平和
黒帝と妖精は毒無効を得て息を吹き返した。さらに魔王城にいる毒無効を持たないものが一通りヒュドラーに噛まれて毒無効を得た。
「どうなるかと思ったが案外うまく行くものだな」
「はい、ヒュドラーも手なずけましたし、これから番犬がわりに城の警備をさせましょう」
「うん、より魔王城らしくなってきたな」
ヒュドラーはルーシーの手から干し肉をもらうと喜んで尻尾をふっていた。ここまでくるのにデリアは言うことを聞かないヒュドラーの首を何回も切り落としては生えてくるのを待ってまた斬るといった血のにじむ調教を行ってきた。
しかしヒュドラーは干し肉が欲しくてなんでも言うことを聞くのでこれを知られると番犬としての役目を果たせないのだが、見た目が怖いのでとりあえず人族の冒険者よけにはなりそうではあった。
「さてと、黒帝もそろそろ卒業試験だな。相手は南方の巨人族か赤道の蛮族か、あるいは暗黒大陸の向こう側の国をほろぼすのもいいかもしれないな」
「南方の巨人族は龍族と対峙しているので龍族にまじればやらせてくれるでしょう。暗黒大陸の向こう側の国はほろぼすにはマーラ様の許可が必要です。赤道の蛮族は現在誰も相手にしていません、これがよろしいのでは」
「そうだな、国を作っていない部族単位のままだったか。これならいいだろう。大きな化物もいないし、武器は毒の吹き矢と斧、呪術をしかけて来るがこれまで学んだことを使えば問題なく殺戮できるだろう」
「個人の戦闘力が高いので部族の村を一つ消せば十分かと」
ルーシーとデリアそして黒帝に妖精は赤道にある蛮族の村の外側に転移した。蒸し暑く木の生い茂ったジャングルの中から蛮族の村の様子をうかがいながらルーシーは黒帝に言った。
「これから最終試験を行う、あの村の蛮族を殺してこい」
黒帝はうなずくと音をたてずに村の中に入って行った。藁の屋根に土の壁で出来た家が点々と建ち並ぶ中で子供たちが遊んでおり母親や老人からご飯をもらっておいしそうに食べていた。黒帝は村人からお菓子をもらって村の中を一周して帰って来た。
「蛮族はいなかったよ」
「・・確かに大人の男はいないな、狩に出ているのか。
これはダメだぞ、デリア」
「黒帝は人族ですもんね、同族は殺せないルールがありました、ハハハッ」
「撤退するか」
そこに村の子供たちが黒帝の後を追って近づいて来た。子供たちは土まみれの体に布を巻き付けただけの粗末なかっこうで頭はバサバサだった。
「ねえ遊ぼうよ、べったりした変な髪のおまえ。それにそこにいるおばさん達も、すごい妖力を感じる、なにかしてみせてよ」
子供たちは笑いながらまっすぐした目で皆を見て語り掛けた。ルーシーは子供たちを見下ろしながら不思議そうな顔をして
「私達が怖くないのか」
「シャーマンと同じ圧力を感じるけど悪い人ではない、たぶんルッタと同じ力使える。ルッタは鳥や動物の幻影作ってみせてくれる、お前たちもできるのだろ」
「それが得意なのはエルフだ、エルフは見たことあるか」
「耳長ならたまに来る、色々くれる、そして遊んでくれる、村で採った物を買って帰る」
「そうかデリアなんか出来たか」
「・・私達は芸がありませんね、妖精は何かできるのでは」
「いやあ、私も食べるだけで何も芸は・・」
妖精がしゃべると子供たちははじめて妖精を認識して騒ぎ出した。
「おお、これはちっさい神様、この子供の頭から生えている。おまえも神様か」
「ちがう、寄生されているんだ」
「キセイ?神様が憑依することか、こっち来い、長老様に見せたい」
黒帝は子供たちに引っ張られて村に入って行った。しょうがないのでルーシーとデリアもついて行った。
「どうやら精霊と間違っているな、妖精はもっと、こう、何というか、ゲテモノなんだが」
「生態を知らないから、ですかね。もっとドロドロした存在なんですが」
ルーシー達は村人から色々ともてなされてお礼にベーゼル牧場のオークジャーキーを沢山残して魔王城に帰って行った。
「変な時間をすごしてしまった、あいつらってあんなに愛想のいい部族だったか」
「エルフが懐柔したんでしょうね」
「リーシャか、まさかな。エルフは沢山いるから、少なくともガイルではない」
「ガイルではありませんね、不快な印象を持ってなかったから」
「さてどうするか、巨人なら倒しても問題無いと思うが、あれは強いぞ」
「一匹倒せば卒業ってところでしょうか」
「おばさん達、すごいところに住んでいるんだな」
「お前たち、どうやって来たんだ」
村の子供たちがいた。まわりをキョロキョロ見回しながらケリーやヒュドラーを棒でつついていた。
「おばさん達の方法をまねたらここに来た。いろいろと出来るんだな、こんな妖術ははじめてだ。
なにかを倒したいなら火山に獅子がいて畑を荒らすからそれを退治してもらうと助かるよ」
「獅子か、お前らのシャーマンや戦士、そしてエルフでも退治できないのか」
「できない、獅子は炎で覆われていて水をかけても冷やすことが出来ないから誰も近づくことが出来ないんだ」
こんど行く、と伝えて子供たちを村にかえすとデリアに結界をはらせた。
「子供よけに結界をはるとはな、だがそうそう気軽に来られても困る、ここは魔王城だ」
数カ月がたってヴァレンティーナに双子が生まれた。




