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私だけが知らなかった

「もういや! うるさく言わないで!」

「ユマ、明日には先生が来られるわ。決められたところまでは頑張りましょう。お母さまも一緒に考えるから」

「お母様は、勉強しなさいっていつもうるさいの! マナーだって所作だってぐちぐちうるさくて息が詰まってしまうわ」

「ユマ……」

 家庭教師の出した課題をろくにせず、授業にもなかなか集中しない不真面目なユマに注意をすると不貞腐れた顔で言い返してくる。来年には貴族学院の入学が控えているというのに。


 以前は一生懸命頑張っていたのに、最近ユマは急に学ぶことを嫌がり始めた。

 これが反抗期というものなのかもしれないけれど、今きちんとしていないと学院に入ってから大変になるのだ。

「でもあなたももうすぐで学院へ入るのだからそれまでは最低限のマナーは身につけておかなくては困ることになるの。お母様と一緒に頑張りましょう」 

 貴族の子息令嬢はマナーやある程度の教養を身につけた上で学院に入るのだ。そこで培った人間関係は将来を左右するほど大きなものとなる。その人間関係を結ぶのにやはりマナーや最低限の礼儀、知識がないとおのずと交流相手が決まってくるのだ。

「私は女の子なんだから可愛くしていればいいいの!」

「そんなことはないわ、学院に入ってから苦労するのはあなたなのだから……」

「そんなことないってバーバラ様は言ってたわ。勉強などできなくても大丈夫だって!」

「え?」

「バーバラ様は、女の子は美しく可愛くあればいいのよって。髪を結ってくれたり、お化粧を教えてくれたり綺麗になる方法を教えてくれるの。……いやなことばかりしなさいなんて言うお母様なんてもう嫌よ! バーバラ様みたいな綺麗で優しいお母様が良かった!」

 何よりも大切にしている娘の言葉は私の心を深くえぐった。

 そして娘のユマが旦那様の愛人を知っているどころか、交流があったと聞いて血が凍りそうになるほどのショックを受けた。


「……あなたは……バーバラ様を知っているの?」

 私の声が震える。

「……お父様が弟とも仲良くしなさいって連れて行ってくれるんだもの」

「……弟?」

「お父様の子供だから弟でしょ?」

「……なぜ……どうして? ひどい……」

 全身の血の気が引いた。

 足の力が抜けて、思わず膝をついてしまう。

「ユマ……もう二度と会ってはいけないわ。会わないで、ね? ユマ。」

 私はエマの両肩を思わず強くつかんでお願いをした。

「いやよ、だってオレノが可愛いもの。お母様がそうやってバーバラ様に意地悪するからバーバラ様もオレノもここに来てくれないのだわ。意地悪なお母さまより、バーバラ様のほうがいい。お父様も一緒に暮らしたいって言ってるもん!」

「……そう。わかった」

 私はふらふらしながらも立ち上がると、そのまま部屋を出た。

「お母様?」

 後ろからユマが私を呼んだが、振り返ることができなかった。


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