10 タイミング
「あれ?今日は相原、練習来てないのか?」
朝練が始まる時間になったんだが、女バスの中に相原の姿が見えなかった。
少し気になって、女バスの子に聞いてみた。
「あー、千尋ちゃん、ひいおばあちゃんが危篤状態らしくて、今日学校自体休みだよ?」
「えっ?」
「なんかね?持病があったらしくて、ずっと入院してたの。で、朝一で病院から連絡があったんだって」
「そ、そうか……、ありがとな」
「あ!新谷君!千尋、多分不安だろうから、会ったら元気づけてあげてね!」
「あ、ああ。わかった」
相原にそんな事が……。
俺と会ってる時は、元気だったけど……。
大丈夫かな……。
そして、放課後。
部活をしていると、
「新谷君!」
「ん?」
「あ、あのね?千尋ちゃんのひいおばあちゃん、今日の午前中に亡くなったって」
「え?!」
「担任の先生と部活の顧問に連絡があったらしいの。だから何日か、学校休むって」
「そうか……」
相原の事、あんまり知らないけど、つらいだろうな……。
「それで、さ……。お願い!千尋ちゃんに連絡してあげて?絶対落ち込んでると思うの!」
「あ……ああ」
「私ね?千尋ちゃんから相談受けてたんだ。だから知ってるの。千尋ちゃんが新谷君に告白したこと。前から新谷君の事、好きだったことも」
「そうなのか……」
「だから、お願い!」
「わかってるよ。俺だって心配だしな。それに……、相原は俺の事心配して元気づけてくれたしな。頼まれなくても連絡しようと思ってた」
「ホントに?!良かった!!」
そうだよな、俺に出来る事なら力になりたい。
身近な人が亡くなるって、俺はまだ経験したことないしな。
相原のつらさはわかってあげられるかどうかわからないけど、俺に出来る事なら。
部活も終わり、家に帰ってシャワーを浴びた。
メッセージにしようかと思ったが、思い切って電話してみた。
『女バスの子から聞いた。大丈夫か?』
ちょっと素っ気無いかな……。
けど、こういう時何て言っていいかわからねえんだよな。
『ありがとう、心配してくれて』
『いや、相原も俺の事心配してくれたしな』
『あ、そうだったっけ。今ね?葬儀場で家族と一緒なの』
『そうか。つらくないか?』
『なんか実感が無いんだよね。今、ひいおばあちゃん、綺麗にしてもらって一緒に居るの』
『そうなのか……』
『あ、ひいおばあちゃんね?私が好きな人が居るって言ったら、千尋なら大丈夫だって、頑張んなさいって……。言って……くれ……て」
『うん』
『それで……それでね?千尋は私に似て可愛いんだから、振られたら男に見る目がないんだって……』
『うん』
『女は…‥度胸だ……って……言って……くれたんだ』
『うん』
『私が新谷君に告白出来たのは、ひいおばあちゃんのおかげなんだ。後悔の無いようにって……』
『そっか……』
『……信じられないなぁ……。もう……ひいおばあちゃんとお話出来ないんだ……』
『……』
『……この間まで元気だったのに……。どうして……』
『……』
くそっ!何も言葉が出て来ねえ!
元気づけてくれって、相原の友達から頼まれてたのに!
俺だって、元気づけてやりたいってのに!
どうしたら……。
『ご、ごめんね?……なんか急に悲しくなってきちゃった……。せっかく新谷君が電話くれたのに……ごめんね……』
謝るなよ……俺に出来る事……何か……。
『……声聞いたら会いたくなってきちゃった……。ごめんね?切るね?ありがとう、電話嬉しかった』
!!!
『相原、今いる場所、教えてくれ』
今相原が居る場所は聞いた。
相原が俺に会いたいっていうなら、叶えてあげたい。
こんな俺が相原の心の支えになれるかどうかなんてわからない。
だけど、俺に出来る事なら……。
俺が少しでも相原の為に出来る事があるなら。
そう思い、手早く身支度を済ませ、家を出る。
駅に向かう途中。
「あ、瞬!あ、あの……、ちょっと話があるんだけど……いい?」
佳世に出会った。