぜ。
きっとおもしろおかしく暮らせるだろう。
日本に帰れないのなら、この世界で幸福にならないとね。
ところで、ジョブを切り替えたらどんな風になるのだろう?
遊び人として生きていくとしても、そこは確かめておかないとな。
そう考えた俺はさっそくジョブを切り替えてみた。
「ジョブ・チェンジ」
呪文とともに服装が変わったぞ!
それまではひらひらの遊び人服だったが、聖騎士にチェンジしたら貴族が着るような立派な服になっている。
早着替えみたいでおもしろいな。
一瞬で切り替わったせいか、こちらに気がついた人はいないようだ。
服が豪華なのはいいけど、武器はどこにもないな。
剣や鎧は自分で買いそろえる必要があるのだろう。
遊び人だとナイフを装備していたのに聖騎士は融通が利かないようだ。
なんだか体も重くなった気がする。
俺は再びステータスを裏返し、遊び人の姿に戻った。
うん、やっぱりこちらの方が落ち着くぞ。
しばらくはこれでいこう。
そうこうしているうちに腹の虫が切なげに泣いた。
だが、飯を食いたくてもお金がない。
このままでは野垂れ死にである。
どこでなにをして暮らすにしても先立つものは必要だ。
この世界で手っ取り早く稼ぐならダンジョンへ行くしかない。
ダンジョンで魔結晶を採取して売りさばく、それが『ダウシルの穴』の稼ぎ方である。
ちょうど目の前に看板も出ている。
『ダウシルダンジョン、この先六〇〇メートルを右』
よし、ダンジョンへ行ってみよう!
空腹で動けなくなる前に俺はダンジョンへと向かった。
カクヨム作品のなろう移植です。
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