停滞
「うちのダンジョンは早いんじゃないのか、だが修道院にいったのならもう大人か」
ベーゼルは高らかに笑いながら、ルーシーとデリア、そして黒帝たちを地下の迷宮に導いた。
「本当ならここら辺も火球作って薄明りの中を少しずつ進んでスリルを味わうところだけどな。お前らがいるから魔物がよって来やしない」
「いいんだよ、こんなところの肝試しは。さっさと吸血蝙蝠のいる階層まで案内しな」
「へいへい、攻略方法を説明いたしますかな、どうします」
「ああ頼むよ、音波攻撃を避けるために耳の神経を遮断するのは分かっている、それで」
「お前がガキの時はそれを知らないで一回しっぽまいて帰ったんだよな。まあ、後は血を吸われないことだよ、特にクビをやられると退場だけど、これは大丈夫か、妖精がガードしているから。それから、それからと、音の出る攻撃はさっとよけられるから、できるだけ広範囲にしかける」
「分ったか黒帝。しかし妖精はこのまま巻き付いている気なのか、下手したら死ぬぞ」
「いいんだよ、私がガードするからさ。コウモリは夜中の花畑に来ては蜜を吸うから追い払っている」
「ここのコウモリは吸血だぞ」
妖精は花畑からずっと離れようとしない。
「しかし、なんでお前こんなにこの子に執着しているんだ」
「愛だよ、愛、人族がするような」
「人族の妙な習慣に興味を持つ時期はあるもんだ」
「そいつは黒帝の魔力を吸っているんだ」
「はっは、これは面白い、女神の奴が与えた魔力は甘いのか、花の蜜のように」
「甘いというか、どうかな。根源が安らぐよ」
「お前らは純粋な魔族ってわけでもないからな。ほらここら辺から吸血蝙蝠の出る地帯だよ、頑張れ」
鍾乳洞の中央が大きくえぐれてその下には糞と何かの死骸が積み上げられていた。その上方には多くの赤い光が見えた。
「ああ、言い忘れていた。皇帝みたいに、ピカッ、ドカン、ハイ終わり、ってのは無しな。ここのコウモリをまた集めるのはたいへんなんだ」
「わかっているよ、なあ黒帝」
ルーシーはそういうと黒帝の背中を押した。黒帝が歩いて行くとデリアがコウモリにむかって水球を投げた、天井にぶら下がっていたコウモリは怒って飛び回り、黒帝にむかって襲い掛かった。
「ああ、耳がキーンとなるな、ほんとに嫌な音だ」
「これがここの売りだよ、ちょっと腕に自信があっても対策が出来ていないと。ほら対策していても足嚙まれてるだろ」
クビは妖精がガードしていたが足を何か所が噛まれた黒帝は大きめの火球を作って数匹を叩き落した。ベーゼルは大きくうなずくと、
「うんよくやった、これでいいだろう」
「まだだ、まだ完全に見切れていない」
「普通にダンジョンを攻略しに来ている客はこれで満足して帰っているぞ」
「黙っていろ、もうちょっとやらすぞ。黒帝、ウインドカッターで目を斬るんだ」
「おい、かわいそうだろ、片目にしてやれ、後で治療するから」
それから何匹ものコウモリの目を仕留めた。
「もういいだろ、これだけ正確に切れたら立派な暗殺者だよ」
「まあいいか、じゃあ帰ってこい黒帝」
デリアが光を放つとコウモリは洞窟の奥に消えて行った。
「さあお帰りはこちら、っと」
「まだあるだろ、とっておきが」
「なんのことだか分かりませんが」
「最下層にイフリートがいるだろ」
「静かに過ごさせてやれよ行くとこ行けば魔王だよあいつ。それにあれに炎の魔法で勝負する歳でもないだろ」
「適正を見たいんだよ、全開する相手が欲しいのだ」
「まったく、じゃあこっちの隠し扉から行くか」
らせん状の階段をくだって行くと大きな扉があった。
「ちゃんと厚遇しているだろ、ちょっと待ってろ、今アポとってくるから」
しばらくするとベーゼルが帰って来た。
「ちょっとなら相手してやる、って言っているから失礼の無いようにな」
部屋に入って行くと、ゆらゆらとした炎に覆われた人型の何かが出迎えて言った。
「やあルーシーにデリア、それに女神の加護を持つ者に、妖精か。変な取り合わせだな、だがマーラ殿の頼みとあらば応じなければならぬな。それでどうしたいのだ」
「この者の炎の特性を見てほしいのだ」
「女神の加護を持つ者の炎はそれほど強くないぞ、どうしてもというならやるが」
「頼むよ、イフリートの炎をどれだけ置き換えることが出来るか知りたいのさ」
「それならやろうか。妖精はこのままでも大丈夫だろう」
イフリートは右手を前に出すと大きな火球を作った、それは徐々に赤い色から青い炎にかわって行った。
「さあ、この火球にお前の作った炎をぶつけてみろ」
黒帝も右手をあげて炎をぶつけた。だが青い炎に吸い込まれるようにかき消された。しかし黒帝が集中すると炎の色は赤く変化していった。
「これは面白い、私の炎の温度が下がったか、なんと言っていいから分からないが。炎を作る魔力量は多いが、それを温度に変化させることが出来ないのか」
「温度が高くないとは青くならないと言うことか、それはなぜだ、修行してなんとかなるのか」
「人族なので高温だと体がもたないのかもしれない、修行すれば温度があがるかもしれないが、これで十分だろ」




