ちょうどいい部屋
打ち合わせを終えた俺たちはダンジョンに突入した。
その日暮らしの遊び人だけあって、俺の懐具合はかなり厳しい。
いまは1レーメンでもいいから稼いでおきたいのだ。
『ダウシルの穴』は邪神討伐を目的としたゲームだったけど、現実の俺にとっては関係のない話である。
俺たちの主目的は地面や壁に生えてくる魔結晶の採取だ。
他にも亡くなった探索者の持ち物を回収することもある。
それから、ダンジョンに隠された財宝やアイテムも手に入れたい。
うろ覚えながら俺にはゲームの知識がある。
レベルだって99だ。
他の探索者たちよりアドバンテージがあるのだから、それを活かさない手はない。
がっつり儲けて、堅実な遊び人にレベルアップしてやるぜ。
老後は超高級老人ホームに入れるように頑張るぞ!
意気込みはよかったが、なかなか魔結晶の見つからない日だった。
かれこれ三十分もダンジョンをうろついているが、魔結晶はまだ一粒も採集できていない。
だが、仲間の表情は明るく、前衛として横に並んだラムダとおしゃべりをしながら通路をすすんだ。
「地下一階なんて、だいたいこんなもんっすよ」
ここは人が多いので、壁や地面に生えた魔結晶はすぐにとられてしまうそうだ。
「でも、新しい魔結晶もすぐに生えてくるんですよ。まあ、ちっちゃいやつですけどね」
同じように魔物も壁や地面から出現するそうだ。
階層が深いほど強力な魔物になる。
「一説によると、死んだ探索者の魂が魔物として復活するんですって」
ファラが身震いしている。
死んで、自分の魂が魔物になってしまうところを想像しているのかもしれない。
俺だって、こんな薄暗い場所で魔物に生まれ変わるのは嫌だった。
地図を確認していたファラが後ろから声をかけてきた。
「その突き当りを左
に曲がって」
だが不意に『お宝への嗅覚』が発動した。
「いや、先に右へ行ってみないか?」
「右は行き止まりだよ」
「まあまあ、遊び人を信じてくれよ」
ファラの言った通り通路の先は部屋で、それ以上先には進めなかった。
だが、お宝の気配は強くなっている。
部屋の両隅には背の高い台座があり、その上には崩れた石像が載っている。
俺は気配を頼りに壁の際まで寄った。
「たぶん、この辺だな……」
踏みならされて硬くなった地面のしたに何かを感じるぞ。
ほじくり返してみると5000レーメン銀貨だった。
誰かが落としたのかな?
それとも死にゆく探索者の懐からこぼれ出たのかもしれない。
そういうことを言うとファラが嫌がるかもしれないから口には出さないけどね。
「ラッキー」
地中から銀貨が出てきたのでファラたちは驚いている。
「すごいね、キーンさん。どうしてわかったの?」
ミフィは尊敬のまなざしだ。
「な~んか、わかっちゃうんだよね」
「その能力があれば街でも暮らしていけるんじゃない?」
たしかに。
小銭を拾うだけで一生暮らしていけそうだ。
「こういうお宝だけじゃなく、商店のお買い得品とかも敏感に感じとることができるんだぜ」
バーゲンセールの目利きも得意だぞ。
これを聞いてラムダは目の色を変えた。
「俺が剣を買い替えるときについてきてくださいよ!」
「いいよ。任せといて」
俺は5000レーメン銀貨を収穫袋へ入れた。
この袋の中身は四人で山分けすることになっている。
俺が見つけたとはいえ、ここまで来られたのはチームのおかげだ。
平等に分けるべきだろう。
そうそうお金が落ちているはずもなく、お宝の気配はなくなった。
この周辺には魔結晶などもなさそうである。
「ここいらの魔結晶は取りつくされているみたいだな」
「じゃあ、移動しましょう」
ファラがさっそく地図に目を移したが、俺にある考えが思い浮かんだ。
「なあ、ここでレベルを上げないか?」
この部屋にうまく魔物を誘い込めれば、簡単に討伐ができるはずだ。
「私、やってみたい!」
「俺も!」
ミフィとラムダはすぐに食いついてきたが、ファラは少し心配そうだ。
「どうするの?」
「遊び人のスキルを使うのさ」
俺は自分のスキルである『口笛』の説明をした。
「というわけで、俺は口笛で魔物をおびき寄せることができる。ファラとミフィは台座の上に乗って、入ってきた魔物を両側から攻撃してくれ」
「俺は?」
「ラムダはミフィの護衛だ」
「了解っす!」
俺は部屋の真ん中に立っておとり役になる。
高い位置からの挟撃があれば魔物は一網打尽だろう。
同士討ちの心配もない。
俺の案にファラも納得し、ここでレベル上げをすることになった。
「よし、全員配置についたな。それじゃあ始めるぜ」
ダウシルの穴に鋭い口笛の音が響いた。
カクヨム作品のなろう移植です。
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