魔王
アスカムではルーシーがマーシャにもてなされていた。神官の塔では神官見習いの少女を抱きかかえて見て回り、鳥小屋では担当しているメイドをつれてあれこれと熱心に聞いていた。特に食事には興味があるようでオークの肉が柔らかくておいしいと言って料理番の少女に頼んでつまみ食いをしていた。鳥は繁殖させるまでしばらく食べられないと聞くとがっかりしていたが卵料理は気に入って給仕をしているメイドの少女におかわりをしていた。ベーゼルが新しい家畜を導入してくれると話すと興味深く聞き入っていた。そんなこんなで数日すぎたころトリア国で騎士が魔王の容疑で捕まったことを聞いたルーシーは
「強引に連れ出さないと騎士は八つ裂きにされて動物の餌にされるでしょう。これは脅しとか最悪の場合を言っているのではなく歴史が証明していることです。
そしてこれをしかけた悪魔の力の絶大さを知った人族はさらに大きな力を求めます」
トリアでは国王が幼くまだ何も功績が無いため国民をまとめる力がなく民衆の声によって政変もありうる状態なので強引に手をだすことができなかった。トリアの宰相から騎士を助けたいと聞いたときには飛行魔法で連れ出すことも考えたが逃げ出したように国民に理解されると王家の権威が傷つく、国民の意志で追い出したようにしなければならないとハイエ宰相は言った。ルーシーはリリを膝の上にのせて抱きしめながらお菓子を食べながら
「君たちは魔物を簡単に殺すくせに人にはずいぶんと気を使うのだな。魔物も気を使って飼うとそこそこおとなしいし、なついて言うことを聞くようになる、だが魔物は魔物だすぐに裏切る。人と同じではないか」
リリみたいに魔物を膝にのせてお菓子やら紅茶を飲ませたりできるのだろうか。魔物は退治するものと思っていたのでよく理解できない
「縦型の社会と横型の社会の違いだよ・・たぶんそう、人は差が無いんだよ、・・魔物と魔族ほどの差は無い」
転生前の知識で反論したが、たぶんまとがはずれているだろう。
トリアでは宰相が世論を味方に、と言っても国民が追い出せと言っているからさっさと追い出せというネガティブなものだが、法務局を説得してヴァレンティーナとカーサを釈放させ、前の宰相を探すよう軍隊にも命令した。何か仕掛けてくるかもしれないので釈放と同時に二人を馬車にのせて国を離れることにした。家族との別れの挨拶もそこそこにソフィアも馬車に乗った。ヴァレンティーナは幻獣の猫の効果で痛みから解放されてむしろハイになっていた。メイドが猫を見てしっぽの数を数えて言った
「ソフィア様、しっぽが7本に増えているから痛みをすべて食べています。10本で限度を超えるはずなのでこのまま帝国まで行けたら痛みを感じないまま治療に入れます」
安心したソフィアは馬車から遠くなる王城の灯りを見ながらすこし感傷にひたった。
馬車とラアラたちの騎馬を騎馬隊で囲んで門まで来ると兵士が無言で馬車に花をかけて、小声でおめでとうと言った。その後ろからブリジットが叫んだ
「おいバラン、これは貸しだぞ、絶対に返せよ」
ヴァレンティーナは何も言わず包帯を巻かれた手をさっと馬車の窓にかざした。ブリジッドは返して言った
「よし、忘れたとか言うなよ、私は取り立て屋もやっているんだ」
カーサ達はこらえきれずに笑った。ブリジットは兵士たちと一緒に馬車が見えなくなるまで手を振っていた。
国境にあるアスカムの検問所で護衛をトリア軍から引き継いではじめてソフィアも一緒に来ていることに気付いた兵士は慌てて城に連絡した。ハイエ宰相はエーリッヒ将軍の部隊を迎えに送ることにして正式に入城してもらうよう大急ぎで準備にかかった。ソフィアは待つことが出来ないと伝えるとそのまま城に向け出発しようとしたが魔導団がヴァレンティーナを運ぶように手配したので待つことにした。魔導士が到着すると
「これはひどくやられましたね、神官長が受け入れ準備を整えてお待ちですはやく行きましょう」
ヴァレンティーナは一足先に城にはいることになった。遅れてエーリッヒ将軍が到着すると、出立は夜中で昼に城下に入る予定なのでもうしばらくお待ちください、と説明した。ソフィアは心配そうに、私はあまり歓迎されないのでは、と言ったが。
「それなら心配ありません、アスマス皇帝は連戦連勝、穀物も豊作でみなお祭り気分ですから。それに姫がこちらに来たがっているとみな聞いているので歓迎ムードです」
深夜用意された馬車に乗り換えて国境を出立して城下に入ると馬車に花をかけられみなから歓迎された。人々は口々に
「薄情なトリアなんぞ忘れてここで楽しく暮らせばいいさ、それにここでは保護されているから安心しろ」
「うおー、俺も魅了してくれ」
「魔王に憑依された部下がいるなら魔王を皇帝に引っ張り出してもらって殺してもらえ」
新しい生活が始まった。




