15 初恋の終わり
えっ?!
瞬も私の事……?
じ、じゃあ……!
「そ、それなら……」
「けどさ、あの時。……あの時、兵藤先輩とキスしてる佳世を見たときに……。俺の初恋は終わったんだよ」
「……え?」
「滅茶苦茶つらかった……。あの日、俺は佳世にダメもとで告白しようとしてたんだ」
「で、でも!あれは!」
「ああ、今は事情がわかったけど……」
「でしょ?!だったら……」
「だけど、あの時落ち込んでた俺を心配して、元気づけてくれたのは千尋なんだ」
「え……」
「千尋もさ、最近身近な人が亡くなって、落ち込んでてさ。支えてやりたいって……。傍に居たいって……思ったんだ」
「……」
「時間としては短いけど、千尋と一緒にいて……。惹かれたんだ。好きになったんだ」
「そんな……」
「正直言うとな、佳世の事、吹っ切れたかどうか自分でもわからねえところもあるんだ。だけどさ……」
ヤダ。
聞きたくない。
「ごめんな。佳世とは付き合う事は出来ないよ。俺の彼女は千尋だから」
ヤダ。
嫌だ。
嫌だよ。
瞬も私の事好きだったのに?
どうして?
どうして付き合えないの?
どうしてこんなことに?
普通に告白してたら付き合えたかもしれないのに?
なんで?
今からでも何とか出来ないの?
好きなのに。
私、瞬の事好きなのに。
「じゃあな、佳世。ごめんな」
「イヤ!待ってよ!瞬!」
今の私の顔は酷いことになってるんだろうな。
でも、そんな事どうでもいい。
「ねえ!瞬!待って!待ってってば!!」
小さい頃は、私が泣いてたら、すぐに飛んできてくれたじゃん。
傍に居て、ずっと頭を撫でてくれたじゃん。
私、今、すごく泣いてるよ?
ねえ、瞬。
傍に来て、頭……撫でてよ。
泣き止むまで……。
撫でてよ……。
瞬は振り返らなかった。
「ねえ!瞬!待って!待ってってば!!」
正直、あの状態の佳世を放って店を出る事は、ためらった。
慰めてやりたい気持ちもあった。
俺だって、佳世への気持ちが全て無くなったワケじゃない。
佳世は、小さい頃は気が強かったが、一度泣き出すと中々泣き止まなかった。
いつも俺が泣き止むまで、頭を撫でていた。
そんな事を思い出してはいたが、俺の彼女は千尋だ。
俺が佳世を慰めるのは……違うだろ。
俺か、佳世のどちらかが告白していたら、と考えると、俺の責任も軽くはない。
今、佳世が泣いているのは、俺のせいだ。
だからこそ、俺が慰めちゃいけない。
俺に、その資格はない。
『千尋?今なにしてる?』
『お風呂入ってボーっとしてた……』
『……心配かけたか?』
『……ちょっと、ね』
『ちゃんと終わったよ。俺の初恋』
『!!!そ、そう……?』
『ああ。……で、メシは食ったか?』
『あ、ま、まだだけど……』
『メシ食いに行かねえ?』
『え……い、行く!!!!!』
『ちょ……声でけえって』
『あ、ご、ごめん』
『じゃあ、今から迎えに行くよ』
『うん!待ってる!』
千尋の声を聞いて、安心した。
やっぱり、俺は千尋の事、好きなんだな。
早く会いたい。
でも……。
少し。
少しだけ。
ゆっくり歩こう。
ほんの少しだけでいいんだ。
そうしたら。
俺の涙も止まるだろ。
俺の涙なんか、何の価値も無いんだから。