東方遠征
「ああ、ブリジッド、愛しい君。よくぞ私の誘いに応じてくれてありがとう」
ヴァレンティーナは自室にブリジッドを招き入れると抱きしめて言った。ブリジッドは目をつむって唇を差し出すとヴァレンティーナは
「あ、いや、冗談だから」
「ええ~、あたしはアリなんだけどね」
「いやいや、ところで商業ギルドの方はどうなの」
副官に就任したレイとボイスが大笑いしながら皆で抱き合った。
皇帝とソフィアが結婚して数年、帝国は東方の未開地帯の開拓に着手していた。ヴァレンティーナは東方将軍に任命されてブリジッドに商業ギルドの設置をまかせていた。ブリジッドは半分ぼやきながら
「だいぶ間延びしている感じだね、ここらへんじゃもう中央で何が起こっているかなんて誰も気にもとめていないし、文字も書けなきゃ計算もできない人ばかり。そこらへんの村とか行くと帝国が税金とりに来たって逃げ回るし、ギルドを進めると会費を嫌がるしで大騒ぎだよ」
「気長にやるしかないよ、ハイエ宰相もそう言っていたし。近いうちに無料で学校を作るから顔見知りぐらいになっておいてくれたまえ。その時効率よく利益が上がることを学べばいいさ」
海に突き当たるまでの長い行程の中間ほどに城塞都市を建設するための準備をしていたが先行きは暗かった。ヴァレンティーナは
「鉱物がとれると短期間で儲かる仕事が出来て人も集まりやすいから冒険者を集めて探させてくれ、銅、鉄、ミスリルできればアダマンタイトがとれるといいんだけどね。冒険者の給金の方は帝国が出すよ」
「ああ分かったよ冒険者も金の匂いを嗅ぎつけてこっちに来てるからね、冒険者ギルドの連中も来てるよ、こそこそとしているが。それでどこまで進んでいるんだい、あんたたちの軍隊は。海の手前では山賊とほぼ変わらん連中が集まって王国を名乗ってるし、海の向こうは暗黒大陸だよ。まさか海の向こうまで行くんじゃないだろうね」
「その連中の手前だよ、今使者が向かっている。海の向こうには行くだろう、このまま東に進んでトリアを通って皇帝のいる城まで帰るのが我々の使命だよ」
「馬鹿言うんじゃないよ、途中で亀の甲羅から落っこちるだろうよ」
「ブリジッドとはちかいうちに龍族の国に行きたいね、ブリジッドはすごく楽しめると思うよ。まあみんなで飯でも食おう」
テントの中でガツガツと飯を食いながら雑談をはじめた。ブリジッドは
「誰が交渉に行ってるんだい、言葉の使い方ひとつでクビが飛ぶかもしれないよ、あの極東の蛮族どもはえたいがしれない」
「ヴィオラですよ、ヴィオラ・アスカムだから使者としては申し分ない。それにクビを飛ばすと皇帝が国ごと消滅させる、と、噂を広めときました」
レイが言うとブリジッドは、それなら向こうでは歓待されているだろう、そう皆が話して笑っているころヴィオラは城の前で口上を述べていた。
「エイドの城の者よ、我は皇帝アスカム9世からの使者、前皇帝アスカム8世の娘であるヴィオラ・アスカムである。そちらの代表と話がしたい。門を開けられよ」
しばらく沈黙した後、門の中から
「話す必要はない。皇帝に伝えられよ、つぶしたければつぶすがいい、我々をなめていると痛い目にあうのはそっちだ。我々にはセーレ様の加護がある、中央草原に血の雨を降らせてやる」
そういうと沈黙してヴィオラの呼びかけに答えず弓矢をはなった。ヴィオラは一度距離をとってヴァレンティーナに使いをだした。
「セーレって誰だ、土着の神様かな」
「知らんな」
皆が口々にああ知らんな、と言う中、魔族のボイスが
「我々の仲間にセーレというのはいますが、誰にでも召喚されて命令を素直に受け入れるのです、まあ女官長に聞いてきましょう」
そういうと魔王城に帰って行った。ヴァレンティーナは何かを決意したようにうやうやしく短剣を取り出すと
「宰相殿から預かった秘宝の短剣を使うときが来たか」
だがすぐボイスが一人連れて帰って来たので短剣をしまった。
「こいつですね、女官長の召喚に秒で返答してきましたよ」
すこし華奢な見た目が男の魔族セーレはバツが悪そうに皆に目を合わせずに
「召喚に応じてすこしいい飯を食っていただけだ。王に会う会わないの判断をわたしがしたわけではない」
エイドの王の説得をするよう頼んだのだが
「それは難しい、私はだしに使われているだけだ。それにあいつらが怒っているのは王の妾の娘がお前らと仲のいい龍族に囚われているから意地になっているだけだ」
めんどくさいが龍族の長に解放してもらうよう皇帝にたのんでもらうことにした。しかしもう死んでいるかもしれない、そこで。
「一刻をあらそうな、龍退治をしなければならない」
ヴァレンティーナはすっかりやる気になってセーレを道案内に龍退治にむかった。




