停滞
「すまんヴァレンティーナ、私の判断ミスだ」
皇帝は土下座してあやまった。ヴァレンティーナは土下座の意味は分からなかったが並々ならぬ謝罪であることは理解できた。
「私が腹を切ってわびるところです。なぜ皇帝さまが」
「私の人選ミスだ、軽く考えていた。切腹などする必要はない」
「切腹?日を改めてもう一度行きますか」
「いや今の王が在任中は無理だ、殺されに行くようなものだ」
ことの発端は数週間前
皇帝とヴァレンティーナは暗黒大陸の王城で話し合っていた。
「しかしえらいことになったな、東の魔女のテリトリーから次の大陸に移動するのが難しくなった」
「迂回しますか、赤道近くは未開地で、特に何かが治めているわけではなさそうですが。何物にも治められていないということは、それなりに知られていない化け物がいる可能性は高いかもしれません。
あるいは、少し時間をかけて王国をなだめるか。しかし書簡の返事では国王はかなり感情的になっているようです。土地の問題もそうですが、飼っていた龍が逃げたのはこっちのせいだと言っています。インバが逃がしたワイバーンのことだと思いますが、長い時間をかけて飼いならしたそうで愛着があるみたいです。こちらが奪還した魔女の後継者や兵士については何も言っていませんね」
「魔女の後継者や兵士を捕らえたのはすこし後ろめたいんだろう。財宝はセーレにもどさせたが、バレてないみたいだな。
まあ話し合いをしてみるか、どのみちあそこの王国は避けて通れない。誰かを使者に出すべきなんだろうがヴィオラはエイドで行ってもらっているから良い顔しないだろうし、誰がいいかな」
「私が行きましょうか」
「いきなり身分が高すぎないか、誰か逃げる魔法を使えるのをつけるか、ボイスかインバ、まあインバかな、だが料理人を使者に使うのはどうかな。レイにたのむかヴァレンティーナなら一緒に飛んで逃げることが出来る」
「私は結構重いですよ」
「・・筋肉質だからな。まあ、むこうの王様は龍が好きならインバに頼もうか、剣士として雇えばいいのだし」
「筋肉質?まあインバは応じますかね、かなり頑固ですから」
「頼んでみるよ」
意外とインバは簡単に了承して剣士としてヴァレンティーナに同行することになった。
相手を驚かさないように迎えの船で海を渡った二人だったが。
「東の魔女の城は完全に作り変えられている、特に我々が攻めてこられないように海岸線沿いに長く城壁が作られている」
「これは皇帝ならすぐ破壊できるが、それをしないように話し合うのだ」
「飛んで上陸するか」
「いや、ここからは相手の指示通りに動くのだ」
「しょうがないな、上陸用の小舟をおろさせるか」
小舟に乗って大陸に降り立ち指示通り馬車に乗って王城に入った。
「ここまで普通の国だな、ここはトリアからの方が近いのか」
「距離は同じぐらいかもしれないがトリアの向こうは小国が多いのですぐにはたどり着けないので全く知らない国だな」
「ふーん、国としての付き合いが無いのか。
龍族からも赤道付近が邪魔してほとんど情報が無いからな。
じゃあ、俺は黙って平伏して殺しに来たら切り抜けて逃げる、だな」
「ああ、よろしく頼む」
玉座の間に通されると王と配下の将軍達と貴族たちが並んでいた。ヴァレンティーナ達が下を見ながら前に進み平伏すると王が話し出した。
「お前らが、アスカムとか言う小僧の家来か。いい度胸だ、よく来たな。さあ返せ」
「はい、何をでしょう」
「この盗人どもがあ、龍をかえせと言っているんだ!」
ワイバーンを龍と言っていることにインバは少し笑ってしまった。
「分っているんだぞ、お前だろ、そこのニヤけている剣士が逃がしたんだろ」
「なにかの間違いでは、そもそも東の魔女の後継者が脱出する際に開いていたドアから逃げ出したのでは、と聞いています」
これでごまかせると思っていたのだが。
「嘘をつくな、お前に逃がしてもらった、と手紙が来ていた」
「手紙ですか、手紙が書けるのですか」
「あたりまえだろ馬鹿にするのか」
二人が顔をあげると天井に近いところにワイバーンのクビの剥製が並んでいた。インバは小声で
「そういえばワイバーンの中にも龍族と同じように人族に姿をかえられるものがいたな、あの時なんで姿を現さなかったのか」
「言ったな、もう言い訳できないぞ!」
「やっぱりな、おおかた不老長寿の薬とか言って肉を食うために飼っていたんだろう。クビをはねられる前に逃げることが出来たのなら良かった、俺に対する礼でも書いてあったか」
「・・・なんだと、自分の立場を・・」
「インバもういい、そろそろ退散するぞ。この無礼はまたあらためて・・」
「本物の龍を見たいか」
「いいから逃げるぞインバ」
「本物の龍の力を知りたいか」
「インバ!!!!!!!!!!!!!」
「分っているよ、俺はこんなことで理性を失わないさ。だがこの趣味の悪い剥製はしまつさせてもらうよ」
そういってすべての剥製を焼いてヴァレンティーナを連れて霧の中に消えて行った。
後日、王国からあらゆる呪いの言葉のしたためられた書簡が届き、賠償を求めてきた。インバはヴァレンティーナを送り届けると消えて行った。
「・・と言うことだ。状況はしばらく動かんだろう、いまのうちに結婚して子供を作ってくれ、ソフィアには私からわびておく」
「事実上の左遷だな。
そう言っても相手もいないし、どうしたものか」




